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□オリオンのままに 35Q
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ついた時には第四保健室は開錠されており足を踏み入れ馴れた手付きで施錠
窓辺のカーテンも閉め切っている室内は昼でも薄暗く、奥から僅かな服の擦れる音がする
それと同時に部活中の固い声色とは違う、親が子を呼ぶような擽ったい声で名を呼ばれ、灰崎は全速力で声の持ち主に飛び付く
声の主である赤司が受け止め切れず転がる様にベッドへ崩れれば、白い喉から艶やかな声が滑り出て皆の動きが止まる
「うあぁっン…あ、違う違う違うからね!?」
「お前、押し倒されて、喘ぐとか…アッハハハ!」
「誰の所為で俺がこんな体になったと思ってるの!」
「はいはい俺の所為、俺の所為」
慌てて赤司が顔の前で両手を振り否定するも説得力が無い見事な喘ぎだった
敏感という言葉で纏めるには少し過敏で…まるでつい先程まで致していたような…
そこまで考えハッと気付く
「ま、まさかお前等…さっきまでここで…!」
バッと未だ横たわる赤司を見れば考えは強ち間違ってなかったのだと灰崎は膝を抱えいじけた
上気した頬にとろん、と普段より緩い表情。ベッド脇にある籠には二人分のブレザーが荒く畳まれてる
一切の皺が無い水色のシャツには黒いタイは無く、第三ボタンまであいた首筋やら胸元にはチラホラと赤い華が咲く
ここまでいえば伝わるだろうか。独特の事後感のある赤司の様子が
「安心しろ灰崎。もうシーツは綺麗だぜ」
ぽすっなでなで
勝手に人の頭を撫でるアキラを怒る気にもなれず、あやす手付きなそれを甘受
意外にも繊細な撫で付けに頭を左右に揺られ漸く終わったと思えば…急に脇に手を差し込まれグイッと急上昇すると共に浮遊感が襲う
ひょい
「!??」
「おーいセイジュ。灰崎をお前の隣に下ろすから早く起きろ」
「んーっ、わかってるよ…」
気怠そうに起き上り少し横へずれたその場所にストン、と灰崎は下ろされ挙動不審気味に狼狽える
流石に抱きあげられたことは灰崎にとっては羞恥心を煽るものだったらしくほんのり頬が赤い
「なななん、なんで俺を抱っこした…!?」
灰崎と赤司の向かいに質素な椅子を置き腰を下ろしたアキラはケロリとした顔で告げる
「少しは灰崎の気分も紛れるかと思って。ああ、大丈夫誰にもいわねえから」
サラリと言われた言葉に「プライバシー保護感謝する!」や「なにその気の使いよう、俺は男デス!」やら脳内を駆け巡る
赤司が不思議そうに灰崎を覗き込み視線がバチッと合う
…結局せめてもの仕返しとして選んだ言葉に羞恥心が爆発するなんて思いつかないほど灰崎は混乱していた
「お、俺の彼氏の方がカッコいいんだからな!」
羞恥心爆発カウントスリー、ツー、ワン…ボンッ
スルリと飛び出た台詞を漸く理解した途端に火が付いたように頬を紅潮させ、きょとんとしてる赤司を見てることしかできない
だが、目の前の子はわなわなと震え整った童顔を歪め怒りをこめて噛み付いてきた
「アキラの方がカッコいいに決まってるだろ!」
かちーん
「いいや俺の彼氏だッ」
「俺の、アキラが、カッコいいのにっ」
「俺の、剛田だって、カッコいいっての!」
俺の!俺の!
お互いに噛み付く寸前までの距離で不毛な争いの原因を叫ぶ
こっそりと録画されてるとも知らずにネコ組(別名受け組)は本格的なキャットファイトを繰り広げる
お互いにぐるるると警戒をしてるのにうるうると瞳を潤ませ半分泣きながらペシペシとお互いを叩き合う
流石に気の合うネコ友との喧嘩は堪えるらしい
アキラの笑いによる手ぶれが心配だ
「うええ、な、なんで、はいざき、わかってくれな、いの」
「あか、しだって、っわかって、くれねえじゃん…ふぅぅ、っ」
ぺちぺち叩きあう手は次第に縋るものになり最終局面にて抱き合うものと化した
えぐえぐと小さく聞こえる声ごと抱きしめあい洗い立てのシーツへ転がる
何気にキャットファイトの結果はついておらず、うーうー唸りつつ気まぐれにペシペシ叩く赤司の姿が見られた
灰崎にその手を握られると拒む事なくすんなり握り返すことで和解に走ったらしい
「……相討ちってことでいいよな」
今の今までずっと録画に専念していたアキラが漸く録画を止め、キャットファイト終了を宣言
手際よく黒子と今回の主役である剛田へ動画を送信。恐らくどちらも授業中は返信は無いだろう
まぁどちらもキャットファイトに萌える様は余裕で想像つく
藍澤
≪剛田くん。キミの事で灰崎が余裕ないみたい。ちゃんと話し合ってみようか。チャイムなったら第四保健室に来て≫
剛田にのみ呼び出しの連絡をいれ携帯をしまう
さて、猫達に泣き付かれて寝てしまっては困る。可哀相だが起きたまま話を聞かなくてはいけないのだから