ボーダーラインを飛び越えて 1

□third.
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 意味深な視線を受けたシリウスはよく分からなかったが、とりあえずレギュラスへウィンクをする。するとふ、と笑いを零したレギュラスは感慨深そうに付け足す。

「兄さんに話す途中でジェームズ・ポッターとも少し会話しました。今まで全く接触がなかった相手とですよ?イレギュラーなことばかり起きているんです」

ーーだからこそ、初めて家族に話してみることにしました。受け入れられようとそうじゃなかろうと、何かが今までと違うことになる……そんな予感がするんです。


 ジェームズの名前が出た途端シリウスの目が輝いたのを見て、レギュラスがメリッサの事となると目が輝くのととても似てるのでは、とレギュラスは少し嬉しかった。

今回はきっとレギュラスとメリッサの兄である彼等の力を借りる可能性がある。それは今までなし得なかった……いやしようとも思わなかった一つの選択肢に違いない。


「兄さんは僕がグリフィンドールに入って困った時に助けてくれますか?」

「ああ?あー……まあ助けるだろ。そうだ、組分け帽子の寮分けの時とか大声でレギュラスのこと呼んでハグしてやるよ!」

「、それはちょっと恥ずかしいので、ああ……そうだ。メリッサも道連れにして下さい。あの子の恥ずかしがる姿は中々に愛らしいので癒されますから」

「お前……えげつないな」

 久しぶりに距離の縮まった兄弟の仲の良い会話はテンポよく続くが、状況が状況だ。

置いてけぼりを喰らう父の咳払いに、放置したままの会話へ何事も無かったようにレギュラスは続ける。少しだけ母の泣き声が弱まった気がした。


「まあ……このように兄さん達の力を借りて想像もつかなかったアイデアが浮かぶかもしれません。それ以外にも僕は今までと違う手段や道を探す努力はやめません」

「すべては希望論だろう。レギュラスまでグリフィンドールへ入ったとなれば私達がどれだけ立場がなくなることか……理解しているのか?」

「ならばご当主にお聞きしますーー醜聞に塗れ屈辱を受けながらも後世まで家を残すか。今のまま高貴なる純血主義の家柄も地位も守り、三十年以内に脈々と続いたブラック家を断絶させるか。どちらを選びたいんです?」

「……」

 これには父は眉間の皺を深くさせ黙り込む。どちらも選びたくは無いだろう。

だが妄言では無いと信じたい父の気持ちと、妄言だと断言しなければならない当主の立場が眉間の皺を深くさせる。世界に音が無くなったといえるほどに静寂がブラック家を包むこと約五分。

全身の力を抜き背凭れに寄りかかった父は、聞いた事も無いような気怠さの感じられる声でポツリと呟く。


「……家がなければ、這い上がることすら出来まい」

 レギュラスどころかこの場にいる皆が息を呑む。それはつまり……

「前者……ということで、よろしいんですね……?」

「現段階ではな。後ほど、レギュラスに開心術をかけてそれで最終決定するつもりだ」

 そういうと父はまた深く長い息を吐く。彼へ妻が怒りと混乱が混じる呼び止めがかかるが、手で制止をかけこれからのことに頭を悩ませていた。



「マジかよ……レギュラスがジジイを認めさせちまった……!」

 シリウスの興奮が滲む声で囃し立てる。呆然とするレギュラスの肩を掴み揺さ振る衝撃で我に返ったが、あの父を説得させた現実が彼はまだ信じられないのだ。

力の抜けた小さな声がレギュラスから聞こえ、まるで今までの百戦錬磨の強者のような雰囲気が嘘のように、ただの臆病な子供である彼に戻ったみたいだった。

「まさか、ここまで上手くいくなんて……」

「……お前まさか実は説得する自信なんてなかったなんて言うんじゃねえんだろうな?え?」

「そのまさかですよ」

「…………レギュラス。詐欺師だけにはなるんじゃねえぞ!」

「なんです急に」

 詐欺師の才能をシリウスが発見してしまい危うげな未来に釘をさす。

穏やかな雰囲気が流れる兄弟とは裏腹に両親は母が父を問い詰め「どうするつもりなんです!」とヒステリックに叫んでいた。

涙が滲む所為で色が変わったハンカチを皺が付く程に握りしめる母は、まだレギュラスの発言が妄言だと信じていた。



 母は簡単には納得しないだろうと踏んでいたレギュラスは一瞥し直ぐにリビングの隅にいるクリーチャーを手招きする。

状況が読めず困惑したままだがあっさりと近寄って来たクリーチャーの怪我一つ無い頭を撫でて、レギュラスは安心してか細い息を零す。

「あの……レギュラス様?」

「うん?ああ、気にしなくていいよクリーチャー……大事な話は一段落ついたんだ。後で一緒に紅茶でもどう?」

「はい……はい。クリーチャーめがレギュラス様のお気に召したものをお持ち致します!」

「……俺のは?」

「……シリウス様がですか?いらっしゃるのであればご用意させて頂きます」

「クッキー用意するなら甘いのは止してくれ。控えめな」

「はい!」

(またひとつ……前と違う所が出来た。メリッサ、今度こそ……) 





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