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□オリオンのままに 33Q
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校庭の桜並木がパッと模様替えをして、鮮やかな桃色を纏う穏やかなある日
帝光中二年生となった藍澤アキラは唖然とした表情を隠さず、震える手で自分の名前を指差し絶叫した
「なんでボクと一緒じゃないのおおおッ征ちゃああああああんん」
「うるさっ俺までブラックリスト入りしたからに決まってるだろ!」
ーー
・藍澤アキラへの抑止力ではあるが便乗しサボリや無断欠席が目立つ
・彼の笑みを直視した者の内九割は救急車騒ぎになる為教師陣も気を付けよ
(なお被害者の生徒にきけばモエシヌと訳の分からない言葉を発してる)
ブラックリストNO.42
以上赤司征十郎項目より抜粋
ーーー
通常、生徒には非公開のブラックリストが何故か流出してる事実に教頭の頭皮に深刻なダメージを与えてるのは皆の周知のことだ
耳を抑えしかめっ面を晒す赤司と動揺でクラス分けの紙に穴をあけたアキラからザッと人が引き、二人を中心に無人の輪ができる
同時に突き刺さる熱い視線と携帯のカメラ起動音など二人には些細なことだ。慣れって怖い
「品行方正を地でいく俺が…」
「淫行放精ね。確かに地でイってるンバッ!?」
ダスンッ
殴打音にしては鈍すぎる音がアキラの腹部から奏でられる。患部を抑え蹲る恋人の背に容赦なく座り脚を組む姿は、まさに女帝
赤司の女帝スタイルに腐の民の無音撮影は唸り、一般男子生徒は口元を上げ血の海に溺れた
後の帝光にも受け継がれる『女帝伝説』の始まりである
「まったく…ん?俺は黒子と紫原と同じクラスみたいだな」
「ええ!?ボクは、ボクの天使…は征ちゃんに盗られたから、あと残ってるのは無駄に背が高い奴等だけじゃん…うわぁ」
「うわぁ、はコチラの台詞なのだよ」
人混みを越え二人の側に近寄った緑間は、ハーメルンの笛吹きといわんばかりにキセキの世代を引き連れてきた
一気に周囲との身長格差と顔面格差が勃発し心無しか黒子からギリギリと歯軋りが聴こえ視線をそちらに向ける
「なんだ。お前達無駄に背が高くて腹が立つ(おはよう。皆クラスがバラバラにならなくてよかったね)」
「征ちゃん、本音と建て前が逆…よっと、」
椅子係がのろのろと立ち上がり赤司は溜息を吐きつつ退け、今度こそ建前の方を笑顔で告げた
眼鏡のブリッジをあげつつ欠伸が移った様に溜息をひとつ。言い難そうに緑間は口を開く
「問題発生なのだよ。コイツの名前がクラス分けに無かったのだよ…ホラ、いつまで人の後ろに隠れてる。自分で説明しろ」
どこかの教育ママのように背後に隠れてるつもりの奴に言葉の鞭を浴びせ、肩で呼吸をし顔を腕で隠してる奴がフラフラと出てきた
浅黒い肌に白い制服…ここまでくれば誰か分かるだろう。滅多に聞かない嗚咽と鼻を啜る音を聞きながら赤司とアキラは顔を見合わせ青峰に近付く
「どうした青峰…ああ、泣くな。大丈夫だから」
「そうそう。ボク達がいれば大抵なんとかなるからさ」
ボソッと緑間が「権力でな」と呟いたのを黒子は小声で「彼等自身の権力ですよ」と付け足しておいた
アキラが青峰の肩を抱き軽く手をポンポンとあやす手付きで叩き、地面を見て項垂れる頭を赤司が安心させる笑みで撫で付ける
中学男子にしてはスキンシップが激しめだが、キセキ達にとってはこれが当たり前なのだ。腐の民の萌えゲージを無意識に昂らせる彼等は永遠にカップリング戦争から逃れる術は無い
萌え滾る腐の民をよそに、嗚咽をがんばって噛み殺す青峰の言葉を聞き出し、再び顔を合わせ違和感を討論し始める
「いくら私立とはいえ日本では留年措置は特例以外認められてない筈だ」
「らしいね。病気で出席日数が足りなかった記憶は?」
ふるふると首を横に振られ緑間に「毎日会っていただろう!」とキレ気味に突っ込まれる
突然の罵倒すらスルーして泣き続ける青峰の髪をくしゃりと白い赤司の手が撫ぜる。人の髪を撫でるのが中々お好きな様で可愛らしい笑みが漏れてしまう
「ふふ…ッハ!」
「…セイジュ。後で話がある、な?」
笑顔な筈なのに眼が笑っていないアキラに見ていた腐の民の背筋がゾゾッと寒気が走る。垣間見える俺様ぶりに興奮したMの方は少なくない
その点、赤司はときめいてる。顔をパァァと明るくし弾んだ声で「うん!」と返し青峰から離れアキラの腕へ絡みつく
ゴロゴロと喉を鳴らす猫のように絡む可愛い子の髪にひとつキスを落とせば最早二人の世界
巻き込まれてる青峰が可哀相だと同情した緑間が二人から引き離し、鼻血を流す黒子と共に問題解決へと踏み込む
「ダメなのだよ。アイツ等がああなったら俺達の言葉など聞かん」
「そうですね。ほんとうにギャップって最高だと僕も思います」
「……っ、スッ」
泣いてる青峰が無言で緑間のズボンからハンカチを取り出し黒子へ差し出す
ギョッとする緑間をそのままに黒子も引き寄せられるままハンカチを受け取り鼻にあてる
「!???お、おれの、ラッキーアイテムの白いハンカチが…赤に…赤に!」
ラッキーアイテムも意味を成さない悲劇。ショックに膝をつく緑間も青峰同様泣き喚いてしまいたい
ちょんちょん
「……」
ちょんちょん
「やめるのだよ…紫原」
大柄な妖精が膝をおり屈みこみ緑間の腕をつついてくる。若干面白そうにつつかれ腹が立つ
自信満々気に告げられた言葉に思わず怒りが吹き飛ぶ程驚くとは思いもせずにジト目で睨む
「峰ちんの名前あったよー?」
皆の視線が紫原に集中し、指差された箇所を見れば用紙に不自然な拳ひとつ分の穴があいている
ととと、と近付き穴を手で戻せば「青峰大輝」…ついでに言えばアキラと緑間が同クラスである
「ねー?よかったじゃん留年してなくてー」
青峰涙腺崩壊。最早何を言ってるのか解読できない程だが、黒子に血塗れのハンカチで顔を拭かれ発狂してるようだ
「いや、まて。根本的な原因を作ったのは……」
紫原と緑間の視線を受け真犯人はフッと笑い赤司の肩をポンと叩く
優しい声色で何をいうかと思えば
「…そうだぜ。悪い事したら謝まんなきゃな…セイジュ?」
容赦なく恋人へ罪を擦り付け代弁を頼む。一瞬ビックリしたがすぐに困った笑みを浮かべ二人に軽く頭を下げる
「…ごめんなさい?」
良妻臭が漂う赤司に謝られると言い返したい気持ちも自然と萎んでしまう
計画成功とばかり赤司のこめかみにキスをするアキラを見ても同様だ
緑間が折れるしか事態の収拾がつかない。僅か一年で熟知してる術は万能である
なんとも言えないカオスな空気になってしまった救いがふと手を伸ばす。そんな錯覚に緑間のみ陥った
《バスケ部所属の藍澤、赤司、青峰、黒子、緑間、紫原の6名!至急職員室にくるように…クラス発表で騒ぎを起こすんじゃない!まったく!》
ストレスフルでまともな思考が働かない緑間の眼は輝き、クラウチングスタートを切って誰よりも早くこの場から離れていった
去年通り、カオスな新学期が始まった