ボーダーラインを飛び越えて 1
□thirteenth.
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夕食後に出されたレポートを完成させると伝えて悪戯仕掛け人達は早々に自室へと上がってしまった。
相変わらず仲が良いと思いながらも大して気にもせずレギュラスとメリッサは、拳ひとつ分の距離を保ちソファに座り互いに貰ったお土産の話をしていた。
「シリウス以外は健康グッズってこと?う、うーん……ホグズミードでのお土産にしてはちょっとした驚きね」
「僕は悪戯グッズが来るんだろうなぁと思ってたのでとても驚きましたよ。有り難く必要の時に使わせて頂きますけど」
「ふふそうね……でもリーマスがお菓子じゃないものをレギュラス君に贈るなんて余程体調悪く見えたのかしら?」
頬に手をあて考えるメリッサだがレギュラスがぼそりと内緒話をしてくるので小さく肩を跳ね上げる。声を潜める必要がある内容など二人の間にはひとつしか無い。
「多分星を見に行った翌日の顔色が寝不足で最高に悪かったんですよ。それで気を遣ってくれたんでしょうね」
「う……ちょっと星を見に行く頻度を控える?」
「絶対嫌です!……ですがメリッサの寝不足が酷くなるなら考えた方がいいでしょう……月に一度とか?」
「嫌よっ私は寝不足になっても酷い顔なんてしないわ!」
急に普通の音量でピシャッと言うメリッサの声が響きレギュラスは驚きに肩を跳ねあげる。その様子に慌てて自身の手で口を押えるメリッサは、叱られた子犬のように体を小さくする。
しょんぼりと言いたげな雰囲気にレギュラスは苦笑を浮かべつつも話題の軌道修正を自ら買って出た。
「えっと、メリッサは先輩方から何を貰ったんです?」
「……言葉にするよりも見た方がきっといいわ。いま持ってくるから」
足早に女子寮へと入るメリッサは呆然とするレギュラスを置いて、数分待たせて何かを抱えて戻って来た。
目の前のテーブルに置くのでは無く二人の僅かな隙間に天の川を敷き詰めるようにばら撒いたメリッサは、彼女は無意識だろうが兄のジェームズが土産を見せる時と同じやり方をしている。
やはり兄妹だから似ていると改めて思いながらもレギュラスはソファの上で向き合う体勢に変え、お土産を見下ろす。
女の子が好きそうなピンクの砂時計。小さな天使のチャームが先端に付く羽ペンと数種類のインク。それに暖色系の小粒の飴玉が入るガラス瓶。
どう見てもレギュラスへのお土産とは違い本当のお土産らしさがある。だが四人から貰ったにしてはどう見てもあと一品足りない気がする。
純粋な疑問をメリッサへ投げ掛けると彼女は生温い眼差しでレギュラスを見て、そっと実情を教えてくれたのだ。
「ふふ。あのね、シリウスから貰っていないの」
「……は?あの兄さんがですか?」
信じられないとレギュラスが緩く頭を振るが、くすくすと笑う口元に手を添えた彼女はまた耳打ちをして教えてくれる。
「レギュラス君へのお土産を帰る時間ギリギリまで考えてようやく買ったから、私の分はまた今度なんだって。いいお兄ちゃんね」
目を見張るレギュラスだが、メリッサがするりと離れた後にもう一度声を弾ませ「愛されてるわね」と言う物だから、恥ずかしそうに眉を下げて頬を掻いた。
逃げる様に目の前のピンク色の砂時計を手に取り早口で会話を切り出せば、メリッサは笑いを何とか消化しながらも参加してくれた。レギュラスはそういう所も敵わないと実感する。
「あのっあー、この砂時計は誰からのですか?」
「お兄ちゃんよ。私はマグルのも魔法界のも砂時計って好きなの。だから多分覚えてて買ってきてくれたのね」
「その、時計では無く?」
「いいえ。砂時計よ。何でかは分からないけれど気に入ってるのかしらね?ほら、砂がサラサラ落ちる感じとか……」
「自分でもわかっていない口振りじゃないですか……砂時計が好きだなんてちょっとだけ意外です」
「そうかしら?」
砂時計を好きだと言うメリッサは、レギュラスの手の中で寸分の狂いも淀みも無く落ち続けるピンクの砂にうっとりと魅入っている。
その様子が何だか気に入らなくてレギュラスはそっと砂時計をわざと横に倒し砂の動きを止め、元の場所へ戻す。それだけでハシバミ色の瞳は他の物をその目に映した。
まるで恋の妙薬が切れた人みたいだとレギュラスは思うと同時に胸の中がドロリと波打った気がする。砂時計に嫉妬しているみたいだ。
「羽ペンはピーター先輩ですよね」
「どうしてわかったの……?」
「だって残っている飴玉はどう考えてもリーマス先輩しかありえません」
「そうね。リーマスといったら甘い物とイコールで結ばれてもおかしく無いもの!」
リーマスの人物像が完全に一致したことでレギュラスが先程感じていたドロリと波打つ嫉妬は凪いでいく。
メリッサの手が羽ペンの持ち手側にぶら下がる小さな天使のチャームを指先で弄りながら、ただの羽ペンでは無い説明をあっさりとしてくれた。
「この羽ペンはインクの色に反応して羽ペン自体の色を変えるらしいの」
「へえ……もし黒を使えばカラスの羽のようになるということですか」
「みたいね。青インクを使えば幸せの青い鳥の羽ね。ピーターって案外センスがいいみたい。私これを使う日が楽しみよ」
「……流石悪戯仕掛け人であるとだけいいますかね」
レギュラスは羽ペンにはさして興味を示さなかった。正直それをもしも自分が貰ってもどうしようもないと思ったが、現実として貰った本人が喜んでいるなら良い話なのだろう。
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