番外編

□金色に伸びる径(みち)
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無事に交渉にも成功し「そちらの言い値で買おう」という金持ちのみが許されたワードを使い、その値段プラス迷惑料と多少のチップを込めた額を払えば、高額商品で札束に馴れてる筈の店員が一気に青褪めていた

もう二度と来ないとはいえ良い物を見せて貰った気でいた二人はこれ以下の金額は出さないと言えば、震える店員の手にブラックカードが乗せられ危うく救急車騒ぎになる所だった

明日郵送で着物を返品する約束を気を失いかける店員に受け、心配しながらも店を出れば街灯の灯りがじんわりと雪景色に映っていた


「うわ…もう暗いね。冬だしこれから歩いていける場所ならいいけど…」

「一応近い筈なんだよな。でも今からじゃまだ混んでるから飯でも食って時間潰すか」

「…まだ目的の場所とか大切な日とかの説明はしないのかい」

「あと…数時間待ってくれ。ちゃあんと、セイジュに面と向かって言うから…な?」

「数時間…湯葉とか湯豆腐とかのお店を回れば丁度良いよね!大丈夫ボクの勘はいつも正しいからっさあ行こう!」

「おいおーいセイジュちゃーん?一応ここは頬を染めて感動する所なんだけどな!」

「うんうん。暖かいもの食べて頬を赤らめよう。うんうん」

「…ま、いっか。寒いし丁度いいから、はいセイジュさん。俺の手を引いて連れて行ってください(本当に食い意地張ってるよな。旦那より飯って…飯って…可愛いからいいか)」

「喜んで!!」


前に一度来たといってた時の地形はしかと残ってる様で、道を間違えることなく湯豆腐専門店に行き着いたのは流石だとアキラは心底思った

次々と行く店がセイジュの中で決まってるようで腹がいっぱいにならない配分でオーダーするのも実に素晴らしい

セイジュの長年の知識と経験でアキラが好みの品をバンと決めるので最早文句も何もない

蕩けんばかりに好物を食すセイジュと同じく蕩け、満喫し湯葉の店で締めの和風デザートを食べている内に当に九時を回っており、アキラがぎょっとしていきなり席を立ち「行くぞ」と言うのだ


あんみつを食べてるセイジュが「食べてからでいいじゃないか」と駄々をこねるも、聞く耳を持たず先に会計を済ませ脱いだ羽織までもいそいそと着こむ姿にセイジュが折れた

上品かつ手早く完食し羽織を着こむセイジュの腰に手を回し早足で店を出る具合に、本気で焦っているのだと漸く察する

なぜならアキラはセイジュの身支度やら食べ終わるのをじっと待って一緒に席を立つ紳士ぶりを徹底しているからだ



先程の呉服屋の店員たちのようにバタバタと走り数分もすれば、夜にしては多めの道行く人の群れとすれ違う

皆が駅の方へ向かう道を抗って奥へ奥へと駅から遠ざかる。まるで見知らぬ世界へ飛び出すような、わくわくともドキドキとも分からぬ胸の高まる感覚に非日常を感じる


人にぶつかることもなく群れがどんどん離れて、街灯の明かりが薄暗い夜道を照らす。手を強く引かれながら走る

立てかけられた看板をすれ違う一瞬で読みセイジュはふ、と高校時代の昼間に一度来た記憶を思い出す




竹藪。紫原でも天辺に手が届かない程に高く、空を覆ってしまう程に高く時折差し込む木漏れ日が眼を細める程の小路

そこに高校一年の夏に来たことがあった。実渕や根武谷、葉山…無理矢理連れてこられた黛。観光案内を兼ねたレギュラー陣で親睦の意味もあったのだろう

《でけえだろ赤司!お前の何倍もあるんだぜ!》
《当たり前でしょっ変なこと言ってんじゃないわよ!》
《ここらへんは大豆系しか店ねえんだよなぁ…あー肉がいい。タケノコよりやっぱり肉だろ!!》
《煩いのよアンタ達ッお黙りなさいよっ》
《実渕が一番うるさ…ッテメエ俺のラノベをどこに捨てる気だ!竹藪に捨てたら…あああああっ》

なにをするにも煩くて。賑やかで。でもどこかキセキのメンバーといた懐かしさを感じさせた

ぼんやりと上を見上げ竹藪の先端が風にゆらゆら揺れるのを見つめる赤司に、ラノベ捜索に竹藪に突っ込んで行った黛以外のメンバーが同じ景色を見る

すると物足りなさそうに実渕が言ったのだ

《ここってただの竹藪だからアタシみたいなか弱い子が夜歩くには怖いのよね。ライトアップでもすればデートも盛り上がるしいいと思うのだけど》
《ああ?何世彷徨い事抜かして…ブヘラッ、ごふ。た、たしかそんな噂あった、あったよなあ!?葉山!》
《えー…あったっけ?でも女子が言ってた気もする。多分な!多分》
《ふぅ…手が汚れるわまったく。それ実現するなら当分先ね…アタシ達が大人になった頃浸透していればいいのだけれど…ねえ征ちゃん》

鼻血で汚れた拳を後手に隠しながら実渕は笑顔で聞いてきた。その言葉に赤司は深く考えずに、自然と答えを出した

どんな顔で言ったのかは分からない。だが実渕はあらあら、と恋バナをする女子のような深みのある笑みを赤司に向けていた気がする


《ーーその時、あなたは誰と見に来たいかしら?》
《…俺は、ーーー》






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