テイルズオブディスティニー

□Look at me
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 出会う筈の無い時代の人間達とハルは旅をしていたらしい。

今から丁度十八年後の世界にはハルは何故か生きておらず、神に蘇させられ、世界の歴史が改変される危機を仲間と乗り越えた。

ハル自身を蘇させた神と敵対し、その神を生みだした根本たる神をも倒し……神によってなくなりかけた世界と歴史は、人類はおろか仲間達の記憶にも残らない形で全てが元通りになった……らしいが。

「これが一度目の出会いと別れ。本来だったらそれで終わりだった筈なんだけど、もう数えきれないくらい私達は出会っているの」

 彼女は苦笑する。

「信じられないって顔をしているわ。そうね……この記憶は私の物だけど、ハルには事実だった証拠にはならない。それでもね」

 本はそっと閉じられた。天井に映される映像は止まらない。ハルは少女の言い分に不快感を感じ、眉を寄せた。

「あなたは大事な仲間なの。今度こそ幸せになってほしい。ハルは一人じゃないから、あなたを何より大切に思う彼と……」

「あのさぁ」

 薄っぺらく感じてしまう言葉を噛み千切った。噛み千切られた感触が脳に戻り切らない呆けたような顔をする少女をハルは睨み付ける。

「君がボクをどこまで知っているかは知らないけれど、ボクの気持ちを無視して幸せを願うなんて……どうかしているよ。君の自己満足の為にボクを利用するのはやめてよね」

 ーーそういうの、迷惑なんだよ。

 ハルは躊躇無く言い放つ。一片の嘘が見られない心からの笑顔が似合っていた少女は泣いてしまうだろうとハルは思っていた。

しかし少女は、口元を手で覆った直後に漏らしたのは嗚咽では無く、笑い声だった。その反応にハル自身が面食らってしまった。強い不快感を覚えた。

「ふふっふふふ! あー、おかしい。ハルったら考えがジューダスそっくり。元から……かもしれないけど。私もカイルとそういう風に……ふふっ」

 少女は胸に抱える本をさらに引き寄せ、春色の笑顔をとろけさせた。天井の映像がとある少年だけを映し出した変化にハルは気付く。

 ウニみたいな髪型は根本まで金色だ。目は夏の空の色。その顔立ちに引っかかりを覚えたので、数度瞬きをする。スタンと似ていると思えた。

まさか彼の息子? 少なくとも血縁者ではあるとは思う。少女の妄想話を前提にするならばありえなくはないだろう。

天井にてコロコロと変わるカイルという少年の表情は、共に旅をするスタンが見せるものと重なって見えてしまう。

ハルはカイルとスタンの関係性も確かに気になったが、口外せず心の内に留めて置く。代わりに同程度気になった問題の真意を問う。

「裏切り者とそっくりって……どういう意味?」

 あまりにも有名な話だ。ジューダスとは裏切り者を指す言葉だから、その名を持つ者とそっくりと言われても嬉しい訳が無い。

少女は言葉尻を震わせ、ハルが求める着地点とは大幅にずれた位置に足をつけてきた。

「その名前に深い意味なんて無いの。本質は名前と真逆の人よ。安心して。私はハルもジューダスも好きよ」

 唐突に好きと言われてしまい、ハルは自分のペースが崩された気分にもなる。


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