ボーダーラインを飛び越えて 1
□third.
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元々シリウスには僅かに話していたことと新しいことを混ぜて話を進める。
もうすぐ両手ほどの回数分自分の人生を繰り返していること。初めては死んだ時の記憶が、お祝いの日に甦り皆を混乱させたこと。もうすべての記憶が戻ったこと。
繰り返した人生の内ブラック家が潰えたのを何度も見たこと。
ここまで言うと一番ショックの少ないシリウスが疑問を持ったのか、やんわりとレギュラスへ質問に滑り込ませる。
「なあレギュラスが死んだあとに、俺とか家族が死ぬ訳だろ?何で先に死んだお前が家が潰れたこと知ってんだ?」
「ああ……僕が先に死んだ場合だとメリッサも死ぬまでに僅かにタイムラグが発生しまして、その間に家族の顛末を見たりしてました。基本的にどの人生でも同じようなものでしたね」
シリウスが家を出るのが毎回変わらなかったのは、家との確執があった上に家族仲がお世辞にもいいものとは言えなかったからだ。
意図的に変えなかったものが勝手に変わる訳が無い。よって家族の死亡理由も、家が継ぐ者がおらず潰えたのも必然に違いなかった。
そう続けると両親の顔色は益々血の気が引いて行く。妄言として聞いているにしてはショックを受けているとレギュラスには見えた。
「話を戻しますが、僕は前回までずっとスリザリン生でした。でもそこで十八歳を迎えたことは一度もありません。七年生まで無事に上がれても卒業する前に死を迎えてます」
ーーボーダーラインでも引かれているんでしょうか。
そう軽く笑って言うレギュラスに目元を張らした母が小さく聞き返す。
きっと何を言っても母を泣かせてしまう。それは血を裏切ったシリウスよりもずっと罪深いとレギュラスの良心が零していた。
「僕とメリッサが越えられない……いわば死のボーダーラインですかね」
また母が泣き出す。精神的に参ってしまったのかもしれない。父がそっとハンカチを出し母へ手渡せば顔を下げて涙を拭っていた。
尊敬の念すら感じている両親が弱さを見せる状況が辛うじて残るレギュラスの良心や同情を揺さ振るが、彼女と生き残るために強く芽吹く狡猾さがいい傾向だと囁く。
家族を何度も優先させた結果ーー今日までボーダーラインを越えられていないのは事実だから。本当に終わらせる為にいま、頑張らないといけないぞとレギュラスは囁きに耳を貸す。
(ここまで来て……もう戻れやしないのに、親の涙で揺らぐなんて僕は甘いのでしょうね)
「ボーダーラインを越えられないので僕はブラック家の当主になり子孫を残す事も出来ません。兄さんも家を出るので……ブラック家直系はヴォルデモートの手にかかるまでも無く、緩やかに潰えます」
ーーでも、もしかしたら
勿体ぶってそう続けたレギュラスに何とも言えない視線が集まる。長年失敗してきたからこそ見つけ出したひとつの答え。
でも何よりも可能性があるひとつの選択肢。これはレギュラスだけでなく家族も選ばなければならない重大な選択肢だ。
「ブラック家が未来で潰えない可能性があります。僕がスリザリンでは無くグリフィンドールへ入り、もう一人の運命共同体のメリッサと終わらせる方法を見つける事です」
そこまで大人しく聞いていた父は難しい顔で唸りながら眉間の皺を解す。ため息交じりに言う言葉は、家を重んじるブラック家当主として重みを感じさせた。
「……仮にお前の妄言が全て事実であったとしよう。そのメリッサという女と終わらせる事が出来なかったから今日までレギュラスは死に続けているんだろうに」
「その通りです。だけど今回は前回、いやこれまでと全然違うことを僕は何度もしているんですよ?」
「ほお言ってみろ」
「ーー家族に頼りました。特に……兄さんに」
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