ボーダーラインを飛び越えて 1

□twenty-fifth.
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 思い出せるリリーはいつだって怒っているか、恨みがましい目でジェームズを睨む姿。対してセブルスに見せるのは彼女の名前に相応しい百合の花を彷彿させる目を引く笑顔。

その笑顔を見たかったのは紛れも無くジェームズ自身。難しい呪文も使えて成績も良く恰好良い自分なら惚れてくれる筈と信じていたが、釣り合わない反応。

その怒りや憤りは全てリリーの意識を奪うセブルスへと矛先は向けられ……虐めへと発展した。そう、初めから分かっていた筈なのに……知らんぷりを決めていたのはジェームズ自身。


 口元から一気に力を抜いた手が胡坐を掻く脚へと当たる。ジェームズは肺の奥底から酸素も二酸化炭素も掻き集め、窓の向こうの雪まで吹き飛ばせそうな盛大な溜息を吐く。

がつんと後頭部が冷たい扉に当たったが痛みでジクジクと脈打つ患部を扉に押し付け、自嘲混じりでジェームズは呟く。


「……思った事なんて無いだろうね。そもそもリリーは僕の事を好きじゃないんだ。僕の好意は全て裏目に出ていたって……ようやく気付けた気がするよ」

「なら今のお兄ちゃんの心に聞くけど、スリザリンの人を虐めることはリリーにはどう思われていたと思う?」 

「最低だと思われていたし実際言われた。僕は何度もリリーにそう言われても、彼女から話しかけてくれたと舞い上がって聞く耳を持たなかった……今だからそう思えるけど、遅いよね」


 ジェームズにとってはメリッサや大事な親友達がそういう目にあっているに等しい。自身を置き換えるとどれだけリリーを苦しめた悪魔か簡単にわかる。

リリーの考えすら想像もしなかった。リリーの言葉すら聞く耳を持とうとしなかった。それがどうして好きと伝わるのだろう。

ただの状況も察せない力だけが強い子供が癇癪を起し周囲を傷付けているだけ。ジェームズのリリーへの好意は迷惑以外の何物でも無かったのだから。


 気付いてしまい投げやりに「もうリリーに好きになって貰えないよね」と呟くジェームズに、自身に満ち溢れた声が届く。

同時にかちゃ……とドアを開く音がして、慌ててドアから身を離せば……久しぶりに見る笑顔のメリッサがそこに立っていた。

驚くジェームズの傍まで近寄り、膝を抱えてしゃがみ企む笑みのまま小首を傾げ言うのだ。


「まだ間に合うよ。リリーとスリザリンの人に謝って、今度こそグリフィンドール生らしく真正面から正々堂々と口説くの」

「え……スニベリーにまで謝るの……虐めやらないことで済まないかな……」

「もうっそこで誠意を見せるの。リリーは私と同じで正面からストレートに、だが穏便に進めていけば関係改善に行き着けるのよ」

「待って待って。メリッサ……そのリリーとメリッサが同じとか言ったのは誰だい?」

「レギュ……その人」

 明後日の方向を向き情報を零した悪い口を両手で押さえたメリッサはチラリと、呆気にとられるジェームズを盗み見てからそっと手を下ろす。

先程口を滑らせた件を流そうとしているのだろうか。固まるジェームズの手を取りずっと小さな手で熱い思いを伝えてきた。

「と、とにかく兄の仕出かした事は妹も責任を共有するよ。一緒に正面から謝りに行って、宣言しようよ」

「何を?」

「お兄ちゃんがリリーを好きだから暴走してしまったけど、もう傷付けませんって!」

 綺羅星を振り撒いたハシバミ色の幼い瞳は下手くそなウィンクをジェームズへ送る。色々物申す所はあったが何よりも言いたくて仕方がない。

クスリと耐え切れずに笑うジェームズは手を外し本音を震えながら打ち明ける。ショックを受けて膨れるメリッサを引き寄せ、子供体温を堪能すれば胸の奥に暖かな希望が宿った気がした。

「ふくく……っ何それウィンクのつもり?瞬きじゃないか……っ」

「な……!ウィンクの練習あれだけしたのにまだ出来てないなんて……ショックだわ」

「練習してあれかい?人前で実行するときはもうちょっと練習してからじゃないと、一番いい時に笑ってしまうからね。残りの休暇中練習する?」

「うう……する。お兄ちゃんと、する」

 久方ぶりのハグを味わうつもりなのか膨れたメリッサはジェームズの胸元に顔を摺り寄せた。それが妙にむず痒くも愛おしくて。

久しぶりに抱き締める所為で手放したくない気分にもなりジェームズは……メリッサの顔や笑顔を見れた時から彼女の意見を拒む意思は、ゆっくりと首を絞められて死んでいくのを感じていた。

(この気持ち……弟を持つシリウスなら分かってくれるかな?)

 
 すりすりとジェームズに擦り寄り続けるメリッサにくすぐったいと訴えるも、ジェームズの腕はしっかりと彼女の背中に手を回して離そうとはしない。

大事な妹だ。話せないだけでどれだけ辛かったか。もしかしたらメリッサも今、同じ気持ちなんじゃないかとジェームズは擦り寄る頭に頬擦りを返して思う。

嬉しそうに笑い声を漏らす様子を見るに決して間違いでは無いのだろう。




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