ボーダーラインを飛び越えて 1

□twenty-third.
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「ああ……間違っても勘違いしないでくれよ?僕が恋愛対象として見てるのはリリーだけさ」

 そう言ってお茶目に訂正をして彼は正しい言い方に訂正する。

「僕はーー僕と同じ目を持って僕と同じ髪色で、僕と違う性別の子のお兄ちゃんに成りたかったんだ。でも高齢の両親には授かる事自体がとても難しい話だったよ」

 言葉に誘発されてリーマスが何度か聞き覚えのある各々の家族構成を引っ張り出してきた。

「確かジェームズのご両親は……ご高齢で、君自体を授かった事が奇跡だったんじゃなかった?」

「その通り。皆の両親と比べたら祖父祖母の域に達しているからね。僕のオネダリがどれだけ難しいか想像に容易いでしょう……でも僕の一番古い記憶は父さん達に、ほしいって言う所なんだよね」

「欲しいって……メリッサのこと?一歳程度の子供がどうやったらそう思うのさ……」

「何でも絵本とかそういうのに出てくる兄妹の姿を指差して、ほしいっほしいって言ったらしい。今でも家族内で僕等の話になるとそのエピソードを出されてくるほど父さん達には衝撃的だったんだって」


 くすくすと一人笑うジェームズに皆は漸く驚きから解放されて、彼らしいと思えるようになったのだろう。自他共に認める天才としてその身に宿す才能を惜し気も無く発揮する彼らしいエピソードだ。

普通じゃありえないこともジェームズならば出来るだろう。そう思わせる何かが彼にはあり、続いて行く会話の中でもその才能は散りばめられていた。


「何日も何週間も僕がほしいって言うから見かねた父さんがマグルの教会に連れて行ってくれたんだ。そして言うんだ。マグルの世界では神が願いを叶えてくれるらしいからお願いしてみなさいって……」

「俺の家だったら本気で家系図から消されちまうよ」

「そりゃあブラック家はマグルの教会に行くどころかマグルの神に祈ることすら許されないだろうね。でも僕は祈った。頼みに頼んで毎日教会に行って妹を下さいと実情も知らない神に一年間祈り続けたよ」

 まるで物語の読み聞かせだと思えるほどジェームズの言葉には感情が込められている。

元々興味があった他の三人は耳を傾けていたが、ジェームズの昔話の語り方に巧みにつけられた緩急に引き摺られ、彼の雰囲気に引き込まれていく。
 
ジェームズが紅茶から一度目を離し、三人と視線を合わせうっとりと蕩けた笑みを向けて掠れた声が、奇跡を引き連れてきた。


「そうしたある日……母さんが妊娠したんだ。超高齢出産に至るまで何一つ問題は起きず、まるで神様に守られてるかのように、心配させる問題も無く穏やかな夜に……メリッサが生まれて来た」

ーー僕が望んだ全てを叶えて。


 思わずゾクリと震えたのは全員だったかもしれない。シリウスは不自然に肩の動きを確かめてリーマスは二の腕を摩る。ピーターは悪寒だとでも思ったのか鼻を摩っていた。   

ジェームズはまたミルク色の紅茶を覗き込みハシバミ色の瞳を三日月のように細めながら、クライマックスに差し掛かる話を纏め始める。


「あの時僕はメリッサを神様がくれたと本気で思ってね。実際に今でもそう思っているけどさ、尋常じゃないくらい喜ぶ僕に向かって父さんが茶化して言ってきたんだ」

ーー神様からのプレゼントだ。何があっても守り抜くんだ、お兄ちゃん。


 お兄ちゃん。メリッサがジェームズを呼ぶ時に使う呼び名でもある。彼が望んだ妹がこの世に生まれたその瞬間からジェームズは彼自身が望んでお兄ちゃんになった。

それが今も息衝いていることくらい三人は理解している。ジェームズが一番大切に思うメリッサを見守る優しい一面を誰よりも近くで見てきた時間が、理解の後押しをしているのかもしれない。

カップを持ったジェームズは口元に近付けた状態で締めへと入る。眼鏡の奥にあるハシバミ色の瞳はふと瞼を閉じて、頬は興奮した赤みの残りがほんのりと主張していた。


「僕はお兄ちゃんだからあの子の事をいつまでも守ろうと決めてるのさ。例え嫌われても……他の男に奪われようとね」

 最後の方は早口に告げたジェームズはぐぐっとカップを傾け一気に半分ほど中身を胃に流し込む。ミルクを僅かにしか入れなかった不完全で渋みが強いミルクティーの味に不味そうに舌を出す。

それでも黙って聞いてくれた三人に笑いかけて「ご清聴ありがとうございました」と茶化して、皆からジェームズは失笑を買った。




 その後はジェームズがどれほどメリッサを好きかと上機嫌に語るわシリウスが競う様にレギュラスのいい所を語るわで、ある種のハイなテンションは長らく続く。

兄弟がいないリーマスとピーターは次第に白熱していく話に疲労を感じるのも無理はない。何せ夕食の時間はとうに過ぎて、そろそろメリッサが普段就寝につく時間にまで迫っていた。

その間も帰ってこないメリッサとレギュラスに心配して、心配し過ぎてテンションが振り切ってしまった困った兄達にリーマスは重い溜息を吐き捨てる。


「はぁ……あのさあ。一応忘れては無いと思うけれど僕達は事実上喧嘩別れしたに等しいんだよ。帰って来た時に謝罪よりも帰りが遅い事を指摘したら事態は悪化するよ」

「そんなの嫌だよ!!」

「なら謝りなよ。メリッサ泣いていた事忘れてないよね?」

「勿論だよ……っ怒らせてごめんねって謝って僕がハグをしてあげるんだ!」

「は?」




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