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□オリオンのままに 34Q
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すっかり色付いた目元を冷やし心身ともに落ち着いた頃には、アキラによる赤司の好物である湯豆腐とアレンジ湯豆腐料理が振る舞われた
何事にも器用にこなすアキラの手から魔法の様に食欲をそそる料理が次々と現れ、赤司の眼がこれ以上ない程輝く
日本風なのは勿論イタリアン風や中華風などの湯豆腐創作料理に肥えた舌が幸せに震える
始終笑顔で食べ続ける赤司に満足気に微笑むアキラの視線に気付き、ふにゃりと笑みを返す。ただの天使だ
「すっげえ幸せそうな笑顔だな。美味しい?」
「だっていま幸せだもん。すごく美味しいから毎日これ作って?」
「週一ならいいぜ。食べてくれるのがセイジュなら作り甲斐もあるしな」
「ふふふ」
即席で作ったにしては中々の高評価だがアキラ本人は改善の余地があると思っていた
どうせなら自分も本気で美味いと感じる物を作り喜ばせたい
凝り性がアップを始めたようで日々の料理番もアキラが多くなる未来は容易く見通せた
「あ、忘れてた」
箸をとめテーブルに放置していた書類を赤司の眼前に晒せば箸を置くしかあるまい
細く白い指がプリントを受け取りアキラは席に戻る
赤司の手にあるプリントの内容…それは以前父から提示された内容だった
「中学飛び級システムのテストプレイヤー候補者追加について…来週締切の奴だね」
「そこにセイジュの名前が加わってたなんてな…お前はどうしたいんだ」
「うん?よくわからないけど俺は皆と卒業するつもりだからお断りする予定だよ」
興味が無い。そう態度に表すようにプリントをそっと裏返しにして机に置く
すぐさま一時停止してた愛すべき湯豆腐へと箸を伸ばし花を散らしながらも幸せそうに食べ始める
頬杖ついて様子を見守ってたアキラが言葉を濁しつつ助言
「…俺的には受けておくのもひとつの手段だと思うけどな」
「普通に学生生活を送る分には必要ないだろ?」
「いや、まあ…そうだが」
もふもふと湯豆腐を頬につめる赤司から視線を逸らし、前髪をくしゃりと握りそのまま額が出る程上にあげ放す
一瞬のオールバックに赤司の心臓が跳ねたが本人しか知らない事実だ
眼を伏せていたアキラはそれに気づかずに真剣な瞳で赤司を見つめた
最悪の展開は常に交互の知識として存在しないといけない。逃れる術がない場合間違いなく迫る未来の一片を、伝える
「言い難い話だが、俺が…オリオンが卒業までに日本にいれるかわからない。だからこそ俺はそのシステムを受け入れ逃げる手段として使うつもりだが…」
最悪の展開…それは、オリオンがリゲルから逃げきれずに捕まること以外に無い
赤司にさえアメリカに居た当時の話を触り程度も話したことは無い
最低限の知識で「オリオンとリゲルは会わせたらこの生活が終わる」という答えは導き出したのは出会って間もない頃だ
だからこそ、この話に動揺しない筈がなかった
「でも確かにセイジュの言う通り、俺を除いた生徒にはコレは必要ない。でもよ…」
チラッと動揺し切ってる赤司を見つめ、諦めたように寂しそうに笑みを向けた
交差する赤と藍。赤司は助けてと言われてる気がして止まない
「…俺と愛の逃避行する気があるなら一応考えてみてくれねえか」
言われた瞬間、張りつめてた糸がプツリと切れた
箸を投げ捨て鞄から筆記用具を取り出し急いで記入
サインを書き、選択肢に大雑把に丸をつけ呆然と固まるアキラの眼前に突き付けてニヤリと笑う
切れ長の藍色の瞳が珍しく真ん丸になる光景を愛しく感じながら面白がって囁く
「…新婚旅行はヴェニチアにしてくれるなら喜んで」
紙に大雑把に丸をつけた選択肢は…”受け入れる”
真ん丸の藍色が心底嬉しそうに細まり赤司を力いっぱいにハグをして囁かれた言葉には、惜しまんばかりの愛しさと甘さが注がれ…
囁かれるこっちが酔いつぶれそうだった
「ーー…ああ。世界中つれていってやるから、離さないでくれるか」
「何を今更、そっちこそ逃げれるなんて思わないでよ。追いかけて泣き喚いて離さないから」
「怖え怖え」
願わくばこの紙切れが魔除けになりますようにと星に祈った
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