ボーダーラインを飛び越えて 1
□twenty-seventh.
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点取り合戦となり会場の熱気は盛り上がる一方だ。ジェームズはチームに大いに貢献し本日十回目の加点に至り、グリフィンドール生を沸かせた。
特にシリウスの反応は素晴らしく熱狂的なファンのように歓声を誰よりもあげる。リーマスやピーターもどんどん声を出し加点する度にハイタッチを繰り返す。
……その横で二人は踊るスニッチを見ながら他よりは冷静に会話をする。
「レギュラス君の操縦技術が凄いことを知ってるからこそ思うのだけれど、来年クィディッチ選手の試験を受けてみたらどうかしら?」
「僕が?メリッサではなく?」
「もう!私の箒の操縦具合はあなたが誰よりも知ってるじゃない……」
簡単に思い出せる飛行術の授業中に国外へ不法入国した彼女の箒の暴走具合。あの時の疲労感がドッと襲ってきそうだとレギュラスはぶるりと震え素直に謝る。
盛り上がる周囲の熱気に包まれながらメリッサはあっさりと流し、びゅんと唸る箒の加速に目を走らせる。
レギュラスも視界の中で急発進をする赤いローブの選手が杖腕を伸ばし何かを掴もうとする姿。青のローブの選手が気付いた時には弾けた笑顔でスニッチを握りしめ天へと突きあげる。
わっと湧き上がるグリフィンドール生の通り試合は無事に勝利した。
このまま寮で戦勝会へと雪崩れ込む流れを察しながら、レギュラスはメリッサの腕を引き一足早く人気の無い図書室へと連れ込む。
どれだけ声を出してもまずバレないいつもの場所だ。座る訳でも無く窓に背を預け二人で壁に寄りかかり先程の話の続きをする。
静かに首を振り、不思議がる様子のメリッサに苦笑を向けてレギュラスは言う。
「僕は選手の試験を次回だけでなくこれから先も受けるつもりなんてありませんよ」
「どうして?クィディッチ好きなんでしょう?」
「僕はクィディッチも好きですけど、その練習がいかにハードか知ってるので……そんな時間は無いんです。だからやめときます」
授業後に集まり練習してクタクタな状態で明日の予習と今日の復習をして……最初の時は慣れるまでとてもキツいものだった。
繰り返す度に予習復習にあてる時間はボーダーラインを越える為の情報収集へと変わったが、その時は別寮だからこそ出来た。今回は同寮なので時間が許す限り傍に居たい。
レギュラスの気持ちを聞いて小首を傾げてメリッサは無知を埋めていく。
「そんなにハードなの?」
「今よりも格段に傍にいる時間が減ってしまいますよ。それは、僕が望むところでは無いので……クィディッチは出来ないですが、メリッサと箒で駆けることが出来るので十分なんです」
「そう……私が箒に一人で乗れたら、いつかクィディッチの練習役になれたかもしれないのに、ごめんね」
何故か落ち込むメリッサの表情を晴らすのと、小さな体に宿るシーカーの才能を少し嫉妬したのをぶつけるようにレギュラスはにっこりと笑い言い放つ。
あまりに自然な斬り捨て具合に一瞬流されたメリッサの反応にレギュラスは顔を逸らして小さく笑う。
「メリッサ、安心してください。あなたにそんな日はきません」
「うん……んん?まってレギュラス君。いま私のクィディッチの才能を全否定したよね!?」
「んん?知りません。ちょっと口が滑ってしまったことなんて知りません」
「……もうっレギュラス君はたまに意地悪よ……もう手なんて繋がない」
ぷいっとレギュラスから顔を背けて拗ねるメリッサに、レギュラスは固まる。笑っていた顔を真面目な物へと変え弁解と宥めへと走る。
完全にそっぽを向き背までくるりとレギュラスへ見せる態勢になるものだから、これ以上酷くなる前にとレギュラスは焦りながらメリッサの腕を掴む。
すると彼女はしてやったりと言いたげな満足そうな笑みで振り返り、呆気にとられるレギュラスを見て楽しそうに言う。そんな姿に焦りも無意識に全身に入っていた力も一気に抜けていく。
「……驚いた?ふふっ怒っていないわよ」
「……ハァ。驚きましたから、あまり僕が困ることは言わないで下さい。もっとこう……レギュラス君のばかっとかその程度にして下さい」
「馬鹿って言われて楽しいの?変わってるわねレギュラス君……」
「何で引くんですか。手を繋がないと言われるよりはマシって言っただけでしょう!?」
腕を掴んでいた手がそっと手首まで下りてナチュラルに繋げばメリッサはくすぐったそうに身を捩る。
声を出してもいい場所だからと言ってレギュラスにとっては大事なことを語ろうとすれば、「レギュラス君のばかっ」と急に言い出すので思ったよりも破壊力があると実感してしまう。
破壊力に閉口して固まるレギュラスへメリッサは楽しそうに笑ってもう一度「ばか」と言い、握る手を深く絡めた。
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