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□twenty-ninth.
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 朝の時間帯に漂う香ばしい香りがポッター家の胃袋を鼻から刺激していく。

一枚の皿に目玉焼きにカリッと焼かれたソーセージに同じく焼かれ縮んだマッシュルーム、ベイクドビーンズにハッシュドポテト。

それに火が通ったトマトとベーコン。三角に切られたトーストまでも綺麗な焦げ色がついたものが並ぶ。


 最高にそそる朝食にジェームズはごくりと食欲を抑えきれずに唾を飲み、隣に座るメリッサさえも眠気を吹き飛ばして母特製の朝食に目を輝かせた。

そんな子供達の様子に両親はクスクスと笑い全員分の用意が整うと、胃袋を満たし幸せを振り撒く朝食が始まる。

夏休みももう終盤に差し掛かる最高の朝に……一羽の梟がポッター家の窓をつつくまで、各々が嗅ぐだけで涎の溢れそうになる美味しい母の手料理に頬を緩ませ会話に華を咲かせ続けた。




 皿もすっかり空になり今日の遊びの予定を立てようとした時だった。

カツカツ。窓を白い梟が嘴で叩きつけ開ける事を訴える音に気付き、ジェームズは羽が生えたように俊敏な動きで招き入れ手紙を複数枚受け取る。

すると用はないと背で語るように梟は颯爽と雲の切れ間まで飛び立ち見えなくなった。

窓を閉め分厚く少々重みのある黄色がかった羊皮紙の封筒に記載されたジェームズとメリッサ宛ての手紙を持ち、ハシバミ色の瞳に歓喜の煌めきを灯らせた。

「ホグワーツからだ!ほらっメリッサ、君にも……あれ?」

 ジェームズ宛てとメリッサ宛て。確かに二通ホグワーツの蝋までされた手紙が届いたが、それともう一通の手紙にジェームズは疑問の声をあげた。

その声につられメリッサが慌ただしく近付きジェームズのマネをするように手紙へ視線を落とす。四つのハシバミ色の瞳が見下ろす先にあるのは……もう一通のメリッサ宛ての手紙。

裏返してみるとホグワーツの蝋が記載されているので二人は顔を見合わせて眉を顰めた。

「先生方が間違えて送ったのかしら?」

「これは魔法で生徒に決められた数の手紙を作っている筈だよ。変だな、あの先生方がこんな間違いをするかい?ありえないよ」

 念の為父に妙な魔法や怪しげな闇の魔術や悪戯魔法がかかっていないか確認して貰うが、分かったのは至って普通の手紙だということ。

本当に間違えて送ったのだろうか。ジェームズが未だ消えない疑問に厳しい顔をしているが、送られた張本人は悪戯魔法でも無いと分かった途端に疑問を投げ捨て、何の躊躇も無くペーパーナイフで開いていた。

黄色い羊皮紙の手紙の中から出てきたのは一枚のカードと……随分と年季の入る持つだけで錆がついてしまいそうな、贈り物としては最低レベルの真鍮製の茶色の鍵が現れた。


 メリッサの真白な手にその鍵があるだけで元の色さえくすんで分かり辛い鍵は、酷く惨めに見えた。その鍵を覗き込みジェームズは送り主であるホグワーツがどうかしてしまったと思う。

顔を顰め嫌そうな声をあげる兄の横で、一人だけ破顔し感極まる声をあげたメリッサにジェームズは耳を疑った。

「わあ!素敵な鍵ね。金色よお兄ちゃんっ」

「……金色?こんな茶色の鍵をメリッサの好きな金色というのかい?」

「茶色じゃないわよ。とても鮮やかでキラキラしてる……そう、スニッチの色そっくり」

 見るからに手入れのされていない鍵を光に翳し、うっとりと言うメリッサ。魅入ってはいけないモノを見ている眼差しにジェームズは緩く頭を振り呆れて言う。

「……傍から見れば最低の贈り物だけどメリッサにはそうじゃないんだね。まあそれを大事にするのはいいけど他からは見えないようにした方がいいよ。聖マンゴ病院に連れていかれるからね」

「うーん。じゃあ制服の下に隠していればいいわよね」

「本気で身に付けて過ごすつもりかい?驚いた。どうしてそんなに気に入ったんだい?」

 鍵からジェームズへと向けて呆けた表情を浮かべるメリッサは、自分でも不思議そうに小首を傾げる。彼女の中でも答えは出ないようで考え込む。

そんな彼女の手から同封されていたカードを抜き取るとたった数行しか書かれていないカードの内容を読み、ジェームズは不信感でいっぱいになる。

何を考えて自分の大切な妹にこんな物を送り付けてきたんだ。純血主義のスリザリン生がマグルや穢れた血を嘲る眼差しと同じものをカードと鍵に向けると、ジェームズはメリッサの一年間が心配でならない。


 たとえ冷静なレギュラスが居たにしても何か危険なことを仕出かすのではと……普段派手な学校生活を送っているジェームズからは言われたくない事まで考えてしまう。

考え込むメリッサは無垢で無知で幼気なただの女の子だ。そんな彼女を”選ばれたもの”として称するなどジェームズには到底受け入れがたい物だった。

この夏休み期間でより一層大人へと近付き手の甲にも男らしく筋が浮き出てきた手を握り締めると、カードが少しだけ曲がってしまった。



ーー本質を見抜く慧眼を持つ友へ。

ーーこれはあなたが持つべき物だ。決して無くさずに役目を終えるまで何度でも鍵の導くまま、鍵穴へと通し回しなさい。

ーー誰にも成し得ない高みへと昇降するあなたを応援し、線を越えた時に喜び合う一人の紳士として、魔法の鍵を贈呈しよう。


ーー友より


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