文豪ストレイドッグス

□苦い世界でテメエとダンスを
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闇社会の人間は一般人と比べれば昼夜逆転生活を送っていると枠組みされるだろう

実際先日の任務を終わらせ報告書を纏める作業を仕上げた時点で、自身を溶かす勢いの朝日が水平線を軽く飛び越えていたのだから


直視するどころか視界に収めた時点で溶けそうな眩しさに反射的にカーテンを隙間さえ作らずに閉め直す

じりじりと星が散る視界を感じる度に小夜は自分は闇社会の人間だと感じる。やはり光さえ届かない暗い夜道の方がホッと息がつけるのだ


サボリの罰として腹部に重たい一撃を貰った上に報告書の提出を命じられた。その上オムライスは罰が終わるまでお預けだという

「なんて酷い上司なんでしょうか…自分は今頃夢の中だなんてズルすぎます」

本人がいてもいなくても文句を垂れる小夜は眠気も相俟って非常に不機嫌だった。ズルリズルリと下がる瞼と幾度も好戦し漸く報告書を事務員に提出を遂げた

そのくせ口元は笑みを繕ったままなので事務員が引いていたが心底どうでもいい。寝たいのだ



拠点で一泊した後数日後にはまた任務で旅立つ生活をしていれば性別関係なく多少部屋は荒れる…それか生活感の無い簡素な部屋になるか、だ

小夜の場合は間違いなく前者だ。これは中原も彼女の能力を認めるより前に認めざるを得なかった、そんなレベルの部屋の扉をゆっくり開く


寝ぼけた小夜の狭い視界いっぱいに映るのは先日の任務でアスファルト中に敷かれた血の絨毯とはまた違うもの

脱ぎ捨てられた服。食べかけのお菓子や散乱するゴミの波間からはどっかから拾ってきた銅像まで埋まっているのが見える


ゴミの絨毯が足の踏み場も無いほどに小夜の部屋を埋め尽くし、ベッドがどこにあるのかさえ見えない酷い有様だ

辛うじて助かったのは酷い光景に比例するような匂いが無いことだろうか。もしかしたら寝ぼけた小夜がそういう能力をしたお蔭かもしれない


玄関に立ち尽す小夜はふらりと回れ右をして何事も無かったように扉を閉めた。ひとつ笑みを浮かべ目指す場所へとフラフラと歩き出す

余談だが彼女の部屋を見たモノが百年の恋も冷める部屋と噂を立てた。中原は真顔で頷いてみせたのは何年も前の話である

そんな彼に罰が下ったのかもしれない。いま…反抗的な狗が這い寄っていくとは気付かず眠り続ける中原が驚くのは眼が覚めるまでのお楽しみだろう








ーー温い。自分の体温を吸う布団が温かいのはわかるがそれ以上に熱いものが中原の腕の中で丸まっていた

寝ぼけた中原がぼやーっとその何かを布団の中を手探りで形を確かめていく


するりと指の隙間から零れ落ちる艶々とする長い物を通り過ぎれば、掌に直に伝わる柔くしっとりと吸い付く温度を持った感触

絶妙な気持ちよさは癖になる。むにむにと揉んでいてハッと中原は眼が覚め、この肌の感触の答えを頭が弾き出してしまう


ーー女だ。まさか昨日連れ込んだか…いや待て。昨日は泥酔もせずにひとりで寝た筈…ならば


一瞬娼婦でも連れ込んだかと想像するがそれよりも性質の悪い女が過去に殺した人間の人数並に中原のベッドへ忍び込む事があった

つい数週間前に綺麗になった筈の小夜の自室で寝ていないということは…つまり


中原はどうして彼女がこの場にいるか理解して大袈裟に溜息を吐く。全身の力が抜け彼女の頬を摘まんでいた手も温いベットの上に落ちてしまう程彼はがっかりしていた

「折角の休日が…小夜の部屋掃除なんて、勘弁してくれ」

中原の嘆きが聞こえない程人のベッドで寝入ってる小夜はスヨスヨと腑抜けた寝息を立て寝続けた





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