番外編

□猛烈ホームシック症候群 完
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「ちょー悲惨なめにあったし…」

アキラのポテトまで手を出し口に三本同時に放り込んだ紫原は疲労感を僅かに滲ませ不満をぶちまける

そんな紫原のナゲットをひとつ貰ったアキラは紙ナプキンで手を汚さないようにナゲットを包み、何口かに分けて食べる

案外美味しいソレを作って貰おうと心に決め、ナプキンで指の油を取りながらも返事を返す

「今度は席を移動する奴はテーブル下匍匐前進は禁止にしよう。脛がいくつあっても足りない」

「本当になあ、アレ絶対足に鉄仕込んだ奴いただろってくらい痛えんだって俺初めて知ったわ」

青峰は隣でサラダをつついている黄瀬に「脛見るか?絶対赤くなってる」と妖しい勧誘顔負けの誘いを持ちかけるが、本気で嫌そうな顔を返されてしまった。解せぬ

「第一黒子を俺達の真ん中に置くこと自体愚策だったのだよ。アイツは背を気にして…る訳なんて無いのだよ!否定したから人の飲み物に勝手にミルクテロをするなッ」


暗殺者が手を伸ばし誰かのトレーから無断でミルクを拝借し中身を烏龍茶にぶちまけた

悪意しか無い劇物へと変わり果てた飲み物に肩を落とす緑間に同情の視線が集まる。だが本心は口が滑るから…と誰もが思っていた

沈んだ空気を一身するようにアキラが亡き緑間の意思を継ぎ、本題へと入れば全員の視線が集中する

「この一ヵ月間お前達が代わる代わるホームシックになって最後がテッちゃんだったのだから、彼が本日の主役だと最初に言っただろう?」

「は?なーに皆ホームシックとかかかってたのー?みどちん泣いた所あんま見た事ないんだけど録画残ってないー?」

「やめろ。どうせ皆泣いた癖に見たがるなど悪趣味だ…」

泣いた覚えがある奴等はこの場に半分以上いた。そいつらが一斉にあちこちへ顔を向けるものだから隠す気など無いのだろう

黙って皆を見守っていた赤司がクスクス笑い、灰崎の二の腕へ顔を押し付け誤魔化す。もうその姿に黒子と灰崎は無言で顔を見合わせ無音カメラで一枚撮る

髪を伸ばし始めた赤司の途中経過を何とか仕入れたいと灰崎は恥を忍んでアキラへ頼むか本気で悩む


「安心しろセイジュだって泣いた」


ピシリと固まる赤司。カメラ撮影に挑んでいた二人を覗き明後日の方向を見ていた連中はその言葉に現実世界へ戻ってこれた

我らがマザーたる赤司が泣いたなら俺達が泣いてもおかしくない。そんな雲行きに変わる雰囲気をぶち壊すのは、出汁にされた当人に決まっている

「っ何でそうやって全部言うんだ!俺が泣いていた理由と皆が泣いた理由は全然違うのだから出汁にするなよ…っ」

「セイジュが理由が違っても自分達と同じ状況に至ったと知れば安心するだろうから言った。皆から誰よりも愛されてる証拠を何で嫌がるんだ?」

「愛さ…いや、その。アキラがそういう思いで言ったと判断出来てなかった俺が悪い…かも」

「そうか。じゃあ認識するついでに早く灰崎から離れろよ。さっきから髪も触らせ過ぎだ。俺のいない所でやれ」


にっこり笑って言う話では無いのに嫉妬全開で灰崎を牽制するアキラの姿に、灰崎は嫌そうな顔をするし赤司は嬉しそうな顔をして正反対だ

命じられるままそっと灰崎から離れた赤司に彼はショックを顔をで体現するが、小声で「券を使った時までお預け」と小悪魔の囁きに耳を貸してしまう

ショックを掻き消した様子まで全てを録画していた黒子はカメラ機能を閉じて、飢えていた萌えが満たされていく感覚に不気味な笑いを零す


「んふふ…何ですか。全員でこっちを見るのは止めて下さい。事務所通して」

「事務所どこっスか」

「赤司ホールディングス」

「本当にありそうなのを出すな!誤魔化しに巧妙さを入れてくるなど性質が悪いのだよ…」

桃井がうっとりと色香を漂わせ微笑む赤司へ、女として何かが負けている気分を誤魔化してそっと聞く

「本当に赤司ホールディングスってあるの?」

「…ふふ」

笑って誤魔化す…いや聞かない方がいいのだろう。きっと今の赤司の頭の中はお花畑なのは見て分かるからだ

自分の飲み物をストローで吸いあげた最後にそれを噛む仕草を見れば尚更その思いが強くなり、我関せずと顔を逸らす面々の教育が行き届いている具合が素晴らしい


「さあ話しを戻そう」

軌道修正の声がかかり赤司以外の色取り取りの眼がアキラへ突き刺さる。もう話は逸れないと判断しバックからクリアファイルを取り出し一枚の紙を抜きテーブルの上へ置く

前屈みになってでも書類を見ようとする連中におかしく思うがアキラは上機嫌に詳細を説明していく


「書類に記載されているように各校に既に許可を貰った。これで一ヵ月に一回は少なくとも会える手筈は整ったよ」

ーーそこには八名+##NANME1##が最低でも月に一度会える旨を書いてあった


今までは敵校同士ということでこの場にいるメンバーでさえ会う事が憚られたが、会える日に限ってはその垣根を超える許可証ともいえるだろうか

ホームシックに陥るほど密度濃すぎる時間を過ごしていた面々からしてみればまだ足りないのだが、会えなかった日々を考えれば比較にも値しない。天国へのチケットだ


各々時間差はあれど皆が驚愕から期待感へ眼の色が変わっていく。前よりも会える頻度が高まると分かった途端に自然と口元がニヤケてしまうが誰も水を差すマネはしない

表情差は大して無いのだから。この場にいる皆の心にある同じ感情の名前に身を任せて何が悪いのか

例に漏れず誰よりも嬉しさを隠しもしないアキラは結露が伝い落ちるジュースを持ち、顔の高さまで持ち上げる


「この案に賛成する者は同じく自分の容器を持ち上げてくれ」

するといの一番に賛成を同意したのは黄瀬。ついで青峰、紫原…と続々と張り合う様に重さの違う容器が上がっていく

一番最後は灰崎かと思えば赤司だった。だが誰よりも嬉しそうな笑みを零しており、アキラへ眼伏せし合図を送る

同じく合図を返したアキラは一人ずつの顔を見回し満足そうに口角をあげた。そうして語尾が期待感で揺れるのを誤魔化しながら案の成立へ足をかける


「全員賛成と受け取るよ。さあこれでホームシックとは無縁の生活が俺達を待っている訳だ。祝杯といこうか?」

「お酒じゃないのはご愛敬だね」


乾杯。その言葉に釣られて少々無理な体勢だろうと歪な円を飲み物が入る容器が形作り、柔い容器同士が当たる音とトプンと飲み物が揺れる音が歓迎する

そして中身を各自で飲むのだが…烏龍茶にミルクを入れられた緑間が吐き出す。とてもじゃないが彼の舌に合わず、素知らぬ顔をしてる黒子へ怒鳴りつけた

その間も青峰や黄瀬が下品な笑い声をあげ烏龍茶まみれの緑間を指差したり、紫原がドン引きして距離を取ったりと。中々に騒がしい


怒られている身分の黒子はその騒がしさに薄く笑う

(あの頃に戻ったみたいですね)











翌日。いつもの切れ味の鋭いツッコミが返って来たと妙に火神に喜ばれる黒子であったが、妙にムカついたので膝かっくんを喰らわせた

「何すんだ!こっちは一応お前を心配してたんだぞ…っ」

「すいません。イラッとしました」

「そこは本音を隠せよッ」


頭を掻きながらも火神は黒子の雰囲気が少しばかり変わっていたことに気付き不思議そうに小首を傾げる

性根が素直な彼は率直に黒子へと問う。何かいいことでもあったのか、と

すると南極の氷を融かす様な暖かな光溢れる笑みが零れ、薄い雲がかかる空の隙間から覗く青空を見上げ穏やかに言う


ーーええ。皆の憂いも吹き飛ぶ素晴らしい出来事が僕等を待っているんです



(同時に最高級の萌えが見れるなんて本当腐の民冥利に尽きますよね!)






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