番外編

□猛烈ホームシック症候群 5
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アキラの姿が見えれば黄瀬が無意識下に口籠る可能性が高い。なので券を懐に収めた灰崎は二人を別室へ移動することを提案する

「別室でイチャついていればいいんだな?」

「死ね!」

いけしゃあしゃあと言い放つアキラに気持ちの篭る一言を投げつけ鬼の形相で追い出した

最寄りの和室へとそそくさと移動しパタンと襖を閉じる音を聞き、灰崎は渋々黄瀬が横になるソファと僅かに離れた黄瀬の足側のソファへ腰を下ろす


事前に聞いた情報を頭で纏め話しの順序を立てていく。これが赤司からの相談ならばデレデレと蕩けた顔で一週間は話し続けるというのに…

灰崎に眼もくれない黄瀬に苛立ちは募る。ささくれる心に影響された声が素っ気無く問題解決へと踏み出した

「…自称藍澤の親友様は大事な事すら言えなくて泣いちまったんだって?ハハ、ざまあみろ」

「……」

「何が親友なんだか。リョータクンの中で友達も親友も同じなんだろ。ようするに…簡単に切り捨てることが出来るお手軽な友達?うっわサイテー」

うぷぷぷ、馬鹿にした口調で散々笑い飛ばし侮蔑の賛辞を並べ続ける灰崎に、黄瀬の指先がぴくりと動く

それに気付かずアキラへの怒りすら黄瀬へぶつけ始め、生気の無い瞳に暗い光が宿ったことに彼はまだ気付いていない

「中学ン時が異常だった事くらい高校いけばお前でも理解できただろう?あの時は理解できなかったろうが、テメエは依存し切っていた」

「……」

「藍澤アキラに。キセキの奴等に。あの時の時間に…離れてもずっと友達だよね、あの時間を一緒に過ごしたんだから…なんざありえねーよ!」


灰崎も黄瀬程では無いが多少依存していたのは認める。だが彼は名前だけの関係では無くお互いに自立した意識下で親友や友達を継続している

黄瀬はその段階にまで達しておらず異常空間で築いた関係をなあなあで過ごしている

初めてそこを飛び出て感じる、本来の人間関係の距離感に違和感を覚えて悩む黄瀬は自分の殻を破ろうと足掻いてる最中なのだ


(何で無自覚のコイツの為にアレコレ教えてやらなきゃいけねえんだか)

癪に障る話だがこれも仕事。座ったまま黄瀬の足を蹴りあげた灰崎は不快感で顔を顰め、死んだように思考を停止する黄瀬に怒鳴りつけた

「…その中で俺とお前はダチなんて呼べる間柄じゃねえことだけはお互いに分かってんだろ、オイ」


もう一度蹴る。すると頭の方から小さく舌打ちが聞こえ、それだけで何故か腹立たしさを灰崎は感じた

刺々しくなる空気。肌で感じながら黄瀬はゆっくりと眉を寄せ疎ましい灰崎のお説教を嫌々聞く

「当然連絡なんて取らねえ。その癖会って話しをすれば口喧嘩だ。ダチでもねえのに、リョータクンが出来ないダチへの接し方の手本みたいだなあ?」

「…っ!」

「なんでリョータクンは親友にも友達にも出来ないことを、友達では無い俺に出来るのでしょーか?…起きてんならキチンと自分の言葉で言ってみろや」

そうするとむくりと起き上り、灰崎の蹴りが届かないように座る位置をわざとずらした黄瀬は泣き腫らした仏頂面で呟く

「…ショーゴクンになら嫌われても別に痛くも痒くも無いから」

「言葉にされると本気で腹が立つな」


決して灰崎を見ずそっぽを向く黄瀬

出来るならば今すぐ殴り掛かりたいし泣き腫らした酷い顔を散々貶したいのだが、前払いの券を手に入れてしまった故に一刻も早く会話を終え仕事を片付けたい

ベクトルが真逆すぎる灰崎の心は千切れてもおかしくないだろう。畳み掛ける様に会話を転がしていく灰崎に黄瀬は乗らざるを得ない状況下に引きずり出されたのだから

「友達や親友には嫌われたくない。だから大事な悩みとかも吐かねえし良い子ちゃんな面だけ見て貰おうなんざ甘えだろ」

「何が悪いんだよ。誰も傷つかなきゃ問題なんて無い」

「ーーリョータクンが悩みを抱え込み傷付き泣く姿を見た藍澤の野郎が差し伸べた言葉さえ、跳ねのけたお前は…自分と親友を傷付けた自覚ねえんだな」


心底馬鹿にした灰崎の言葉に黄瀬は反射的にそっちを見てしまった。驚愕の中に焦りが滲み、傷付けてしまった事実に困惑しているように見える

(だからテメエは馬鹿なんだよ)


「友達だと思ってたら、もう友達なんかじゃないと言われた気分だったろうなあ。だから黄瀬が安易に罵れる俺にアイツ頼み込んできたんだぜ?」

「あ…、ちが…!」

「何が違う?全て事実だしリョータクンが藍澤を拒んだのも事実。友達でも親友でも簡単に傷付き離れると思ってるお前の落ち度だ」


今にも泣き出しそうな黄瀬は必死に言葉を拒む為に首を何度も振る。その顔に非常にいい気分になるのは灰崎だ。ヤクザがご満悦にしている姿にすら見えてしまう

もし灰崎がアキラだったならばここまでの言葉は言えなかった筈だ。人を地獄の仕事を斡旋してきた奴だろうと、人を意図的に追い詰める言葉を吐きたがらない性根の良い男だから

だからこそ赤司が長年連れ添ってあげていると思えば、非常に不服だ。黄瀬よりは好きでも苦手は苦手なのだ、早々変わる訳が無い


「傷付けるのも傷付けられるのも嫌なら、友達も親友もやめちまえ!」

「っ嫌だ!」

「はあ?なら傷付けた張本人のリョータクンは関係が戻るとでも思うのかよ」

「わか、らない。でも…ちゃんとゴメンってアキラっちには言ってくる」

「ハハッ謝罪は出来て悩みを結局打ち明けられない状態が変わんねえなら意味なんてねえだろ。その場しのぎですねアーハイハイ」




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