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□thirtieth.
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 ポッター兄妹とリーマスにピーターといったいつものメンバーとの教科書買いの約束の日。高貴なるブラック家の息子達といえば、一般の人間同様に久しぶりに会える友人達へ期待を膨らませていた。

足先まで行き届いた教育のお蔭で実家にいる時は走る行為を一切しない貴族らしいレギュラスなのだが、今日ばかりは違う。

着替え中の兄の部屋へと駆け込み嬉々とした表情で本日幾度目かのファッションチェックを伺いに来たのだ。


「兄さん兄さん!これ、おかしくありませんか!?変じゃないですよね?」

「……どこの世界に教科書買いに行くだけでドレスローブを着る馬鹿がいるんだよ。全部脱げ!パーティーじゃねえんだから畏まった服装なんて引かれるぞ!」 

「それは嫌です。もう……じゃあどんな服にしたら……」

「休暇中に図書室に引きこもってる時の服装で十分だって言ってるだろっ」 

 元々短気な性格であるシリウスが本領発揮とばかりに苛立ちながらもアドバイスをして用意した衣類を着こむ。その姿を見ながらもレギュラスは急に落ち込み頭を振る。

「無理です。あんな引きこもりの恰好で外を歩くならまだしもメリッサと会うなんて出来ません……」

「だー!!どうあがいても良家の坊ちゃんがクソ真面目に勉強してるスタイルの何が悪いんだッならフォーマルに決めればいいだろ!」

「フォーマル……ああ、それならいいかも。流石兄さん。地味にファッションセンスいいですよね」

 笑顔で毒を吐きスキップしながらシリウスの部屋から去っていったレギュラス。呆然とするシリウスが数秒後にリビングのシャンデリアまでも揺らす大音量を撒き散らすが、上機嫌のレギュラスには何の攻撃にもならなかった。

「っドレスローブ着てメリッサに引かれて振られちまえ!!」













 朝のいざこざはあったのだがいざ待ち合わせの場所について友人と再会すれば、負の感情というマイナスな感情は弾け飛んでしまう。

ブラック兄弟が待ち合わせの場所へついた時は待ち合わせの十分前だったがそこには既にリーマスとピーターがいた。今までの苛立ちを置き去りにシリウスが弾丸の如く二人へじゃれ付き喜びの声をあげた。

やれ背が伸びただのピーターが一番最後に遅れてくると思っただの。途中ピーターに文句を言われていたがそれでもシリウスはヘラヘラと笑い軽い謝罪をかけていた。


 そんな兄の姿を見ながらもレギュラスは舞い上がる自分の気持ちを抑え付けて、緩んだ表情筋を正す事も無く先輩二人に挨拶をすると二人は目を見合わせ小さく笑う。

「どうしたのレギュラス。すごく嬉しそうな顔してるけどメリッサに会えるのが楽しみなの?」

「そうだよね。シリウスが僕達に会えた反応と同じことをメリッサにしてしまうんだ。これってブラック家の血筋なんだろうね」

「……そんなに酷い顔してます?メリッサが来るまでに何とかしないといけません」 

 慌てて顔を隠すように手で覆えばシリウスの呆れ返った態度がレギュラスの今日への気合の入り方をあっさりと晒していく。

まさかの身内の裏切りにレギュラスは絶句し顔を覆う手から力が抜けてしまうが、ピーターとリーマスの妙に納得した重なる声に見えない暴力を食らった気分にもなる。

「そんなの無理だぜ。こいつ今日起きてからずっとそのにやけっぱなしの顔でいるんだ。それに俺を叩き起こしてのファッションショーなんてしちまうくらいだし?」

「……本気でメリッサに会えるの楽しみにしてたんだね。その、レギュラスらしいよ」

 いっそのこと完全否定して欲しいくらいの生暖かい目がレギュラスに突き刺さり頭の中が真っ白になる。本日のレギュラスコーデは頭から足元まで完全シリウス監修の元仕上がっているのだ。

どうあがいてもメリッサに自身をよく見て貰いたいという強い思いが反映された仕上がりを、思いごと汲み取ってしまった先輩方にレギュラスは羞恥心で赤面するしか出来ない。

文句の一つも紡げず「初恋が実るといいね」「最大の敵は間違いなくジェームズだ」「レギュラスなら何とかなる気がするけど」と好き放題言い散らかす三人にレギュラスは体を縮こまらせ存在感を消そうと努力する。


 そんなやりとりをしていると約束の時間へと最寄りの時計のモニュメントの針が動く。するとバタバタと朝のレギュラスの足音並に騒がしい足音が重なり近付いてくる。

四人が会話を中断して騒がしい足音の方をみればジェームズがメリッサの手を引き四人へと元気いっぱいに手を振り輪の中へと滑り込む。

少々息が上がったままジェームズが緩い謝罪をする声を聞き流すほど、レギュラスは私服姿のメリッサを魅入る。頭上で飛び交うやりとりが悪戯仕掛け人を取り込むのを耳に情報として入るが、そんなことよりも。


 ジェームズよりも体力が無く肩で息をしていたメリッサが落ち着いたらしく一度深い深呼吸をして、ちらりとレギュラスを見て驚いた後に兄と結ぶ手をそっと外し、すす……と近付き約二ヶ月ぶりの笑みを向ける。

にぱっと効果音がつきそうなあどけない子供らしい笑顔は彼女が身に纏う服のように何処までも穢れが無い。

レギュラスの心に焼き付いて離れない白さから目が離せずに、耳打ちするような声で今日の努力を掬い上げてくれるメリッサの一挙一動にレギュラスの心臓が敏感に反応して苦しかった。


「レギュラス君大人っぽくて恰好良いね」

「、メリッサは天使みたいに白くて、可愛いです」

「なぁにそれ?ただのワンピースなのに天使に見えてしまうの?」


 不思議そうに目を丸くする彼女は自分の身に纏う一点の曇りが無い白のワンピースを見下ろし、くるりとその場で一回転する。

同時に膝下丈のスカートが僅かに持ち上がり膝上をちらりと覗かせ、直視してしまったレギュラスは思わず耳まで熱が灯るのを感じ緩みそうな口元に手の甲をあて、平常心を取り戻そうと震える息を吐く。

嫌に熱い吐息はレギュラスのメリッサの想いのよう。姿は見えなくても確かに存在している熱いもの。 


(駄目だな僕、すごく……意識してしまう。私服なんて片手で足りる位しか見た事が無いから、馬鹿みたいに反応してしまうや)






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