番外編

□猛烈ホームシック症候群 完
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確かに黒子は赤司とアキラの絡みが見たいので会いたいとラブコールを送った。だがまさか中学時代の旧友全員集合とは考えもしなかった

バスケ部である事を主張する抜き出た高身長が連なるマジバの一角

平均身長自販機越えという山々に囲まれソファの真ん中に座らされた黒子は、久しぶりに会えた喜びの中に身長の低さが際立つ席順を強いた連中に恨み節をぶつけることから始めた

「…誰ですか悪意しか無い席順に僕を押し込めたのは…黄瀬くんですよね」

「なんで!?俺にそんな権限ある訳ないっスよ!」

「ああ…それもそうですね」

「うん。自分から言い出して何だけど、もう少しは否定して欲しい」


黄瀬の虚しい叫びに誰も突っ込むことは無く。頼んだ品を取りに戻った赤司とアキラが戻るまでに、席が狭すぎることを解消する為に隣のテーブルと合体させようと案が出る

怒りに支配される黒子と空腹で動けない紫原を除く他の面々が椅子とテーブル班に分かれ周囲の視線を集めながらも合体させ、席順のシャッフルが発生


このタイミングを逃すかと獲物を見つけた暗殺者の如く俊敏に黒子は動き、一番端の席に座し鼻息荒く満足気だ

そんなに嫌だったのかと高身長共が思うが口には出さず大人しくシャッフルに気を遣う。何故か黒子以外の面々が頭を下げがっかりしていると漸く皆を呼び出した張本人達が帰ってくる

山ほど積み重なるバーガーと飲み物を二人で分けて持ち、持ち切れない品は給仕役を買って出た見知らぬ店員が頑張ってくれたらしい


「あれ何でテッちゃんが端っこにいるの。今日の主役はテッちゃんなのに」

その言葉に血走る黒子の眼がアキラに突き刺さり、おどろおどろしい口調で責めれば流石のアキラも強く言い返せそうにない

「自販機よりも高い山に囲まれる小鹿の気持ちがキミに分かりますか…!」

「か…開放的?」

「ファアック!!」

親愛なる黒子に罵倒され顔面蒼白になるアキラをそっと緑間が回収する

お前はよくやった…!絶望に浸る霞んだ気持ちでそう聞こえた気がするとアキラは感動で涙が溢れそうだ


珍しくも罵倒をした黒子に額を軽い力で叩き嗜めるのは我等がマザー赤司。結んだ後ろ髪をひょこひょこ揺らし叱る姿は愛らしいと悶える灰崎を黄瀬が本気で気持ち悪がっていた

「こら。公衆の面前で下品な言葉を使うな」

「ならばいっそのこと古語で罵倒するというのはどうでしょう!!」

「いいんじゃないか?どうせこの場にいる殆どが理解出来ないんだ…ちょっと詰めてよ黒子」

「膝上にどうぞ!!」

「怒り過ぎてどうかしちゃったの?青峰、黄瀬。なんの為に黒子の近くに座っているんだ。早く機嫌を取って俺が座る場所を作れ」


ーー横暴だ!

あまりにも黒子へ向ける甘さの欠片も無い無茶振りに悲痛な叫びが飛び出るが、赤司本人は大して悪い事を言った自覚が無い

不思議そうに首を傾げる始末。それに一番の反応を見せるのが旦那よりも親友である灰崎だった

華麗なる赤司厨がアップを始め気絶から回復したアキラに早口で有無言わせずに頼む

「おいっ藍澤が端っこ座ってねえで俺と交換すりゃ俺が良い思い出来る!ついでに二人分座れるように詰めろ野郎共!」

「崎ちんってホントーに赤ちん好きだよねー。行くならテーブルの下匍匐前進で行ってよ邪魔ぁ」

「赤司厨。ついでに皆に品物を配布してくれると信じているのだよ」

「調子こいて人をパシリにしようとしてんじゃねえぞッあと紫原。テメエの意見は絶対聞かねえ。俺が通れるくらい痩せろっ今すぐに!」


いつ開戦してもおかしくない白熱した情勢。ぎゃあぎゃあと騒がしい連中に流石に店長に根回ししておくべきかと赤司が悩んでいると背後から懐かしい女性の声がかかり振り向く

我が家の最後の家族が来た。子供を迎える親のような心情で柔らかく彼女を迎え入れ赤司は微笑む

「遅れてごめんね。て、あれ?赤司くん座れてないの…?」

「やあ桃井。そう、だね。まだ座ってない。大柄な男が沢山いるから座るのも一苦労だよ」

「え!?じゃあ私の座る場所も無いの…もー!大ちゃん何で確保してくれなかったの!」

「うおっさつき今来たのか、ちょっと待て今灰崎がテーブル下で匍匐前進をしてっから…痛ッ誰だコノヤローッ」


どうりでテーブルが震度四クラスの揺れが発生している訳だ

強制移動を強いられている灰崎までも「ファック!!」と叫びながら無駄に長い脚へグーパンチを入れ制裁を下し、痛みに悶え乍らも反撃を受け戦争はいつの間にか勃発したらしい

灰崎を踏もうとして長い脚が別の人の脛を蹴り、新たな内戦が幾つも勃発する悲惨な光景に…


笑顔を崩さない赤司は桃井の肩を抱きそっと他人のふりを決めカウンターで何か頼もうと誘導していく

困惑してる桃井の体を無理矢理移動させ、完全に背後の奴等に背を向けて何をいうかと思えば、赤司らしい配慮に満ちた会話運びを披露

桃井がオーダーする時にはすっかり悲惨な状況の事は頭から抜け落ちていた



悩みながらオーダーをした為少し時間がかかってしまったがその間に赤司が離れ、品物が渡されたタイミングで「場所がとれたよ」と戻って来た

流石の手腕で終戦へと導いたとは思えない晴れやかな顔つきに桃井は、物理と舌戦で勝ったのだと察する


文字通り屍の状態でテーブルに倒れ込む高身長達。だが桃井も伊達に濃い中学時代を過ごしてきた訳では無い

そっと黒子の横に一人分空いた席を赤司に指差された事で惨状すら忘れて恋に狂う可憐な少女として意識を切り替えてしまったのだ


怒りを完全に顰め、ついさっき与えられたバニラシェイクを一身に吸う黒子に断りを入れ、拳ひとつ分の距離を保ち桃井は腰を下ろす

それだけで幸せで死にそうになっている姿は可愛い。少なくとも赤司は口元が緩むほどだ

ちょいちょいと後ろで結ぶひよこの尾のような髪を触られながらも赤司は上機嫌で生き残りと穏やかに会話を始める

「可愛いな桃井」

「ああ可愛い(赤司の髪が)」

「持ち帰っていっぱい桃井の話しが聞きたいな」

「ああ…持ち帰ろう(写真と動画を撮らねば)」

「やっぱり灰崎はそういってくれるって思ってた。ふふ」



赤司は含みに気付いていながらも大して気に留めずに薄く笑い声をあげる。真正面にいる黒子が携帯を赤司へ向けているが別に構わないだろう

赤司は久しぶりに全員集合できただけで嬉しいのだから



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