番外編

□猛烈ホームシック症候群 2
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「またか」

影の薄さに定評がある黛は呆れながらも後輩の差し出される手に鍵を乗せ、追い払う手付きをする

ぺこりと丁寧に頭を下げパタパタと彼らしくない動作をして出ていった赤司を最後まで見送る事はせず、阿鼻叫喚と成り果てたコート内で一際騒いでる連中へと嫌々近付く


昨日の光景再びとばかり実渕の渾身の力の抵抗を鍛え抜かれたマッスルパワーで羽交い締めしている根武谷…近付いてきた黛に気付き「助かった」と零す葉山

目を覚ませと無情にも黛チョップを受けた実渕は割と強めの衝撃と共にハッと我に返ることに成功する

「はっ…征ちゃん達と根武谷に似た男の子がいなくなってる…!」

「よかったぁぁ…レオ姉ったら全然オレ等の言葉聞いてくれなくて困ってたんだ。あざーした黛さん!」

「手放した瞬間また暴れるんじゃねえぞ…フリじゃねえからな」

「うるさいわね、アンタじゃないからもう大丈夫よっ」

「お前二回もハニートラップに引っかかっといて何調子こいてんだ!?」

「あれだけ幸せなハニートラップなんてこの世に無いからに決まってるでしょ!」

「反省しろッ」

ガーガー言い合う二人を他所に葉山と黛はほんの少し感じた嫌な予感を話し合う

「昨日も来て今日も来た。それもキセキの世代の奴が…明日も来そうだな」

「明日も?ならレオ姉はもう抑えられないかも。ハハッそうなったらオレも我慢なんてしませんから、黛さんよろしくー!」

「…は、我慢?え…」

スタスタと口論してる二人の元へ戻った葉山は笑顔で黛の顔面に爆弾を投げつけていき、当の本人はそ知らぬふりだ

残された黛がどこか遠い所を見つめ思う事はただひとつ

「明日も誰かが来るくらいなら、洛山に隕石が落ちてきますように」







昨日に引き続き今日も使う事になるとは。そんな思いを少しだけ思う赤司は鍵を使い昨日ぶりの室内へ先陣を切る

入ってすぐに脇に避け後ろに続いていた三人が入ったのを確認してから内鍵をかけ、皆のあとを追いかけた



適当な箇所に四人が集まり、自然と二対二に分かれて座り上から見下ろせば歪な四角形のようだ

ずびずびと鼻を啜る青峰の隣はアキラが座り、桃井の隣は赤司が陣取る。赤司とアキラの視線が斜めにぶつかり苦笑を浮かべ合う。思う事は根本的に似ていた

(昨日の俺みたくすごい泣いてる…)

(昨日のセイジュみてえ)


「うう…突然お邪魔して、ごめんね。二人とも」

「いいよ桃井。俺達も中々会えないことを寂しく思ってたから会えて嬉しいよ。ただ…泣きながら来るのは止めようか」

「ずま”ね”え”…っ」

そう。青峰と桃井は桐皇発ち飛行機に乗り洛山高校の門をくぐりアキラ達を発見するまで、物凄く泣きながら大衆の視線を一身に受けながら来たのだ

紫原も泣いてはいた。だが洛山についた頃は眼尻が赤い程度だったが、こちらは本気で泣きながらやってきた。思わず絶句したものだ


桃井はまだ泣きながらでも意思疎通が出来たが酷いのは青峰の方だった。正直いまも言葉の最初から最後まで濁点が付きっ放し

アキラのタオルを借り男泣きの最中だ。タオルの天命は本日、尽きてしまっただろう

「寂しいかあ…大輝も桃ちゃんも二人の寂しさが消えるのはどうすればいいかね」

「そうだね。二人が同じ寂しさという訳でも無いなら解決もまた違うだろうし…うーん」

一応言っておこう。狙ったように顎に手をやり考え始めた二人だが…これは無意識だ

始まりはミラーリングという心理学のマネごとをアキラから遊びでしたのがきっかけだったが、今ではもう互いの癖になっていた


そしてその動作を見ていた桐皇チームの様子がおかしい。顔を覆う手とタオルを眼より下げ食い入るように見ているからだ

熱視線を感じアキラ達がこれまた同時に見上げれば桐皇組は眼を隠す。気のせいかと考え込めば再び熱視線が…繰り返す事なんと五回…先に折れたのはアキラだった


「俺達の顔に変なとこでもあった?随分熱視線を感じたのだけれど」

「ず…写真で見るよりも生で見る二人は感慨深いよ。同じ動作かわいいよ」

「ずびび…おれも、かん…むらむらくる」

「青峰お前だけは意味が違うからもう何もいうな…!」

恐らく桃井の言った言葉を復唱しようとして諦めベクトルが恐ろしい程に違う事を口にする青峰に赤司は頭を抱えた

可愛いのは鼻をすする子供っぽい所だけだ


青峰の言葉をスルーしたアキラは桃井に「何かしてほしいことがあるか」と訊ねる。すると潤ったままの瞳をキラリと輝かせ前のめり気味に言ってきた言葉に呆気にとられる

「わ、私は藍澤くんと赤司くんに桐皇のユニフォーム着てイチャついてほしい…!」

「あとひざまくらしてくれ」

「……」

言葉にならないとはこういう時の事を指すのかもしれない。先程までの大量の涙は何処へ行ったんだお前等と言いたい気分だ

アキラの頭の中では他校のコスプレをしてイチャつけば寂しくないと言われたも同然で。本当にそうなのだろうかと疑心が脳内会議に一石を投じる


まるで時間稼ぎをするように赤司がすっかりその気になってる嘘泣き疑惑浮上中の二人へ本気度を伺う

「まて。他校のユニフォームを現役で敵チームである俺達が着る訳にはいかないよ。それと何でもう泣き止んでいるんだお前達は」

「安心して!文句を言われる前に相手の弱みを握って黙らせるから…!」

「気合いで泣き止んだ。確か荷物の中にユニとジャージがある筈…さつきも自分でもダボダボな奴あんだろ。出しとけ」

「了解だよ大ちゃん」

赤司の抑止の声など気にも留めずにユニフォームとジャージを取り出した二人を見て、なんだか赤司も泣きたくなってくる

(せめて…この場での撮影会だけは…中止してみせる…!)


コスプレは絶対に止められないことくらい分かっているのだ。最悪この場で着替えをしなければならない羽目になるのはごめんだった

床を見つめながら決意する赤司が顔をあげそれを口に出そうとした数秒前にアキラがその台詞を奪っていく


「コスプレ大会を開くならここじゃなくて、俺達の家に招待する。泊まっていっても構わないから移動しないか」


…一歩先にアキラに言われた言葉を聞いて驚きつつも惚れ直すハプニングが訪れるなど、赤司でも分からなかったらしい

ひとり惚れ直して赤面する顔を必死に床に向けバレないようにしてる赤司の側で機嫌良く了承する声がする


バタバタと荷物を持って駆けていく慌ただしい足音をBGMにして、ぽふぽふと頭を撫でられる感覚に赤司の肩が跳ねる

手の温度も大きさも誰よりも赤司が知ってる上に惚れ直した相手の手だ。顔をあげることはしなくともアキラの労わりは届き、赤面は暫く止まりそうにない

「耳まで赤いぞ。どうせ家にいったら赤面なんて散々見られ撮られるんだから、見せることに馴れろ」

「…うるさい、俺が顔を赤くしてるのは、そこが原因じゃない…っ」

「あーはいはい。お手々繋いでやるから早く帰りましょー」

「ッアキラが俺を惚れ直すマネをするから…!」

「あーはいはい…この後どうせお互いに惚れ直すのに、気が早い奴だな」

「そういうことも簡単にいうなっ恥ずかしくて死にたくなる…」




(ヤバいな。アイツ等アレでまだイチャついて無いって思ってるんだからどうしようもねえよな)

(もっとイチャついてるって自覚あることしてるからじゃない?赤司くんちゃんと手繋いでるよっはやくお家行きたいな…!)

(新居だ新居、新婚の家に邪魔する感じだけどいーよな?沢山動画撮れるようにギガ数を増やすか…)





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