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□オリオンのままに 35Q
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剛田のクラスへ乗り込んだアキラは普段仲良くしてる女の子と腐の民の助力を得て彼を連れ出すことに成功していた


オロオロする彼を引き連れて保健室への道を戻る

普段のアキラなら剛田に自ら話しかけに言っただろう。だが今日に限っては背を向け無言を貫いていた

それなりに付き合いのある剛田は察する。アキラは自分に怒ってるのだと


「剛田くんは授業中携帯を見ないんだよね」


唐突に投げ掛けられた問いに心臓が跳ねた

淡々と文章を読み上げるように言われるのは初めてで、赤司が「怒ると怖い」と言ってた理由が分かる

背筋がヒヤリとするのは彼の怒気か。恐怖心か


「う、うん。授業後に返信するように、してる」

「真面目だね」


全く褒められた気がしない。何がアキラを怒らせる原因となったのか剛田には見当もつかない

その様子をチラッと見てた藍眼が細まる。怒りは消える様子は無い


「キミは初めから真面目だった。灰崎と付き合ってからも変わらず真面目に、文武両道を貫こうと努力を惜しまない」


ピンと伸びるアキラの背筋は彼の品位を、威厳を引き立たせる

ただ歩いてるだけなのに、どうしてこんなに自分は怖がるのか。剛田は不思議だった


「そんなキミが唯一真面目じゃなかったのは恋愛面だった」


くるり。後ろを振り返る形で剛田と向き合うアキラは眉を顰め口調を乱し攻めていく


「アンタが灰崎を他の何物よりも大切に思ってるのは知ってるさ。けどよ、だからって突き放すのは違えだろ」

「…」

「恋愛には駆け引きが大事だと誰かに教わったりしたのか?付き合うのは難しいのに終わるのは一瞬だと教わらなかったのか」


そこで剛田は気付く。アキラがここまでも怒ってる理由を


「アキラくんが怒ってる理由…」

「は?」

「灰崎くんを泣かせてる俺を怒ってるんだと思ってた」


一瞬言葉に詰まり直ぐにしかめっ面を向けてくるアキラに先程まで感じていた恐怖は掻き消えてた

相変わらず優しい人だと再認識。照れくさそうに頬をかき答えを導き出す


「…俺達が別れるのが嫌…なんだよね?」

「……いいから、行くぞ」


急にそっぽを向き足早に去る背中を急いで追いかける

軽く競歩になりかけてる中会話が再開する


「大体俺はまだ怒ってるんだッパートナーを不安にさせて泣かせるなんざ男の風上にもおけねえ!」

「そうだねっホントに、俺が悪かった!」

「俺に謝るんじゃねえ!灰崎に直接いって許しを乞えよ」

「ああっ」

「…灰崎は俺よりお前がカッコいいとさ。冗談じゃねえ」

「ほんとかい!?」

「うるせっ」


口の悪いアキラを初めて目撃した剛田だったが特に気にもせず、こういうギャップに赤司くんは惚れたのかと察していた

気の許せる友達伝手に灰崎が自分をどれだけ好んでいるかを聞くだけで、どれだけ寂しい思いをさせただろうと胸が苦しくなる


ああ、俺は馬鹿だ。妙な知恵をつけなければよかった話だ

恋愛の先輩に怒られてようやく理解するなんて、馬鹿だなぁ

ちゃんと言わなきゃ



「ちゃんと好きだって、愛してるって伝えないと」



もう目と鼻の先に目的地がある。急に足を止めたアキラを通り越しドアに手をかけ、動かない様子に手を止めた


「どうしたの」

「…いや、伝えてやれよ。その言葉」


寂しそうな笑みと千切れそうな細々とした声だったから深く印象に残るものの、気に留めなかった

彼の真意は知らずに剛田は強く頷き感謝を述べて保健室へ入った

入れ替わりで赤司がでてくる僅かな時間の隙間にアキラの心からの本音が出ていたなど、誰も知らずに



「……俺には言う資格も、言われる資格もねえよ」

自嘲染みた歪な笑みが浮かびすぐに消えた




* * * *




「アキラっ」

「よお…っと、急に抱き付くほど俺が好きか」

「好きっ」


扉をしめた瞬間飛び付いてきた赤司をよろめく事も無く抱きしめた

ついでに渡されたブレザーを羽織る間も胸部に顔をすりつけてくる辺りは苦笑ものだが


好きかと問えば間髪いれずに好きと返すこの可愛い子をどうればよいのか。取りあえず抱っこすれば問題ない

急に浮き上がる感覚には慣れたご様子。嬉しそうな笑みを零し首に手を回す赤司に、つられるように笑みを零す


好きな人の笑顔はこんなに綺麗で幸せなものかとアキラは実感していた


「灰崎は大丈夫そうか?」

「大丈夫だね。だって彼氏の顔みた瞬間に恋に落ちた様な顔してたもの」

「みたかった」

「俺が代わりに見といた!」


じゃあもう心配は無いな

そう片を付け移動する。行くあては無いが一応人通りの少ない場所にでも行くとする

…授業中にサボってる自覚はあるようだ


保健室がある棟を離れ別の棟へ移る。ワックスのきいた廊下を歩いてる最中ふと赤司が口を開く


「あのさ…」

ーー俺…愛してるって言ってほしいんだけど



そう口に出そうとして諦めたように閉じる

言える筈も無い。アキラ本人が言おうとして諦めるのを何度見たことか


(きっと…俺が言うのもアキラが言うのもアキラが言うのも…まだ、ダメなんだ。もう少し待とう。今じゃない)


自分に言い聞かせ気持ちに封印をする。心を抑え付け我慢する…大人になったら当たり前のことだ

だが赤司は多感な年頃でもあり、誰よりも深い事情を抱えていることを本人でさえ忘れていたのだ


忘れるな、というように急に左眼に強い痛みが走る。反射で瞼に手をやり蹲る

「痛っ」

「どうした!?眼に何か入ったか」

「…あれ。なんとも無い」

「…驚かせんなよ。一応見てもいいか?」


抉られたような痛みは瞬間で消え違和感さえ無い

手を外し眼をあけてもなんとも無いのだ。アキラからの返答も同様だ

二人して何だろうと首を傾げ直ぐに話題は変わる


「えっと、ほら。灰崎言ってたけど俺達も家族に報告する?」

赤司が降った話題は最悪だったが気にした様子も無くアキラは少し考えてから答える


「…早くても高校卒業付近じゃねえと。今は言うつもりはねえな」


二人の未来を考えてくれてると喜ぶ半面、今は言うつもりが無いとの意見にショック半面が赤司の心情だ


「そっかぁ…そう、だよね」


マイナス面の感情につられるように言葉も揺れてしまう

その様子に気付いたアキラが「仕方ない奴だな」と苦笑し背を撫でる

何度も気を使った手付きで撫で時折ポンポンと叩く。完全にあやされてるのが丸分かりだ



それでも自然と笑顔になるのはなぜだろう

「…ふふ」

ふと高い所から見下ろすと赤司の足がぷらぷらと揺れてる

力もいれていない為揺れるのは必然なのだが…赤司はふと、思ってしまう



(俺の心も…不安定、なんてね)




隙を作ってしまったのだ

見えない何かが笑みを作りパチリと音を立てたのを聞いたのは一人だけだった



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