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□オリオンのままに 45Q
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人の影の少ない第四体育館は誰かの喚き声で耳を覆いたくなる
世間一般では人気モデルと認識されてる黄瀬は手が何本あっても足りない程敗北し、子供のように床に転がり駄々をこねている最中だ
「やだあああ!!俺が勝てるまで絶対に帰んないで!青峰っちは特に!!」
「るせええっ足にしがみ付くんじゃねえ!負け犬がっ」
「まだ負けてないっス…ネバーギブアップオレ!」
彼等の足元にはひとつのバスケットボール
そして無数の汗がコートの局所的に…つまりは彼等の足元周辺に散らばるのを見ればどれだけ1on1をやったかわかるだろう
黄瀬がまだ帰らないで、と駄々をこねる理由はアキラとの数時間前の会話が原因だった
「ねーねーアキラっち!この前俺がそろそろ一軍にあがるって言ってたじゃないッスか」
「ああ。十分やっていけるだろ…何その手」
アキラの眼前に手を差し出し何かを要求する手付きだ。ジト目で見るアキラにニンマリと微笑み物乞いタイム開始
「お祝いにアキラっち、俺とマジに1on1してほしいッス」
「…………却下」
「何卒!何卒!」
ぐわんぐわんとアキラを揺すりごねる事十五分。呆れかえったアキラが提示した条件はひとつ
金眼に数字のイチを表す人差し指がドドン、と移り込み思わず寄り眼になった黄瀬をよそにヤケクソ気味に早口で言い放つ
「一度でも大輝に勝てたら、なんでも聞いてやる」
獲物を狙う豹が舌なめずりをし青峰を探しに第一体育館までダッシュするまで二秒も無かった
そして滅茶苦茶反抗してる青峰を連れてくるまで五分もいらなかった。どれだけ本気で願いを叶えたいのか言わなくても分かるだろう
「黄瀬ェ…!男らしく負けを認めろっつの!」
「うえええ、嫌っスぅうう」
「ああ…もう助けてくれアキラ、あと俺の願いを叶えてくれよ」
黄瀬に本気で泣き付かれてるらしく心底参ってる青峰がずっと傍観してたアキラに声をかける
それをちゃっかり聞いてた黄瀬は青峰の男らしい足からバッと離れ、アキラの正面から抱き付き迷子が母親を見つけたように、泣きながら言葉にならない声を出す
「まあかてうのいいい!!」
「まだ勝てるのに。だとよ」
「ありえねえ!黄瀬が俺に勝てる時が来たら太陽が爆発するってのッ」
黄瀬を剥がす事なくヨタヨタと歩き辛そうにしつつ青峰の側まで寄りアキラは彼の願いを聞く
不機嫌なゴロツキの様な顔から天真爛漫な子供のように眼を輝かせウキウキしながら青峰が叶えてほしい事とは…
「俺の部屋が欲しい!」
「…親に頼めばいいじゃないか」
「違えッアキラん家に沢山空いてる部屋のひとつに俺の部屋が欲しいっていうか…家で喧嘩した時に避難できるし、どうよ?」
多少我儘がすぎるという自覚も無理難題を言いつけてるのも青峰は分かっていた
だからこそ申し訳なさそうに不安げに聞く。だがなんだか青峰らしくなくてアキラは笑いを噛み殺せずに漏らしてしまった
「ふは、あはは…なんだよ大輝お前らしくもなく、しおらしいなんざ…俳優でも目指してるのか?」
「俺だって我儘言ってることくらい自覚してんだよ。ハイリョだハイリョ」
「キセリョ?」
「呼んだっスか」
ノーノーと顔を横に思いっきり振る青峰
そのままアキラにしがみ付く黄瀬の襟首をひっ捕らえ、無理矢理引きはがそうとするのに必死に抵抗してより強い力でしがみ付く黄瀬
まるでアキラが母親で子供二人が奪い合いをしてるようなむず痒い光景にみえて仕方ない
「いい加減離れろ黄瀬!訴えるぞ!」
「法廷でお会いしましょう!!」
「上等だこの野郎!」
本気で法廷入りしそうだった雰囲気を察しアキラは、優しい手付きで黄瀬の肩を叩き離れるように告げた
ショックを受けながらもしょぼんと頭を下げ離れていく頭に手をやり、髪を乱さぬ程度に撫でれば喜ぶ犬耳と尾が見えた気がする
「取りあえず…青峰の願いは聞き入れた。今すぐ俺の家に行って手続きするか」
「!」
「お、おれも行く!いいよねアキラっち!?」
必死な形相に断りを入れれるほどアキラは残酷な人間では無い
法廷騒ぎになりかけた二人は有頂天組と変貌し、三人仲良く肩を並べアキラの家へ向かうことが決定された瞬間でもあった
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