文豪ストレイドッグス

□苦い世界でテメエとダンスを
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マフィアが任務外にすることと言えば酒や女、賭博などに浸り溜まりに溜まったストレスを吐き出す事だろう

元々男社会である裏社会ではそういったものにハマる連中は星の数ほどいる。そして軽減したストレスのまま任務へと赴き人を殺し、またストレスを吐き出す循環が出来ている

人を殺すことに躊躇がある新人や優しい奴なんかは現実逃避に近いかもしれない。まあそういう奴は長生きはしない。心も体も壊れて息絶えていく…そんな世界だ


小夜の上司である中原中也は酒にハマるタイプだ。次いで女。だが酒に溺れる傾向が強い方だろう

そして彼の直属の部下である朝霧小夜は上記にあげたもので彼女のストレス発散は出来ない

酒も男も賭け事も無くても生きていけると豪語したら中原に本気で引かれた顔をされ「お前は人間じゃない」とまで言われたのだ


だが少なくとも小夜の様な人間もポートマフィア内にもいる。珍しく休日が被ったのでとある人物とストレス発散へといく約束を取り付けた

拠点の地下に複数存在する内の最も頑丈で巨大なスペース…床も天井もすべて特注の素材で作られたそこは異能力者専用の鍛錬場だ。そこが目的地である


小夜が休日にも関わらず仕事着を着こみ、雀が騒ぎ出す早朝に部屋を飛び出し鍛錬場へ元気よく駆け込めば、お目当ての人物が既におり小夜は謝りながらも近付いていく

軽い謝罪の声に反応した二人組は振り返る。黒髪の若い男は口に手をあて咳き込み、もう一人の女性は金髪のお団子ヘアーを揺らし丁寧に頭を下げ挨拶をしてくる


「すみません。遅れましたか」

「おはようございます…いえ我々が早く来すぎただけです。お気になさらず…小夜さん」

「ごほ、こほ…小夜、いいから早く死合おう(しあおう)」

気管支が弱くよく咳をする細身の男は体型とは似合わず、光の無い眼をギラギラと飢えた獣のように光らせ殺し合おうと朝の挨拶よりも先に言う

金髪の女性…樋口が上司である男を嗜めようと口を開く前に誘われた小夜もまた、同じような眼に変化し笑みが狂気を帯びる

小夜が笑いを深くすればそれだけ殺気が溢れ、男…芥川龍之介も無表情を僅かに緩ませ心地よさそうに殺気を向け、二つの殺気が混じり空気が変わった


ピリピリと肌を刺す不可視の殺気は近距離にいる樋口まで飲み込もうとする。避けなければならない。このままでは死合いをする二人に巻き込まれる

分かっていても樋口の足は床から生えたように動けず、殺気になれた筈の体は体の芯から冷え震えが止まらない。動けば殺される

本能的に樋口はそう思う。だが彼女の敬愛する上司の普段より高揚する淡々とした声がかかり、呪縛から解き放たれる

「邪魔だ樋口…僕(やつがれ)達の能力が届かない所へ行け…五秒だけ、待つ」


弾かれたように顔をあげた樋口は悔しそうな顔を見せるものの命じられた通りに走って避難する

異能力者である樋口の上司と同類の小夜はお互いに視線を逸らさぬまま、相手の急所をどう噛み千切ってやろうかと腹の中で舌なめずりをしていた


樋口の走り去る音が広い鍛錬場には響く

その足音が止まった…樋口の避難が完了したのを察知した小夜が地面を蹴り一瞬で芥川の顔を蹴り付け、素早く顔を横に倒し回避した芥川が異能力を発動させ…死合いが始まる




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