ボーダーラインを飛び越えて 1

□twelfth.
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ここで眉を寄せたセブルスが口を開こうとしたが、周囲から凄まじく突き刺さる嫉妬にも似た視線に気付く。

まるで生きる屍状態の最上級生から逃げる様にレギュラスを腕を引き遠くの机へ場所を変えた。レギュラスも流石に時期が悪かったと反省し、念の為二人に保護呪文をかけておく。

妙な呪文をかけられないように少々強めにかけるとセブルスが溜息をつく。


「……はあ。お前ほどの新入生は見た事が無い。呼び寄せ呪文やイモリ試験でO・優を取れる知識も……この保護呪文もな」

「お褒めに預かり光栄ですセブルス先輩」

「……何だその呼び方は」

「僕は家の教えで年上は敬うことが染みついておりまして。ちょっとした敬称をつけさせて貰いますがこれはどの先輩にも行ってますよ」

「…………もういい。適当に呼べ。僕も適当に呼ぶからなレギュラス」

「ええ」

 にこりと丁寧に微笑むレギュラスは呆れ顔のセブルスの前でも余裕綽々な態度を取る。

だが兄のシリウスとは違い悪意のある物では無く、レギュラスが探していた知識への足掛かりが見えそうなことに喜んでいるのだ。

そんな態度はセブルスには奇妙なものに見えるが気にはせずにもう一度確認する。レギュラスの心臓の奥でざわりざわりと高揚する感覚が止まらなかった。


「さてセブルス先輩の見解を教えてください。生命維持に影響するほどの異物が体にある場合どうすればいいのでしょう?」

 腕を組み考え込むスネイプは今までの反応とは違う。それだけで即答出来るほどの問題ではないのかと理解し、レギュラスは少しがっかりした。

だがレギュラスの考えるものとは違う解決の糸口を見つけ出してくれる可能性はどうしてか捨てきれなかった。


「……場所によるだろう。お前はあまりマグルの人体図形とかは見ないだろうが、仮にその異物が胃にあるならば摘出すればいいんだ。だが……その異物は魔法界の物だろう?」

「……ええ。間違いなく」

「ならば臓器を摘出して異物を直接魔法で消すなり取るなりする手段もある……なんだその顔は」

 飲み込めないほど不味い物を口に含んだような顔をするレギュラスは、異質な解決策を提案したセブルスへ言い難そうに伝える。

「それがマグルのやり方ですか?その、なんというか野蛮……いや寧ろマッドサイエンティストの集まりというか……」

「魔法界では腹を切って治すなど狂気の沙汰だからな。一応聞き直すが、その異物を抜き取るまたは消したいという目的で進めていいんだな?」

「そうなんですけど……流石に切るとかは遠慮したいです。出来るなら体を一切傷付けずに行う感じで考えたいので」

「……医務室に向かった方が解決できる気がするがね」

 難しい顔で言うセブルスの提案をレギュラスは役に立たなかったと言いたげな顔で首を振る。


「それにどんな魔法薬も効かないんです。魔法の効果を消す飲み薬も、呪文の効果を無くす物も……」

「ーーお前一体何をしたんだ?普通に生きていればそんな物を摂取する訳が無いだろう」

「ーー僕が普通でないことはセブルス先輩だって理解していることでしょう。色んなことが規格外なんですよ」

 レギュラスの言葉には妙な説得力がありセブルスは言葉に詰まってしまう。本当に規格外すぎて、何から手を付けていいのか分からなくなりそうだ。

ここまで話したのなら何も問題は無いという態度で、レギュラスが今まで調べてきた禁書の情報や知識といった大事な部分を掻い摘んで説明すれば、セブルスの顔色の悪さは一気に加速する。

次第に嫌な予感を察したのだろう。口元をひくひくと引き攣りながらもセブルスは自分の予感が外れる様にと祈る思いで、規格外の新入生に聞いてみた。

「どうして僕にここまで話した?」

「ここまで話せばセブルス先輩は優しいから逃げようなんて思わないでしょう?それにその異物がどうすれば取り除けるか……気になって来たのではありませんか?」

「ぐ……」

 分かりやすいほど言葉に詰まってしまったセブルスは、目の前で穢れの知らない天使のように微笑むレギュラスの胸元で揺れる赤と金のネクタイが心底似合わないと思った。

まるでスリザリンの上級生と接している時の心臓がヒヤヒヤするあの感覚に急に引き摺り込むレギュラスは、誰よりもスリザリンらしいとも思えた。

顔を背けた後に、研究意欲とも呼べる知的好奇心をふと思い出したセブルスは視線を逸らしながらも彼に助言する。

「否定はしない……それと……もしレギュラスが本当にその異物をどうにかしたいのならば一人だけで探すのはお勧めしない。本気で無謀で途方も無いことを一人でなど絶対に無理だからだ」

「それはセブルス先輩が手伝ってくれると……受け取ってもよろしいですか?」

「僕だけでは無く……お前と同じ寮のリリー・エバンズを知っているか。優秀な魔女だ。彼女にも手伝って貰ったらどうだろうか」

 リリーの名を呼んだ辺りからセブルスの声色が大分丸くなった。一片の尖りも無い声にレギュラスは目をぱちくりとさせ、そして察してしまう。

だがここで兄とは違う面を出すのは世渡り上手な弟だ。決してこの場で言わずに然るべき場面まで大切に温めておくことにした。

「ですがリリー先輩は忙しいのでは……」

「勿論リリーの許可を得てから参加して貰えばいい。強制なんてありえないだろう」

「……仰る通りです」

 きっとリリーが了承するだろうと二人はそう感じていた。

レギュラスはリリーをそこまでよく知りはしないが、過去にスラグホーン先生の開催するスラグクラブに招待を受けた際に何度も見かけたことがあった。

マグル生まれだということで会話などしなかったが……スラグホーン先生のお気に入りだった筈だ。魔法薬学にも長けていると分かるのでセブルスの提案を一蹴しようとレギュラスは思わない。


 だが念のために聞いてみる。

「セブルス先輩はリリー先輩に成績で勝ったことはどれだけありますか?」

「……僕はリリーにこの提案について聞いてくるのでこれにて。では失礼」

 急ぎ足で図書室を退室するセブルスの背中を見ながらレギュラスは意外そうな顔で見送る。

男のプライドを傷つけてしまっただろうかと一応思うが、彼と話す前まで感じていた不安や焦燥が成りを潜めていることに気付き、彼はホッと息をつく。


「僕よりも知識がある人が二人もいれば……今度こそ解決策が、見つかりますよね……」


 目を閉じて思い描くは陽だまりの下で花のように笑うメリッサの姿。

記憶がある前回までの彼女と幾ら探しても見つからなかった物を、今度は毛色の違う人の手を借りて探そうとしている。

絶対に見つかる保証も無い途方の無い代物だと知っててもレギュラスは諦めきれない。約束を破ってしまったレギュラスがメリッサへ返せる物は限られているのだから。


(手を抜くわけにはいかない)


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