ボーダーラインを飛び越えて 1
□seventh.
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シリウスが隣にレギュラスがいることに視界に収める度にニヤけていることも大分落ち着いて来た頃に、とうとうメリッサの番となり不安な足取りで彼女は座り帽子を被らされた。
その姿をテーブルに両手をつき前のめりで瞬きすらせずに見守っているジェームズの必死さに、こそこそとリーマスとピーターがレギュラスへ耳打ちをしてくる。
「さっきレギュラスにちょっと時間がかかっただろう?その時シリウスったら急かす様にテーブルを指先で叩いて煩かったんだよ」
「ついでに貧乏揺すりもね。指摘されても止めなかったのに今はもうしていないでしょ?レギュラスが来てくれたから安心したんだよ、きっと」
二人に驚き反射的にシリウスを見ればバッと視線を逸らす兄。レギュラスがそんな兄にそっと感謝を零せば小さく頷く姿が見れただけでよかった。
深い溝が少しずつ埋まってきているのを目に見えることが幸せだと感じていた時ーー割れんばかりの組分け帽子の声に耳がビリビリとする。
ーーグリフィンドール!
誰よりも先にジェームズが先程のシリウスのように立ち上がり、最愛の妹を手に入れた事に狂喜乱舞していた。
「ああ!メリッサ!!やったよッ神様!メリッサっこっちだよ!お兄ちゃんはここだよおおおおっ」
全身が喜びを謳い妹へ必死に祝福の言葉をあげるのを、呆然と見ていたシリウスが小さく呟く。
「俺はさっきまでこんな感じだったのか……うわぁ……いや、でも、これは兄しか分からない気持ちだ。ジェームズも俺と同じことしてるし……お兄ちゃんってこんな感じだよな!」
勝手に自己完結してメリッサのグリフィンドール入りを祝福する拍手へ混ざる。
ジェームズと張り合えるほどにレギュラスはメリッサのグリフィンドール入りを喜んでいたあまり兄の言葉は全く耳に入ってなかった。
祝福のハグをしようと両腕を開くジェームズにわたわたと近付いてきたメリッサは、本当に安堵したと言いたげな笑みを向け兄の胸へと飛び込む。
それだけで召天してしまいそうなほど嬉しいジェームズが感極まり震える腕で、自分の愛すべき天使をキツく抱き締めれば苦しそうな動作で背中をタップされ渋々解放してあげた。
ジェームズの横でレギュラスの向かいの席へちょこんと座るメリッサの頭を撫でそっと髪にキスをするジェームズは、どこまでも蕩けた声で妹の歓迎を祝福する。
今だけはメリッサも嬉しそうに笑い兄の膨大な愛に頬を赤らめる姿さえ魅力的だとレギュラスは釘づけだった。
「ようこそグリフィンドールへ。歓迎するよメリッサ……レギュラスもね」
悪戯仕掛け人に挟まれる形で夕食を食べている中……当然といえば当然だが、組分け帽子に何を言われたのかという会話の流れになった。
咀嚼中のメリッサを気を使って先に語り出したのはレギュラスだ。
「僕の本質は兄さんに似ていると。僕は決して一人ではなく誰かの努力の末に僕の願い事は叶うと言われましたね」
「俺に似てるって……あの帽子がいったのかよ。似てるか?」
ブラック兄弟を除く悪戯仕掛け人とポッター兄妹が頷く。いわく頑固な所がよく似てるとのこと。
一度自分がこうだと思えばそれにまっしぐらな所は確かにあるが、直情的なシリウスと違い理性的なレギュラスは多角的に物事を考えられると自負しているので、その言葉に不服そうだ。
だが大切な誰かを守ろうと命を賭ける所はよく似てるとレギュラスは改めて思う。だから言葉を濁しつつ一応頷いておけばシリウスは何だか恥ずかしそうに髪に触っていた。
次はメリッサの番だと視線が彼女へ移る。メリッサが記憶を辿っているのか右の方を見ながら答える。
だが紡がれた言葉にレギュラスは……今までと違う事に目の色を変えた。
「恐れるべからず。夢も想いもすべてあなたにとっては本当の現実へと繋がるのだから。迷わず突き進みなさい……だった筈よ」
ジェームズが不思議そうに言う言葉に喰い気味で答えるメリッサはほんの少し機嫌を損ねた様子で、ぷいっと兄から顔を背けてしまう。
「もしかして入る寮をグリフィンドール以外にしようとしていたのかい?迷ってしまったとか……」
「違うわ!私はちゃんとここに入るって約束したから背く訳がないじゃないっ……お兄ちゃんってなんでそういう事言うのかしら」
ああ!冗談だよ!怒らないでよメリッサっ
とご機嫌取りに走るジェームズは彼女の好物を探しに忙しなくテーブルへ視線を向けるが、見つからず頭を抱えていた。
いつもの余裕綽々なジェームズが妹に振り回されているなどこんなに面白い物は無い。そう思いながら楽しそうに見ている悪戯仕掛け人は黙って傍観に徹する。
そんなメンバーに挟まれているレギュラスは色々思う所はあるが、ひとまずは彼女の機嫌を戻そうと自分から話を振る。
好物以外でもメリッサのご機嫌取りに効果的なものがあるとレギュラスが知ったのは随分前の話だ。レギュラスが彼女の笑顔に弱いように、メリッサもまた……
「ねえメリッサ」
「なにレギュ…らぁ…っ!?」
ぶわり。そんな言葉が似合うほどに扇子を一気開くようにメリッサの頬に甘い赤が広がり、レギュラスから目を離せなくなる。
その様子にジェームズも他の三人も気付き、不思議そうにレギュラスを見るが彼はただ笑っているだけだ。ただし……これでもかと愛情を詰め何度も彼女に触れた時のそういう時の瞳で。
勘のいい人から見てもレギュラスが好意を纏ってメリッサを見ているように映るだろう。だが二人の記憶の奥底には深く爪痕が残るほどに刺激的な目。
記憶が無いメリッサもその前の記憶があるメリッサもまったく同じ反応をする。きっと何度死んでも忘れられない、目の所有権を盗られてしまったと勘違いするほどに熱い瞳だ。
彼に好意を抱いてる女性がこんな目を受けてしまえば一瞬で落ちてしまうだろう。そういう所もシリウスに似ていると言われれば、また不服そうにするだろうが。
「折角の記念の日なんです。怒らずに笑ってください」
「……ッ、は、い」
兄の言う事では無くレギュラスの言う事に顔を真っ赤にしてきいたメリッサにジェームズは、険呑が見える鋭い眼差しでフォークの先を力尽くで折り曲げた。
ヒッとピーターの怯えた悲鳴など気にせずに優しいジェームズ先輩の営業は閉店し、妹に手をだす奴はフォークの様に根性をへし折ってやると薄暗い意思に火をつけた。
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