2

□オリオンのままに 35Q
5ページ/5ページ








眠りにつくと早々にスノードームへ引き摺り込まれる

最早何度も引き込まれる身としてはもう少し穏やかに引き込んでほしい


「え?これ以上に無いほど優しい扱いなのに酷いなぁ」


赤司と瓜二つの容姿。左眼が橙色な点を除けば外見的には双子だ

ただ中身は動と静と別れる程に違っていた



冷たそうな雪の上に胡坐を掻き目の前に座るように促してくる

なにやらワクワクしてるのか始終笑みを浮かべてる


「機嫌いいね”僕”は」

「そうかい?ああ、そういえば今日はいいことがあったんだ」

「そうなの?」

「ああ」


”僕”の向いに座ろうとすると何かが脛に当たる。少し涙目になりつつ原因をみても何も見えない

ひょっとして心霊現象かと青褪めれば、可笑しそうに眼を細め「いないから」と宥められる


「幽霊じゃないなら俺は何に当たったんだ!?怖いのは無しだよ!」

「だから幽霊じゃないと…−−そうか。視えないのか」



急にトーンダウンした”僕”はスッと笑みを消し真顔で見えない何かを見てる

どうやら”俺”には見えない何かを視えてるのは彼だけらしい


一応脛を抑えてた手を伸ばし”僕”が見つめる視線の辺りを触ろうとするが


スカッ…スカッ


「…触れもしない、か。まだ早すぎたか…?」


顎に手を置き考える”僕”は小声で考えを呟く

一応聞こえたが意味がさっぱり分からない”俺”は暇そうに辺りをキョロキョロと見た


すると前回までなかった樅ノ木(もみのき)がぽつんと立っている

紫原と同じくらいだと少しテンションが上がりつつ駆け寄る


「わっわっ!なにこれ…光ってる」

樅ノ木にはクリスマスのグッズはついてなかったが、代わりに周囲を浮遊するダイヤモンドダストもどきが掌サイズに固まりあちこちについてた

一色ではなく明るい色から暗い色まで一通りありキラキラと光っている

思わず触れたい、と手を伸ばす。爪があたった瞬間にドロリと溶け出し一瞬で世界を呑み尽す


「!?」


抗う間もなく頭の天辺から足先まで何かに浸かった気がしたのも束の間…急に視界と聴覚だけが鮮明になる

体は動かせない上に声もでない。呼吸はできるが、確認できた景色に動揺して上手く吸えてる気がしない



(ここ、俺の家だよな。玄関ホールの二階の廊下か…?)

天井には眩いシャンデリア。床には赤い絨毯が廊下一面に敷かれ誰かが立っている

メイドが列を成し誰かを出迎えてる所のようで歩いてくるのは、赤い髪を上で纏めた女性と子供サイズの影


(なんで影が歩いて?いや…さっきと同じで俺が見えないだけで…人間なのか)



「おい」

「…え?」

急に話しかけられバッと視線だけを横にむけると今までいなかった筈の二人が出現

見覚えのある姿だが大分幼いが彼等は…


(兄さんと…俺?)

俺を可視できない二人は二階から下の人間を見下ろし話し始めた


「見ろ。あれが赤司の血を汚した奴等だ」

兄…いまは十歳くらいだろうか。侮蔑の眼差しを向け幼い俺に教えてるようだ


「ちをよごすとはなんでしょうか」

「結婚してるのに結婚相手じゃない奴の血を引いた子を産んじゃったのさ。その可哀相な子があの子」

兄が指差す先を幼い俺と共に視線で追う。やはり俺には影にしか見えなかった

だが幼い俺はほんの少しだけ眼を輝かせ、幼子らしい拙い口調で兄に言うのだ


「おれ、ともだちになれますか」

「…征十郎は怖い物知らずだな。よし、父さんには俺から許可を貰おう」


パァァッ

現金だなと今なら思うが当時の俺は、どんな物よりも友達が欲しかったのかもしれない


(だけど俺…なのかなこの子…頭よさそうに見えるし、寧ろ”僕”の子供の頃なんじゃ…)

ーーあれ?”僕”っていつからいたっけ…



考えに浸る俺を除き他の人は動きを止めない

兄が膝を折り幼い俺の眼前に小指を差し出す。指切りげんまんのポーズを兄がするとは…信じられない世界だ



言い聞かせるように兄は言う

「いいかい。深入りしすぎてはいけないよ」

「…なかよくしてはいけないのですか?」

「あー…」


幼児には難しすぎたらしい。わざと砕けた言葉で説明すれば理解できる程頭はいいようだ


「お話はしてもいい。でも征十郎が興味を持ちすぎて他のことが疎かになるのはダメだ」

「…はい」

「話を詳しく聞くならあの子の弟のこと、かな。それなら父さんだって許してくれる」


大分ゲスい顔をして言い聞かせる兄に違和感を持たずに静かに応答する幼い俺は人形の様だ


(ここまで大人しく話を聞く子だったとは…いや、今でも兄や父に歯向かえないなからこの頃から調教済みだったか)



「いいかい征十郎。一番大事なことだからね」

ニコリと整いすぎた笑みは反抗できない何かを纏ってる。青峰の言う魔王スマイルとはこのことかと察する


ピンと伸びた背筋が引き締まる程幼い俺は緊張していた。兄の言うことは絶対だと身に染みていた


「ーーこちらの情報は一切与えるな。お前の個人情報はいいが、俺や父さんや会社も何もかも…赤司家に関することは言うんじゃないよ」

「ーーはい」


魔王スマイルが消え場を支配する圧力が消える。幼い俺がホッと息をつき兄の小指に小指を絡めた

満足そうな兄の顔には少し寒気がした



そんな姿を見下ろし俺はただただ、あの子と呼ばれる影の子が心配になった

例え幼い俺と友達になった所でまともな関係を築ける訳がないからだ


「にいさん。おれ、あのこのなまえしりません」

「ああ。まだ教えてなかったか。いいかい、あの子の名前はーーー」


ザザッ…ザザザ…


偶然か意図的かは分からない

口元を読み取ろうとする視界が揺らぎ耳に直接ノイズがかかる

読むなといってるのか。何もわからないままグルリと回転する感覚に三半規管が悲鳴をあげる


「う、」

気付いたらあの雪の感触。全く冷たくないのに雪の感触がする変な場所に帰ってきたのだ

膝をつき未だぐるぐる回る視界と混乱する頭を抱え蹲る


「きもち、わる…」


何が気持ち悪いのか。胸か頭かさっきの景色か

操り人形と化してた自分か

まったく知らない人の記憶を覗いた気分が気持ち悪いのか、わからない


ただ、分かったことが一つだけある

「あの子の事、知らない」

顔も名前も声も姿も性格も…なにもかも


何で知らないのか…記憶に一切ないのかは分からず仕舞いだが



サク、サクと雪を踏む音が聴こえ近付いてくる

足音は俺のすぐ後ろで止まり、グイッと体を起こしにかかる


「ちょっと、荒いんだけど!」

「痛みは無いだろう」

「ないけど、無いけど…あれ。治った」


身を起こされピタリととまる不調

やっと解放された気分にハイになった俺が軽く感謝を述べれば軽く返事を返される

ぐいっと伸びをしてる俺に”僕”が何気にきいてくる



「さっきと違う所が一か所ないかい?」

「えー…探すの怠い」

これでも精神的に疲れてるんですけどと文句を垂れつつ、辺りを見てみる

先程まで”僕”がいたであろう箇所は雪に跡が残ってるからすぐに分かった

そして視界の中に答えをみつけ、クイズの答えを見つけて喜ぶ俺は何も気付いてなかった




「あれでしょ、”僕”が座ってた向いにある四角い段ボール!」





”僕”の笑みが先程まで見てた兄の寒気がした笑みと全く同じだったことに


「…よく見えたね。さっき見えなかったのに凄いじゃないか」


”僕”の敷いたレールを一歩一歩進んでいたことに。操り人形は俺自身だったことに欠片すら気付かずに




”僕”の策に堕ちていく




.
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ