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□オリオンのままに 41Q
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ぴーっ集合!

「今日の体育の授業では男子はバスケ。女子はバレーだ。以上、怪我するなよ」


いかにもな体型の体育教師がピチピチのジャージを着て指示を出す

見たくない所も浮き出て見える為多くの生徒が視線を逸らすが、運悪く直視した青峰が吹き出しそうになるのを必死に堪えてる

漸く解散となった途端に床で転げまわる青峰にアキラと緑間は無言で軽い蹴りを入れた


「痛ッ地味に痛え!」

「お前あの教師見る度に吹き出すのはやめるのだよ!俺達が男のスリーサイズが目視でわかることに絶望してるというのに…!」

「あれでキスマークがついてあった日には赤飯送ってやろうぜと、クラスの連中が言ってたのに同意した俺の気持ちが分かってたまるか!」

「後半お前等の私怨だろうがっいてて悪い悪いのは俺でしたァァ!」


サッカーボールになる前に謝罪で私怨を潜り抜けた青峰の頭には、既にバスケの事しか無く鼻歌がでそうな程機嫌がいい

それすらクラスが一緒になってから毎度の事で、大好きなボールを追いかける犬の様に先へいく青峰の背を見つめ、溜息まじりに語るのも毎度のことだ


「まったく青峰は…これだから青峰なのだよ」

「シン。意味わかんねえよそれ」

「…その、なんだ。アキラもだが、好きなものがかかるとお前等はまっすぐだろう?」

「あ?あー、まあな」


赤司や黒子の事、バスケの事がサラッと頭をよぎり、それらに嘘をつく姿勢を見せない自分をまっすぐと称された事が、なんだか気恥ずかしい

誤魔化すように掌を首の後ろにあてそのまま髪に指を通し力無く落とす


「別に悪いとは言わんが熱くなりすぎて手が付けられなくなると、俺に声がかかるようになってきただろう?」

「シンは怒りながらも冷静だからな。適役だろうし」

「それが当たり前になってきたのが、その…」


眼鏡のブリッジを上げ言葉をうやむやにする緑間。心なしか恥ずかしそうに顔を下げてるのを見つけアキラは微笑ましくなる

突拍子も無く緑間の肩を抱き、それとなく止まっていた歩みを進める。心底びっくりしたらしく動揺を隠せない態度がまた、笑いを誘う


「おまっアキラ!」

「ふは…っあーはいはい。シンはそれが妙に恥ずかしくも嬉しくて仕方ないと」

「誰もそこまで言ってないだろうっあとそのニヤけた笑いはやめろ」

「なんだよ。嫌なのか?」


この関係が。頼りにされていることが


案に含む意味を察した緑間はフン、と顔を背け少しだけ荒くアキラの肩を抱き返す

初めてあった時はこうして肩も抱き合う事は物理的にも難しかったというのに、今では容易く返せる距離にいる

感慨深い気持ちが沸々と湧き、言葉にまで現れるがそれを共感できる関係というのも、悪くない


「俺等も随分変わったモンだな」

「それには同意する。特にアキラが変わったのだよ」

「俺?」

「…お前は普段はヘラヘラと軽い口調で愛想を振り撒いてるだろ。それが本性だと前まで思っていたのだよ」


綺麗な女がいれば教師、生徒問わずにベッラベッラと声をかけている日々は現在進行形だ

だがその中で緑間は気付いた。彼の「好き」に向き合う態度を見ていた、ほかの連中もだろうが


「でも違った。アキラのそれは取り繕った物だな。嫌われないようにそうする奴は多いが、お前は少し毛色が違う」

「毛色、ね」

「ーーまるで誰かのマネをしてるような、その人の影を追い続けてるように感じる時がある」


一瞬、アキラの足が止まり直ぐに速度を取り戻す

互いの肩を寄せ合う距離にいる緑間が気付かない訳がない。だが何も言わず視線を逸らした

指摘された本人がどんな表情を浮かべてても、緑間が思うことは変わらないからだ


「それが誰なのかなど俺は興味など無い。聞くつもりも無い。アキラを追い詰める気持ちなど、青峰の脳みそより小さいのだよ」

「はは。大輝がシンの胸倉掴んで凄むのが眼に見える…そうか、いや…無自覚では無いんだが、気付いたらそうなってた。それが今も表面化してるのが現状だな」

「そうか。それを外す時がいつか自覚はあるか」


アキラは空いてる手を顎にあて記憶を辿る

緑間が言う言葉はつまり、取り繕ってない本来のアキラを晒してる時を問うている

実際考える時間は必要なくサラッと答えれば、満足そうに微笑む緑間がなんだか可笑しく見えた


「バスケ関係だな。仲間しかりプレイしかり」

「流石だな。その条件下に俺達が入ってる事でアキラの本性が見れてる今が、嬉しいと思う」

「…おう」

「お前が本性を晒して、赤司達も合わされば煩くてたまらん。だが去年よりも一層騒がしくても決して嫌じゃないのだよ」

「……おう」

「俺もだが…皆がそれぞれ変わっていくとしても本質は変わらん。俺が好む奴等が…、アキラ?」


こうもストレートに伝えてくる緑間に妙な気恥ずかしい気持ちと、素直すぎる口上にアキラは自身の影響力が怖くなっていた


(外国産のストレートに気持ちを伝えるのがコイツ等に移った?悪い事では無いのに悪い事をしたような…妙な気分だ)


急に頭を抱えだしたアキラが何だか深刻そうに考え込んでいるのを見つけ、数分前にニヤニヤしながら言われた言葉をそっくりそのまま返す

ニヤリと意地の悪い笑みをする人がまた増えたと地味にショックを受けるアキラをよそに、緑間は仕返しの意を含め聞き返す



「…なんだ。嫌なのか?」

「いいや。好きだぜ、お前等のすべてが」

「……」


サラリと返された本音に不意打ちを食らう緑間

考え込んでいた顔から一転、憑き物が落ちたようにすっきりした顔がまっすぐ前を向いている


そのまま緑間の視線を気にもせずに悠々と歩き続け、大声で二人を呼ぶ青峰に手を振るアキラからそっと緑間は視線を外した

ブリッジをあげ、もごもごと言葉にならない思いを零すのを肩を軽く叩き、慰める手腕にまた思うのだ


(かなわないのだよ…)



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