2

□オリオンのままに 34Q
4ページ/5ページ





「ん…んん、ン…」


ぱちり。睡魔を纏わせた睫毛が揺れ理性が僅かにちらつく赤い瞳が暗闇に光る

寝起き特有の気怠い体と頭でぼんやりと現在状況を把握するに努めようとゆっくり起き上がる


「あれ…なんでぱじゃま…」


肌触りの良い白一色のパジャマに身を包み座り慣れたソファに横になっていたようだ

生徒会室の円卓も書類も消え、赤司がほぼ毎日居るアキラの家に移っていた


しばし呆然として我に返りワタワタと未完成の書類を探そうと挙動不審になれば、目の前のテーブルに湯気がたったマグカップを置かれ意識が移る

赤司と色違いの黒一色のパジャマの着て普段以上に甘い笑みを向けてくる姿に見惚れる


勿論ぽーっと自分を見て、大きな猫眼で愛を訴えられて気付かない程鈍感な男では無い

茶化す言葉を吐きつつ赤司の隣へ体が触れ合う距離で座り、マグカップをそっと握らせた


「…おそよーさん。見惚れる程いい男が彼氏でよかったな」

「…おそよう。アキラは外見も中身もいい男だから俺が見惚れるのは仕方ないって思うんだ」

「眼が合う度に惚れ直すつもりか」

「そういうことになるのかなぁ…多分俺という存在は何度もアキラに恋しちゃうんだろうね…あ、丁度良い」


マグカップの中身は蜂蜜入りのホットミルクだった。赤司が猫舌な為やや温めなそれは口にする度に自然と笑顔が溢れる位に甘く優しい味がした

ゆっくり飲む間決して邪魔をすることなくただ寄り添ってたアキラを時折見上げ、言葉の代わりに眼を柔らかく細める

返される藍色の眼の蕩けんばかりの甘さが何度見ても恥ずかしくて…バッとマグカップを覗き込む事で視線を逸らすとアキラの笑い声が聞こえた



「ははっあー、かわいい」

「……飲む邪魔しないで。凄い顔してるって自覚ないアキラが悪いんだ」

「分かってるつもりだが。セイジュ好みの顔と表情で、お前を口説いてる」

「ッく、ど!?」



もう一度、赤司に染み込ませるように耳元で。口説いてると囁けば触れてる体全体が熱を持ったように熱い

学校の生徒会室で見れなかった羞恥に震えつつも愛らしく微笑む姿が見れるだろうか。弧を描く口元が期待を体現する


「…ううぅぅッ!しらない、知らない知らない!」


カップを勢いよくテーブルに置き、追い詰めた本人であるアキラにガバッと抱き付き首元に顔を埋め手を回す

結構な力を籠めてぎゅぅぅとしがみ付かれ息が一瞬止まったがすぐに赤司の背中へと腕を回し逃げ場をなくす


正直口説くのは軽く三桁を越えている筈なのに慣れず仕舞いで、キャパシティの上限を超えこの光景を生み出すのも三桁越えだ

いつになっても慣れる事の無い口説きだけはアキラの加虐心を煽る始末



可愛いすぎていじめたい

嫌だ嫌だも好きの内なんて考えすら頭を支配してくる


「もー…なんでそんなに口説いてくるの…っこういう時のアキラ意地悪だし…」


「嫌ならそう言え」

「嫌な訳ないでしょ!…あ、うぅぅぅ」


急に突き放す言葉を吐かれたら本音がスルリと出てしまい、ニヤリと笑うアキラを見て策略に嵌められたと気付き項垂れる


涙目でハの字に下がった眉。耳の先まで赤に染まる赤司は誘っているようにしか見えない


従順な姿も愛らしいが恥ずかしがって抵抗するのもそそられることを赤司は理解していない

これが青峰なら押し倒していたろうが鋼の理性(自称)を持つアキラは欲を飲み下し、項垂れる赤司の頭を優しく梳く


「はいはい。んでセイジュ」


話題転換。本題へ入りましょうと言わんばかりにお戯れを止め、テーブル脇によせていた赤司の鞄を引き寄せ書類を取り出す

途端記憶のパズルがはまったらしく青褪めた顔を晒し絶望した声が聞こえる


「お、れが…今日提出期限の書類を出し忘れるなんて、そんな…っ」

「ああ。俺が代わりに全部でかして提出しておいた」

「へ?」


サラッと言われた言葉を理解するのに数秒かかりやがてホッとしたように肩の力を抜く

心底安堵したらしく抱きしめ合っていた腕までずり落ちる程だ

根が真面目な赤司は人の期待に応えなければならないと固定観念が心を巣食っていると改めて思う


何もアキラは否定するつもりは無い。だが、


「お前がんばりすぎ」


責任を負うプレッシャーに赤司が押しつぶされかけるのを黙ってみてる程浅い関係を築いたつもりは無い

きょとん、と童顔を晒す可愛い子の頬に手をあて軽いキスをしかける。近すぎて表情もぶれてしまう

ふ、と笑みを浮かべ想いが伝わればいいと言葉を続けた


「俺がセイジュより体も心も大きいのは、お前の抱えた荷物を一緒に背負ってやる為だって思うんだが」


親指の腹で下瞼をそっと撫でる。じわりと潤む赤い瞳が艶やかで美しいと心底思う

泣き顔ですらアキラの好みなのだ。甘やかし支える役目を全うし様々な表情を見たいと思うのは惚れた弱みか



「…反対意見はありますか」



泣き笑いに似た表情で頬に触れるアキラの手に両手を添え、フルフルと顔を横に振る

小さく震える涙声で赤司が紡いだ言葉を聞き、まずは掃除関連は俺が全部やろうと決意に燃えた


「…ッ、ない、ので…いっしょに、せおって…くだ、さい……っ」




.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ