ボーダーラインを飛び越えて 1

□twenty-fourth.
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 そんな考えを打ち破る様に、強い口調でありながらも優しい愛に包まれた言葉をリリーが言い聞かせる。

影を落とすハシバミ色の瞳を覗き込むのはどこまでもまっすぐな緑色の瞳。理性的なリリーらしいどこか教師のような彼女の言葉はそっとメリッサを掬い上げる。


「いい?あなたは間違ってないわ。だってポッターはやりすぎなのよ。妹の前で言うべきでは無いと思うけど、傲慢で……セブを虐めてる自分が正しいと思っているの」

 声に僅かに苛立ちを込めたがすぐに理性で打ち消したリリー。何度も何度も「あなたは間違っていないわ」と繰り返しながらもリリー目線の言葉は続いていく。

「グリフィンドール生として、なんて言葉はポッターの本心じゃなくてきっと飾りなのよ。セブを虐めるのが楽しいとすら思っているのかもしれないわ……どっちが悪なのかしらね」

「……」

「メリッサはそんな兄が嫌だから反発したのよね?ならあなたは引き下がっては駄目。自分の言葉に責任を持ちなさい。あなたは守られてばかりのか弱い子のままでいるつもり?」


 鞭がしなる如くリリーの言葉はメリッサへ届き彼女は少々唖然として見えた。

現状の幼いメリッサには厳しい言葉に聞こえるが、過去の彼女が柔らかくも強くしなる様な意思を持っていたのは、目の前のリリーによる教えの賜物だろうとレギュラスは理解する。

美しくも厳しさや優しさも兼ね備えたリリーへとジェームズが頼み目をかけて貰い完成したメリッサとレギュラスは出会った。

それ以降はどちらも記憶を持ち合わせ、完成された性格の中での姿しか知らなかったが……本来のメリッサはリリーが言う守られてばかりのか弱い子だったのだ。


 そんな心や意思を変えた強い影響力のあるリリーはもう一度「あなたは間違っていないわ」と言い、どこまでも無条件の愛が込められた優しさは降り注がれる。

リリーの惜し気も無い柔らかな百合の花が開花するような笑みはメリッサをそっと照らす。


 一言一言がメリッサの心に刻まれているように聞き入る彼女をレギュラスは、歴史的発見に立ち会う気分で見守っていた。

レギュラスとは違う支え方をするリリーの言葉に、人生の歩き方を覚え始めるメリッサを見れる。

メリッサの成長が進むということはそれだけ出会って日数も経っていると言うことを表す。その簡単に通り過ぎていく時間の流れがレギュラスは少しだけ怖く感じた。


「優しい兄が自分の考えを見直すのを待って彼の心からの謝罪と改心を待つ為に現状を続けるの。今の苦しさが未来で必ず報われる日がくるのを待つのよ」

「リリー……」

「ほらほら、気合いを入れなさい。メリッサには兄以外にもあなたを支える人がいるのよ?何も怖くないわ。苦しい時は休暇中でもちゃんと私達に伝えなさい……あなたの味方なのだから」


 そういって梳き通りの良い黒髪を撫でたリリーは安心させる笑みでメリッサを励ます。セブルスが惚れるのも分かる圧倒的母性の強さと強かで優しい心と言葉。

彼女は素晴らしい母親になるだろうとレギュラスは素直な気持ちで思う。きっとリリーの声はメリッサを揺さ振り彼女の意思を植え付けたのだろう。

揺れていたハシバミ色の瞳が定まり理性と意思を煌めかせた瞳へと変わっていく。その目でリリーを見てこくりと強く頷いたメリッサにリリーは安堵の笑みを浮かべていた。









 メリッサと共にリリーへ感謝を述べると彼女はすっとぼけた様子で肩を竦め「何の事かしら?私はメリッサに愚痴を聞いて貰っただけよ」とウィンクを返してきた。

これはセブルスも惚れる訳だと納得しつつもレギュラスの心を掴んで放さないメリッサは、キラキラとした目でリリーを見てクスクス笑っていた。

やんわりと細まるハシバミ色の瞳。それを見ながらリリーは少しトーンを落とし苦笑しながらもぼそりと呟く。

それは殆ど声になっていなかったのでメリッサは聞こえていなかったが、シーカーとして大歓声の中で微かに聞こえる羽音を聞く能力に長けているレギュラスは彼女の本音を聞いてしまう。


「メリッサへ向ける優しさにポッターの傲慢で我儘な所が包まれて、優しい人になればいいのに……難しいのでしょうね」


 リリーは唯一ジェームズを変えられる可能性のあるメリッサを見て誤魔化す様に笑った。


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