番外編

□ヘーゼルナッツの心とは
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「やあやあ!今日も手伝おうかロザンナ」

「……結構よ。それと目の前に立ち塞がるのはやめて頂戴って何度も言ってるじゃない。邪魔よ、違う人の所へ行って」

「何故そんなことを言うんだい?僕は君に会いに来たのにさぁ」


 清純そうな女の子とは思えない顰め面を晒すロザンナが、機嫌良く近付くジェームズを拒むようなことを言う。

だが決して諦めない。そんな闘志にも似た気持ちが彼女を目の前にすればひしひしと湧いてくるのだから、恋は恐ろしいと思えるのだ。

元来より拒まれると燃え上がる性質のジェームズはロザンナが両手に抱える肥料が入った袋を奪い、彼女が向かおうとする目的地へと足取り軽く進んでいく。

背にかかる少々尖る声など気にもせずに。パタパタと後を追う足音と共に、ホグワーツの中で最も美しいと感じられるようになった……大温室へと鼻歌と共に入り込んだ。












 イギリス人というのはマグル、魔法族問わずにガーデニングが好きな人間なのかもしれない。凝り性ともいえるしイギリス人としての譲れない何かが体の奥底にあるのだろうか。

せっせと光を浴びながら花の手入れをするロザンナの後ろ姿を見ながらふとジェームズは思う。


 大温室は全面ガラス張りのお蔭で植物は太陽の愛を受け、それぞれの体躯に染み込ませている。

その所為か赤やピンク、白に紫、目に映る限りそれ以上の花々が光の粒を纏い、喜んでいるようにも見えてしまう。ハグリットさえ大の字になっても問題無い底の浅い円状の大理石の池にも艶やかな花々がぷかりと浮かぶ。

水底まで見える透き通った水に各々の色を滲ませるように淡い色は静かに水面に揺蕩う。それでも慎ましくもほのかな花の香りが鼻をくすぐり、ジェームズは腹の底まで届く勢いで吸い込み嬉しさを滲ませた。


 突然笑ったジェームズを訝し気に振り返るロザンナが作業の手を止めてまで声をかけてきた。

魔法を使えばいいのに出来る限りマグル式に樹々や花々の世話を焼こうとする所為で、白かった手袋はすっかり土色へと変化してしまっている。

いつもいつも彼女はジェームズを突っぱねるような言葉を言うくせに、花の世話を見る事を許してくれる。彼女の聖地ともいえる大温室にも立ち入らせてくれる。

言葉と態度が違う……そんな所も水面に浮かぶ花と似ているとジェームズはにやける口元を隠して、弾む声でストレートな言葉を淡い匂いを掻き分け、飛ばす。


「いや、ね……ロザンナが世話をする花達からすごく落ち着くいい匂いがするなぁって思ったらさ、君からも同じ匂いがするんだって思ってね」

「妙な事をいうのね。花の近くにいれば匂いだって移るわ」

「そうだね。それでもきっと、他の誰かがこの匂いを纏わせても僕は気にも留めないんだろうなぁって思うんだ。君だから、気になるんだよ」


 吸い込んだ花の香りが口から言葉になっているよう。

とても驚いているのか目を見開いているロザンナの視線を一身に受けながら、そっと心地よい水に手を差し入れ、赤い薔薇を掬い上げ鼻元へと近付ける。

あ……と彼女が声を漏らすのを聞き流して、ジェームズは手の中にある薔薇の匂いに胸の奥で燃える炎がざわざわと揺れる想いを感じていた。


「……本当に、いい匂いだ」





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