ボーダーラインを飛び越えて 1
□twenty-first.
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星を見に来ていたというのに今日に限ってはお互いのコミュニケーションを深め続けた。普段はある拳ひとつ分の距離も所謂恋人繋ぎを維持したままで距離などあってないような物だ。
少々物珍しそうにレギュラスの手をまじまじと観察するメリッサに気恥ずかしさを感じたり、体温が混じり過ぎて手の境目が曖昧になった手を見比べて違う場所を探したり。
ヒートアップしていく会話の最中にふと視線がかち合えば訳も分からずに照れた笑みを零し合った。
レギュラスが調子に乗って額をすり寄せ、色の良く似た前髪が混じる時間さえもメリッサは弾けんばかりの笑顔で受け入れた時は、目の前の崖から落ちてもいいとレギュラスは本気で思った。
記憶がある二人の時はどちらかといえば大人の恋愛に似てか細くも強い炎のような関係だった為に、こんな子供の戯れは遠い昔の話だった。
それがとにかく新鮮で、愛らしくて、宝箱にしまいたい位に思える。現に今も……また、愛らしい一面が突拍子も無くご降臨なさる。
「両手、両手握ってみたい」
「はい……うん?何してるんですメリッサ……」
両手が深く絡まる。その手をぐぐっと顔の上まで持ち上げややレギュラス寄りに腕を傾け、歓喜に煌めくハシバミ色の瞳を細めて子供らしい声が、レギュラスの心を貫く。
死の呪文を受けた時以上の衝撃だ。思わず数瞬呼吸と思考が止まり、心臓だけがバクバクとラブコール送るほどに……呪文無しに出来るメリッサにヴォルデモートも裸足で逃げ出すだろうに。
「ふふ……がおー!」
がおーっと言葉を紡ぐ口元の動きすらレギュラスは釘付けで最早どこを見ればいいのか分からない。機嫌良く「今のは何の動物でしょう?」とクイズを出してくる空気を読まない加減は本当にジェームズそっくりだ。
ハッと呼吸が戻ったレギュラスは異常に心臓が弾む律動が体を通してメリッサに届いてしまうのでは、と心配するが彼女はワクワクした様子で答えを待っている。何も気付いていないらしい。
きっと何気ない行動がどれだけレギュラスの心を貫いたかなど考えたことも無いのだろう。純粋で子供だからこそ……レギュラス自身が自分の頬が焼けるほどに熱いことに気付けた事を後回しにしたに違いない。
「あ、あーっと、え?……猫?」
「何で!?猫はまーおよ。がおーだよ、がおー!」
「ああ本当にごめんなさい。これ以上その言葉言わないで。僕その言葉に弱いみたいですから……っ」
「……がおー?」
「メリッサ!」
嗜めると少々不服そうな顔をするメリッサが上げっ放しだった腕を下ろす。しかし正解をするまで逃がさないとでも言いたいのか……声に出さずに口元の動きだけで「がおー」と呟く。
満面の笑みでの「がおー」と拗ねた顔での「がおー」……一度に福が舞い降りた。これ以上言わせてたまるかと顔の火照りを感じながらもレギュラスは、ふと西へ闇夜を連れて傾く満月を見てとある生き物を答えた。
「狼……がおーなら獣系で間違いないでしょう?狼が正解だと言ってください」
「嫌です違います」
「敬語で言われるとショックが大きいんですけど……!」
地味に自信があったからこそショックは倍に感じる。悩むレギュラスが小さく握り返しながらも頭を働かせていくが、正直ヤケクソに陥るほどに外した。
このそそり立つ崖には負けるが割と高いプライドをへし折りヒントを求めれば、メリッサは茶化すことなく悩むレギュラスの顔を見て特大ヒントを零す。
瞬間雷が全身を駆け巡りレギュラスの脳内に答えが浮かび出てくる。正直考えもつかなかった答えを……納得した声と共に出せば、メリッサの不服そうな顔が破顔する。
「……ヒントは私達の寮。そのシンボルはどんな生き物だったかしら?」
「ーー獅子。ああ……だから、がおー……難易度高くありません?」
「正解っ難易度は高くないわ。だって獅子はきっとがおーと言うもの!」
「……がおー禁止令を出しますよ。あと一回言ったら発令ですよ、冗談では済ませません」
「えー……じゃあ次はもっと簡単なものにするから!そうしたら禁止令はとりやめましょう、ね?」
割と必死に食い下がるメリッサ。余程「がおー」によるレギュラスの反応が気に入ったらしい。そんな姿に言葉に詰まるレギュラス。
要は惚れた方が負けなのだ。渋々承諾すればパッと花々が蕾から満開へと変わるようにメリッサの表情が綻んでいくので、結局レギュラスも「それでいいか」と流されてしまう。
地味に難しいクイズを出題するのを交互に繰り返していく内に……真上にあったハッカ色の満月は闇夜のローブを翻し地平線へと沈み、切り替わっていく夜明けの眩さに二人の視界が眩む。
今日は休日だから夜更かしも構わないと思っていたのだが……まさか朝日を拝む時間帯になるとは。
レギュラスもメリッサも顔を出した朝日を見つめ、帰る支度をしようかと会話をして数時間ぶりに手を離す。
違和感は色々あったがお互いに透明マントを広げ二人で被ったり、箒を準備したりとして些細なことは闇夜へと飛ばす。念の為に箒にも目くらましの呪文をかけお互いにもかけた上でマントを羽織る。
操縦はレギュラスに任せメリッサは何の躊躇も無く彼の腹へ手を回し、繋いでいた手のように背中へ密着すれば……レギュラスから何かに耐えるような声が聞こえた。
問いかけようかとメリッサが思う前にレギュラスが地を蹴り無重力が二人を包んだと思えば、びゅんと風と一体となり加速していく。
思わずメリッサが背中に顔を押し付ければ……レギュラスはビクッと反応した。
まさか今更意識しているだなんてメリッサに言える訳が無いとレギュラスは嘆き……誤魔化すように禁じられた森を上空を滑るように加速していく。
もう間もなく禁じられた森を越え、グリフィンドール寮へと上昇するだけと言う時にーー急にレギュラスが箒を止めた。
かつて金色に光るすばしっこいスニッチを追いかけ寮を勝利へと導いていたシーカーとしての才能が、とあるモノを見つけてしまった。
これでもかと目を見開き、ゆっくり動くソレを視界に収めたまま箒のゆっくりと目標の元へと方向転換し近付いて行く。
「どうしたの?」
「しっ……声を潜めて。いま……暴れ柳の方から誰かが出てきました。こんな時間にですよ?普通の生徒なら寝静まる時間に……普通じゃありません」
「私達みたいに星を見にいくような場所でも無いものね……後を追うの?」
「そのつもりです。あの人が誰か気になるじゃないですか。それに一応……僕等の星見を見られている可能性もあるんです。同寮生ならまだしも他寮なら……わかりますよね?」
「ええ。密告される前に記憶を消すのね……っ」
「違います。僕達と同じく大量減点のルール違反の輩の顔を拝み、その人物の弱みを握り脅す……ごほん。会話をするのです」
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