ボーダーラインを飛び越えて 1
□twenty-eighth.
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コンパートメントを守る扉を割る勢いで突入してきたブラック兄弟に、先に席を取って寛いでいたリーマスとピーターが驚いた顔で彼等を見る。
全力疾走をしてきたと誰が見ても分かる荒々しい足音と肩で息をする二人……レギュラスよりもシリウスの方が激しい呼吸を繰り返しているのを見て、ピーターが言い難そうにもごもごと言う。
「その、シリウス。弟よりも体力が無いのは……なんというか、筋肉じゃなくて体力をつける事を勧めるよ」
「はーっはー……っ荷物が、重いんだっつの!」
「レギュラスなら軽量化の呪文くらいかけてるでしょ。素直に体力不足を認めたら?」
「はーっは……っありあ、まっ……てる……!」
確かにリーマスの言う通り軽量化呪文がかかってはいるが羽ペンのように軽い訳では無い。深呼吸を繰り返し座席へと座り込むシリウスから荷物を奪い、縮小魔法をかけてポケットへしまう。
最初からそうすればよかったのにと苦笑する先輩方の視線を感じながらもレギュラスは居るはずの二人がいないことを不思議に思い訊ねる。
「ジェームズ先輩とメリッサはどちらですか?」
「ああ……ほら、ここからも見えると思うけど……あっちでリリーと、スネイプと話してるよ」
窓から見える薄暗い駅のプラットホームにはジェームズとメリッサが特急に背を向け誰かと話しているのが見えた。
リリーとセブルスは元々ジェームズを毛嫌いしていたというのに随分と穏やかな雰囲気で話し込んでいるように見え、レギュラスは目を丸くする。
犬のように忙しないシリウスの呼吸音をBGMに目の前の光景が決して夢では無いと証拠付けるように、どこか詰まらなそうなピーターと安心した面持ちのリーマスと情報を交わす。
「イースター明けからジェームズはスネイプを虐めなくなってさ、少しずつ日常会話が出来るくらいになっているみたい。それ関連でリリーとも関係改善に発展してるって」
「僕等がいる時はジェームズが軽く手を振ってそのままバイバイさ。お蔭で楽しみがひとつ消えちゃったよ」
「……ピーターそういうことを言うのは止めてくれよ。折角何かが変わってきたんだから……そういうこと言わないで」
リーマスの咎める言葉に小柄な体躯を縮こまらせたピーター。何かが変わってきた……そのワードにレギュラスの肩が跳ねたが誰も見ていなかったらしく、ホッとする。
人間関係にここまで変化があったの正直レギュラスの予想を遥かに上回る出来だ。
傲慢さから少しずつ離れていくジェームズがセブルスと仲良く会話だなんて、よくて数年はかかるだろうと踏んでいたというのに出来過ぎな位だ。
窓から四人を観察していたレギュラスは円滑に会話が出来ているのは誰かが緩衝材として入ってるからだと気付く。
あの人見知りが激しいメリッサがセブルスへも笑顔を向けて会話を振っていたのを初めて見て、思わず「そろそろ出発する時間だと教えてきます」と口走り、そのまま最寄りの降り口からホームへ足をつけた。
すっかり人混みが減り薄暗さが陰鬱な雰囲気へと引き摺り込むプラットホームの中で、リズムよく会話を膨らませる四人へ駆け足で近寄れば会話を中断して四人がレギュラスへ視線を向ける。
当然だが一番嬉しそうな顔を向けてくれたのはメリッサだ。最下位は言わずもがな。しかし機嫌は良いようで邪険に扱う事も台詞回しをすることも無く「どうしたんだい?」と丁寧に聞いてくれた。
「楽しんでいる最中に申し訳ありません。そろそろ出発する時間なので特急内へ移動をした方がよろしいかと」
「あらもうそんな時間。それじゃあポッターとメリッサ、私達はそろそろ自分達のコンパートメントへ戻るわ。楽しい時間をありがとう」
薄暗い中でも一際目を引く鮮やかな赤毛を揺らしてリリーはお別れの挨拶をする。レギュラスはてっきり特急内でも会話を続けるのだと思っていたので反射的に聞き返せば、セブルスが鼻を鳴らす。
「ポッターが危害を加えなくともお前の兄は加える。そんな場所に僕がいればどうなるか……馬鹿では無いレギュラスなら分かるだろう」
「……兄さんはまだセブルス先輩に?」
さきほどよりも強く鼻を鳴らし顔を背けたセブルスの動作を見れば答えは簡単に読めてしまい、レギュラスは申し訳無さでいっぱいになる。
思わず俯きそうになるも空気を読まずに出発合図のベルがけたたましく鳴り渡り、皆が弾かれたように特急へと乗り込むとドアは閉まり、キングズクロス駅へと緩やかに走り出した。
無事に乗りこめたことに安堵しながらもリリーとセブルスはレギュラス達が席を取ったコンパートメントとは真逆の方へ、軽い挨拶をして颯爽と消えてしまう。
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