文豪ストレイドッグス
□苦い世界でテメエとダンスを
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「芥川…小夜は最初からあんな感じだったか」
見えなくなった彼女を睨むように扉を見る中原の言葉に、芥川は咳を零す
目の前で背を向ける幹部である中原に咳を直接かけまいと口に当てる手をそのままに、普段よりも血の気が引いた死人同等の顔色で興奮を切り捨てた彼は淡々と返す
「違いますよ。入りたての頃は能面の様に無表情で、敬語も使えないけど命令に従順だったと覚えています」
「だよなァ…なら俺にああなったのはいつからだったか分かるか」
随分昔の話を掘り返している中原の意図は読めない。だが芥川には中原が小夜の身辺を洗っているような感覚に短い眉を寄せる
幹部である中原を弄り倒し怒りを買っている小夜を疑っているような声色に、芥川は彼が求める答えを知りながらも遠ざけてしまえと小夜が囁いた気がした
小夜ならそういうだろう。口元を隠しているのを良い事に薄く笑う。中々返事が返ってこない事に苛立ったように振り返る中原の姿に無表情へと戻し、ゆるく首を横に振る
友人関係である芥川ですら分からないのかと中原が疎ましそうに舌打ちをした。大分苛立っているのだろう
小夜に見せるならまだしも直属の部下でもない、彼が心底嫌う太宰の元部下である芥川にそんな姿を見せるのは中原がそれほどまでに追い詰められているのだろうか
こほ、こほっと咳をした芥川は彼の性格上こみいった話には口を出す人間では無い。自分よりも上の人間に聞かれたことだけを返す
そういう人間だと一応知っていた中原は罰が悪そうに「引き留めて悪かった。医務室に送る」と早口言い、一足早くこの場を去ろうとしていた
だから…芥川に自ら問いを投げつけられた事に中原は心底驚いた。実は芥川が小夜なのではないのかと一瞬勘繰ってしまうほど動揺し慌てて芥川を見る
相変わらずの光の無い黒眼と無表情はまさに芥川。彼の意思によって紡がれたのだと察するに時間は必要なかった
「ーー小夜を疑っておられるのですか」
「、…どう、だろうなァ…」
「先程の質問から考えるに彼女が中原さんに反抗的なのがお気に召さない。それが原因ですか」
「それもある。だが積み重なって思うところも色々あるっつーのがな…起因は正直俺でも分からねえよ」
洒落た帽子から零れる明るめの茶髪を首筋から胸へと流している長めのソレを指に巻き付け弄る中原は、苛立ちを潜め芥川の気まぐれな問いに答えることを決めた
中原にしては中途半端というか曖昧な表現で零した本音。溜息まじりの答えは断言に欠けており中原自身戸惑っている様子にもとれた
(中原さんを説得するにはどうすれば良いのか。僕の知っている小夜の情報を流せば少しは客観的に見れる余裕が出来るだろうか…貸し一つだ小夜)
勝手に貸し一つと決め込んだ芥川は口元を隠す手を外し、疑いのかかる彼女の弁護を開始する
「中原さんの一番の部下である小夜を、中原さんはどう思うのですか?」
「は?どうって…糞生意気でサボリ魔。俺の部屋にアイツの私物置きまくりだし俺に部屋の掃除させるし、とんでもねえ奴だ」
「………そうなのですか?」
「なんだ芥川は知らないのかよ。多分テメエでも根を上げるぜ…ハァ。俺だって部下じゃなきゃ面倒見ねえっつの」
思わず絶句する芥川。小夜の部屋が汚すぎる…いや人間としてどうかと思うレベルなのは知っていたが、まさかそれを掃除していたのが中原だったとは
反抗的というよりは上司を使いパシリ…ごほん。幾ら芥川でもこれ以上は口に出すとなれば生死にかかわる
必死にその考えを飲み下し、眉を寄せ深い眉間の皺を作っている中原の苦労に同情を寄せた
「それは、大変ですね。先程もベッドを血濡れにされた経験があるとか…」
「そうなんだよ!!芥川も想像してみろ、部下にアイツみたいのがいることを…!任務以上に疲れんだぞ。毎回人の事怒らせやがって…!」
「ーーでは何故部下から外さないのですか」
機関銃さながらに小夜の愚痴を垂れ流す中原の言葉が不自然に途切れた。瞬きを最初から知らないように見開く中原だったが、逃げるように顔を逸らした
それは聞くな。そんな雰囲気までも醸し出す彼に優しくする程中原と交友関係が深い訳でも無い芥川は小夜の為に追い詰める
「アナタの一存で簡単に避けられる事柄だと知っている筈です。それでも何年も手元に置いているのは手放したくないからでは?」
「……」
「確かに中原さんにとっては迷惑行為を行う傍迷惑な部下でしょう。それでもーー小夜がアナタを裏切った事など無い筈です」
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