番外編
□金色に伸びる径(みち)
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冬の一大イベントとしてクリスマスがあげられる
日本に居た頃は当時のバスケ部の仲間と集まって騒いだり、寝ずのオール大会に突入し死闘のゲーム大会まで開催されたのが随分懐かしい
後日談として、その一日だけで電気使用料が妙にあがったらしくセイジュの片眉がひくりと吊り上がったのは全力で視線を逸らした
言えるものか。全員寝落ちした後もゲームもテレビも暖房も電気もつけっぱなしだったと
一番最初に起きたアキラが「セイジュにバレたら本気で嫌いな料理フルコースにされる…!」と顔を青褪めながら、忍者の如く必死に証拠隠滅を図ったのだ
その後数日間ジトリとしたセイジュの眼差しに冷や汗を掻くも決して問い詰められる事がなかったのは、セイジュの温情である
我が家の忍者(仮)の必死に後片付けをする姿を寝ぼけ眼で発見したものの、その必死さに笑みが零れそっと目を閉じ見ない振りをしてくれる良妻ぶり
だから結婚した今現在もアキラは何も問いただされてはいない。だがこれがほぼ毎年の流れとなったのだからセイジュが黙認してるのだと気付かない訳が無い
きっと今年も同じ目に合うと笑ってしまう
「まあ大人なったし全員でどっかに旅行でもいけば問題無いんだが…結局休みの最終日は俺達の家(日本の拠点)で打ち上げだろうしな」
自室にてクツクツと笑いを零しながら明日の為に荷物作りをするアキラは、パスポートを引き出しから二人分取り出す
現在は師走の末。クリスマスの話をしたが今回はその数日前にとある一大イベントの為にこうしてアキラ自ら荷造りしてる次第だ
パスポートを開き有効期限を確認。五年間は問題が無い。中央に載る顔写真を見て自然と笑みが零れて仕方ない
「…クリスマス前に俺からのプレゼントだ。ちょっとした里帰り…きっとセイジュの色なら映えるだろうな」
顔写真に軽いキスをひとつ
満足気にパスポートを閉じキャリーバックに最低限の衣類を詰め込み、数日後に控える生誕祭をいかに盛り上げるかと胸を躍らせた
「ねえ…何も教えられずに身ひとつで連れ出されたボクの気持ち理解できる?」
「俺がいるから何も怖くねえだろ」
「すっごい安心する。だけどせめて行先くらい教えてよ。じゃないともう一緒に寝てあげなry」
「京都」
「…京都?」
数日後のとあるプライベートジェット機の中で軽いひと悶着があった
アキラの胃袋どころか床から存在に至るまで全ての手綱を握るセイジュの一声に食い気味に白状しひと悶着は決する
予想外な答えに眼をぱちくりさせるセイジュの膝にコロンと横になり、長く垂れる赤い髪の一房にスルリと指を通し艶々なソレに病みつきになれば、アキラの髪にそっと指が通る感覚
互いが互いの髪に触れながら会話などまるで毛づくろいだ
これが普通の飛行機ならばソファなど無いから出来はしない…ソファやベッドがあるのが当たり前と思ってる二人は一般的な飛行機に乗るとカルチャーショックを受けるのはまず間違いない
「なら今年は日本でずっと過ごすつもりかい?」
「おう。セイジュがテッちゃん達と初詣したいとも言ってたしアイツ等と予定が合う内は、な」
「ふふっ皆は年越しの予定に合わせて仕事の配分を考えてるんだって。きっといつまでもだよ」
楽しみだね、と穏やかな笑みを浮かべるセイジュ。同じく笑みを浮かべながらもアキラは勿体ぶった口振りでこうも強行手段を用いた本当の理由を口に出す
「年越しやクリスマスはアイツ等と過ごす。でも今日だけはセイジュと二人きりで過ごす。俺にとっては大事な日だからな」
「…今日が、かい?確か日本時間で二十日…特にイベントなんて無いのに大事なの?」
「……は?」
明日の天気はハリケーンですよ。なんてことは無い顔をしてとんでもないことをいったセイジュにアキラは本気で驚き、思わず上体を一気に起こし鼻が触れ合いそうな距離で恐る恐る問う
「本気でいってるのか…ジョークだろ?」
「本気だけど…なんでそんなに落ち込んでるのアキラ」
ぽすっとセイジュの肩口に顔を埋め重たい溜息をついた
十二月二十日はお前の誕生日だろうが。人の誕生日は盛大に祝った癖に何で自分の事を忘れてるんだ
そう愚痴りたかったが怒りのような、哀しさというか色んな感情が腹の中でぐるぐると燻ぶり、結局口に出す前に肩口に顔をグリグリと押し付ける事に逃げてしまった
ケラケラとくすぐったさに笑うセイジュの陽気さがほんの少し憎い
(人の事を大事に思うあまり自分のことを疎かにするのは…褒められたことじゃねえだろ)
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