番外編

□猛烈ホームシック症候群 1
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部活の支障になるから…頼むから別の所へ移動してくれ

黛にそう言われ手渡されたミーティングルームの鍵を使い誰もいない部屋に入り再び密着したまま座る。赤司とアキラの体重がぐぐっと紫原にかかるが大して咎められなかった

「別に煩くしたつもりも無いのに追い出されちまったな」

「黛さんが萌えていたのアキラ気付いた?黒子みたいだったよ」

「うわ気が付かなかった。ぷるぷる震えてたのは気付いてたけど…むっくんごめんね。移動させちゃってさ」

「…んーん」

アキラの肩口に顔を埋めたまま喋るとアキラがくすぐったそうに身を捩る。二人は紫原と黒子には甘い

未だ落ち込んでると見えたのだろう。二本の手がそれぞれ違う大きさと強さで頭を撫でて慰めてきた。紫原は微かに笑い甘んじて優しい掌にすりよる

「二人とも俺ちょっと体勢変えたいから腕離してくれる?」

赤司の言葉に腹に回っていた腕は外れアキラと向き合う。そのままガバッと抱き付き赤司の腕は、アキラの脇をスルリと潜り紫原の背中に指先だけ届く

なんとか二人を抱きしめようと何度も腕を限界まで伸ばすが、紫原のように体全体まで抱き込むなど到底無理な話だ。やがて疲れを感じたのか赤司が空いてるアキラの肩に額をあて休む


それぞれの顔の距離がとても近い。そういう関係の二人はともかく紫原が嫌がる節は一片も見せない

寧ろ二人が近くにいる事、会話も表情も全てが何も変わってない中学の頃のままだと嬉しさが心に波紋を零す

「赤ちん、アキラちん…」

どうしたのかと紫原を同時に見てくる二人は本気で同じ顔を浮かべていた。心配そうな表情をしてるのに会えて嬉しい気持ちをちっとも隠さないのだ

ふと笑みが零れた紫原は肩口から少し顔をあげて茶化すように言ってみた

「なんか黄瀬ちんみたい…」

「涼太みたいとか…初めて言われたけど、やっぱ猫の方がいい」

「黄瀬みたい…俺達は犬に見えたのか。あまり嬉しくない、猫がいい」

京都から遠く離れた神奈川にて黄色い彼は珍しくも体育館中に轟くくしゃみをし笠松に太腿を蹴られていたことはこの場の三人は知らない

告白した訳じゃないのに振られた気分だと不思議がる黄瀬に自慢かと非リアの面々から悲痛な叫びが襲った事も一生知ることのない話だ


不満気な様子の二人だが、くすくす笑ってる紫原にムッとした顔をする。まるで鏡に映したように同じ顔をしてると本人達は気付いていない

ぐにゅっと紫原の片頬を摘ままれぐいぐい横に引っ張られる痛みに笑いは消えてしまった。不機嫌なロウのように眉を寄せた赤司になんとか謝らなければ。過去の経験がそう教えてくれた

「ごむぇーんでみょひょっぽいへは」(ごめーんでもちょっと似てた)

「に・て・な・い・の!」

「ごへえんああいんいはーい」(ごめーん赤ちん痛ーい)

…まあ謝ってるつもりでもあまり意味を成さない謝り方だったが。それでも二人には分かっていた

少しずつ紫原に元気が戻り笑顔が戻ってきたことを。頬を引っ張られてるくせに楽しそうに笑ってることも


ああいーん(赤ちーん)と名を呼ばれ苦笑を浮かべたまま頬を解放してあげると、ほんの少し膨れて赤い頬を自分で揉んで痛みを解していた

保護者フィルターのかかる二人にはそれは猫が顔を洗っている愛らしい姿にしか見えず、二人の萌えパラメーターが振り切り頭を撫でまわしたい気持ちを必死に理性で押し留める


「アキラちん、なんで震えてんの風邪ひいちゃった?」

「風邪はひいてないかな…セイジュ、どいて、ハグを…しにいくんだ…!」

「ずるい…先手必勝ッ」

「んばっ!?ーーさせるかよ…!」

ぼそぼそと赤司とアキラが紫原に聞こえないように交渉すれば、十秒も持たずに赤司が交渉決裂を決め、すぐさまアキラから離れ紫原へ抱き付こうと動く

だが一瞬離れたその瞬間にアキラは赤司の足元へタックルをかます。足に腕を絡められ逃れる術を潰した結果など決まっているのだ

「うあ、あ…ぐっ」

素っ頓狂な声をあげ尻餅をつく。恐らく生まれて初めてであろう転び方をした赤司は、自分が何故立てなかったのかやらどうしてこうなったのか一瞬のうちに何度も考えた

そして自分の足に両腕を絡ませ転んだ拍子に巻き添えを喰らい床に寝そべった体勢になってるアキラがすべての原因だと理解し、ギッと眉をつりあげ罵った

「〜〜〜っばかアキラ!!なんて危ないことをするんだッ」

「お前なら上手く転ぶと信じてた」

「そんな信頼なんていらないよ…っ第一もし俺が腰を痛めていたら今ので絶対に悪化させていた。そうなってたら全部アキラの所為だぞ」

「ふはは、男冥利に尽きるな!」

「笑い事なものかっううぅ…こんな、こんな恥ずかしい転び方、紫原の前でするなんて…っ」

うるうると涙の膜を張り始めた赤眼は羞恥心と悔しさで泣き喚きたい気分だ。だがそれは転ぶのと同等に見せたくない

キセキの世代達には既に何回も見られてるというのに相変わらず変なプライドは存在する。赤司が泣くものかと抗う程に可哀相な程ぷるぷる震えていく


流石にこれは泣くとアキラは真顔で第六感を働かせたが敢えて何もしなかった。するとアキラの背後から神の使いが救いを差し伸べる

「赤ちん、くる?」

ひらり。大きな腕が赤司を招き入れようと開く。迷う素振りも無く赤司がそこへ飛び込もうと再び過ちを繰り返す

勢いよく飛び出したのはいいが足元は未だ拘束されたままだ。何かのギャグ漫画のように綺麗な孤を描きアキラを下敷きに倒れ込む


アキラの痛そうな声が聞こえるが全体的に彼が悪いので情状酌量の余地は無い。床に直接どこかを打ち付けた訳では無いが、赤司はもう我慢の限界だった

「ぅー…うあぁああ…っ」

「…むっくん。これ、俺の所為だと思う?」

「うん。赤ちんを泣かせるのっていつもアキラちんだったし。何だか…あの時に戻ったみたい」

ふふふ。泣き声をBGMに懐かしそうに笑った紫原はとりあえず、赤司の前より伸びた髪を撫で泣き止むのを楽しそうに待つことにした




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