ボーダーラインを飛び越えて 1

□thirteenth.
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 不躾な視線を感じたのかシリウスは凝視してくるレギュラスの方を見て、脱力しきった体を正し尻の下に敷いた潰れた袋から先のお土産と似た物を出し、ぽいっと放り投げた。

器用な事に反射的に手を開いた弟に狂い無く届いた。それを見下ろしてレギュラスはまたか……とがっかりする。

「二人と同じ健康重視系ですか……しかも体力回復飴だし、被ってますよ」

「それ俺からのお土産じゃねえよ」

 ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべたシリウスは頬杖をつき、言葉には出さないまま送り主を親指で指し示す。

誘われるままに指先に居る人物を見れば、特徴的なくしゃくしゃな髪を揺らすジェームズがいた。思わず二度見してしまい動揺を隠さないレギュラスにシリウスは仰け反りながら笑う。


「レギュラスの反応は最もだ!だが本当にアイツからのだよ。俺に渡す役目は押し付けたが選んだのは……な?」

「いや……僕ジェームズ先輩に嫌われている自覚あるので大分信じられませんよ」

「ぶはっ、ああ、悪い……最初はそうだったみてえだが今は大分心境が変わったんだろ。じゃなかったらこんなの渡さないって。次も買って来たら本当に嫌われてないってことさ」

「……僕はジェームズ先輩に謝った覚えも無いし、彼女を諦めた訳でも無いのに……随分な心境の変化ですね」

「まあそう言うなよ」

 ブラック兄弟の視線は、後半のお土産の説明を大袈裟な身振り手振りでメリッサだけを見て話すジェームズへと注がれる。きっと視線に気付けるだろうがあえて無視をしているのだろうか。

数分見続けてもメリッサは視線に気付きレギュラスの方をチラリと見てきたが、ジェームズは一環として向こうとしない。


 あまりに頑なな姿にジェームズの心情を読めてしまったシリウスは、親友の助けに回ったのかもう一度潰れた袋を漁り、教科書ほどの厚みのある包装されたお土産をレギュラスへ手渡してきた。

既に貰っていたお土産とは随分と大きさが違うので、それだけで健康グッズでは無いのだとレギュラスはホッとする。開ける許可を貰い慎重に包みを自らの手で解いていく。


 現れたのはレギュラスの小さな手には少々不釣り合いなカメラだった。普段は撮って貰う側のレギュラスは興味深そうにカメラの外見を観察し、デッサンのモデルを細部まで見る様に眺め続ける。

弟が気に入ったのが分かったのかシリウスは得意げな顔で鼻を摩っていた。

「どうだ?プロが使う奴とは違うけどそれだって立派に動く写真を撮ってくれるんだぜ?それで沢山思い出作っていけよ」

「思い出……僕がカメラを撮る側になるとは夢にも思いませんでした」

 その言葉にシリウスが僅かに眉を寄せた。だがレギュラスが続けた言葉に一瞬固まり、顔も態度もすぐに溶けていった。

「でも僕が撮影者になれば、家族写真も学校での思い出も沢山残ることでしょう。その時は兄さんも撮っていいですよね?色んな兄さんも、家族の姿も僕は大切な思い出に留めてみたいです」

「……いいに決まってんだろ。そのカメラ俺の小遣いで買ったんだぞ、俺を撮らないとかありえねえ!」

「ええ有り得ません。ですので……兄さん、はい笑って……せーの」

「は!?今かよ!?」


 戸惑いに唸るシリウスへカメラのレンズを向け容赦なくスイッチを切る。

記念すべき一枚目は、隠し切れないヘタれた姿から一呼吸の後に女を虜にするハンサムの本領を発揮をするという……何ともちぐはぐなシリウスの姿となる。

レンズ越しに誰よりも早くその光景を見てしまったレギュラスは声をあげて笑ってしまう。

自分のキメ顔を笑われたシリウスは地味に傷付き、繊細な心の衝動が笑い悶えるレギュラスからカメラを奪い、ソファに転がり笑う弟を嫌がらせで撮影した。




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