ボーダーラインを飛び越えて 1
□thirteenth.
4ページ/4ページ
それより気になる物がレギュラスの目に突き刺さる。
小粒の飴玉が詰まるガラス瓶……淡いピンクやオレンジ、白や薄めた水色が小さく優しい世界を作る飴社会にしては、世界を引っ張るような強めの赤が出口に一番近い場所にある。
その色は他の飴と違い強弱をつけた明滅をしているような気がして、レギュラスが目を細めたり擦ったり何度も見てもその反応がある。本当に明滅しているのだろうか?
「ーー何だか星みたいですね」
「あら。もう分かってしまったの?流石レギュラス君ね。自分の星を見つけるのが上手なのね」
「んん?え、本当にレグルスですかコレ!?」
慌てて手に取り素早く横に振れば、飴玉同士がぶつかる音がする。近くで見ようが情熱的な色を持つレグルスは、周りの飴のように美味しそうには見えない。
寧ろ世界の魅力を凝縮したような魅力の塊だ。まさか飴玉と一緒にガラス瓶に入れるとは……あげた本人ですら呆然と口を開けてしまう。
普通じゃない保存方法をしてしまったメリッサといえば、とても不思議そうな顔をして首を傾げる始末だ。嫌な予感がしたレギュラスは心配する声色で一応確認をする。
「飴玉と違ってレグルスは食べられませんよ?非常食なんてとんでもない!」
「食べないわよ?」
「見るからに食べる用に保存しているようにしか見えません……一応飴に保存魔法がかかっているでしょうから溶けてベタベタになることは無いでしょうけど……」
レギュラスは自分があげた星が溶けた飴の所為でベタベタになるのは夢でも見たくない。
否定するような顔つきになるレギュラスだったが、何一つ自分の意思を曲げるつもりが無いメリッサの台詞に、言葉を失う。
「ーーだってレグルスがひとつだけポツンと居るのは寂しいでしょ?飴玉は新しい仲間なのーーきっとこれで寂しくない」
絶句するレギュラスの手の中で呼吸するように赤く光るレグルスを、ガラス越しに撫でる彼女の指先はとても愛に溢れているように見えた。
何も記憶が無いメリッサが……前回までのレギュラスを慰めるような言葉を口に出したこと。
どんな意図があるのか、無意識だったのかさえ分からないが……何が理由でも返す言葉はレギュラスの中で決まっているのだ。
レギュラスの気持ちに反応するようにレグルスは一等星らしく光る。メリッサのハシバミ色の瞳に反射する赤は、とめどない愛をそっと教えているようにも見えた。
「ええ。きっと寂しくありません。あなたのお蔭でずっとレグルスは寂しくは無いのです」
僕のようにね……なんてレギュラスは思ったがどうにか言葉は飲み込んだ。
一瞬でもレグルスへ宛てられた優しい言葉の意味を、過去のレギュラス自身へ宛てていると思ってしまった。
救われた自分のようにレグルスも救われたらいいと思えば、否定の言葉など無粋以外の何物でもないだろう。
不思議そうなメリッサの視線に曖昧に微笑み、ガラス瓶を返したレギュラスには……レグルスを慕い群れる飴玉が自分の周囲にいる人達に一瞬見えてしまった。
チラリと彼女を見て柔らかく意味も無く微笑めば、ガラス瓶の中で飴玉がぶつかる音がカランと鳴った。
.