黒子のバスケ
□オリオンのままに 30Q
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ぎゅ、と目をキツく閉じ簡単に思い出せるアイツの色。屈託のない笑顔
太陽をそのまま宿したように強く明るい金髪
父親の名がレオナルドだから息子の自分はレオナルドJr(ジュニア)と呼ばれる事があまり好きじゃないと言っては父親に飛び蹴りを食らっていたアイツ
Jrではなく愛称でレオン、とアキラが呼べば本気で嬉しそうに笑っていた
思い返せば馬鹿な思い出や笑い合った日々が大半でその隅に静かに”あの日”の記憶が此方を見ている
ふと思い出の声が聞こえた
__なぁ…もうやめようぜ
__俺もお前も、限界だって気付いてんだろ?
勝利の美酒も泥水に変わるレベルの発言
この言葉を聞いたのはたしか…夢が叶った数週間後の行き付けのバーの個室だった筈
ショックすぎて記憶が曖昧なのか間延びしたレオンの声も顔も表情も霞んで分からない
ただ覚えているのはマグマの様に燃える怒りで体が震えたという事
自分らしくもないとぼやける頭で理解しながら反発した。レオンらしくない何を言ってるんだ、と
でもレオンは怒りもせずにいたのだろう。随分と感情の籠って無い虚ろな声で呟いた
__随分俺らしいだろ。そしてアキラの為でもある
__もう要らないんだ。俺はもう要らない
___×××なんて見たくもない
「おーいまた考え込んでるのかい?」
父の声で現実に戻る
…胸糞悪い。思い出さなければよかった
舌打ちをして素直に肯定を返す
「ダッド。悪いけどアイツに会いたくない」
できるなら一生。きっと不可能だろうけど願ってみる
「正直だねハハハ!んー俺はアキラちゃんの意思を尊重してJrには場所を教えないであげる」
レオンには、ね…秘密裏に来たからまだ誰にも場所は漏れて無い筈
目立った大会にも出てないからそう簡単にはばれないか
絶対的な後ろ盾を持つアキラは父によってこうも守られてる。それが少し歯痒い
親元を離れ自身で稼いだ資金でやりくりし(赤司が)少しは親離れできたと思えばあっさり父に守られる
無力だな、と溜息もつきたくなる
「悪ぃ。アメリカの事はダッドに全部任せていいかな、まだ守って貰っていいかな」
「いいよ。俺は死んでも愛するアキラちゃんを守るからキミはダッドを安心して頼ってもいいんだよ」
「…ダッドはオレが気付かない所でも色々守っているってのにこれ以上迷惑かけるのは…」
「ハハハ!それがダッドの努めさ!頼られてより一層輝くもんだよ親心ってのは」
だから安心して頼るんだよ?
深い愛情が滲み静かにアキラの心に浸食。柔らかい口調と声色に体の力も抜けてしまう
赤司とはまた違った安心感に満たされていく
でも同時に今この場に赤司が居てほしいと思ってしまった
…以前は父の言葉で満たされていたのに足りなくなったのだろうか。すっかり居なくては困る存在になった彼は本当に凄い
陰鬱とする脳内に赤司のコロコロ変わる表情を映せばふ、と笑みが零れる
__征ちゃんには会いたい。できるなら今すぐにでも
少し前まではレオンにも好意的な意思はあった筈なのに猛烈に嫌な部分を叩きつけられ拒絶してしまった
どうしても許せないコトを言われ彼の存在事拒絶した
もしかしたら、征ちゃんにどうしても許せないコトを言われたのならレオンの様に簡単に切り捨ててしまうのだろうか
__大嫌い。顔も見たくない。消えてくれ、と…そんな言葉を吐けるのだろうか
敵を見るように睨みつけたり存在を丸ごと無視したりするのだろうか…嫌だな
胸の奥が締めつけられる感覚。部屋を見渡せばあちらこちらに赤司が居た形跡が残っている
赤司お気に入りのクッションとソファの場所
食器棚の細かい配置に適度に食材の詰まる冷蔵庫
赤司が気に入ってるシャンプーのボトルは大きめに変え中身は半分に減っている
赤司専用の部屋には日に日に増えていく赤司の私物
…これ全て無くなるなんて考えられない
征ちゃんという存在が自分の中から消してしまうなんて考えるだけでゾッとする
せめて願うならそんな出来事が一生来ないでほしい
腰かけてるソファに置いてる赤司お気に入りのクッションを引き寄せ腕の中に閉じ込める。彼の代わりだがやはり本人が欲しい
本人にやるようにぎゅうぎゅうにハグすれば当然だが何も言わない。本人だったら「なぁに?」と可愛い笑みで返してくれるだろうに
「今日の俺の愛息子はテンションの上下が激しいねー?日本にいる所為かなぁ」
「日本にいる所為かもな…悪い事ばかりじゃないみたいだし」
「ふーん。アキラちゃんが笑えてるならダッドはいいけどぉぉ…」
少し不満気に父は言う。きっと口元を尖らせてる事だろう
今頃うんと昔の家庭について少しでも何か思っているだろうか
__もっと早くに壊せばよかった、苦しめてごめんねアキラちゃん
…いや。幼いオレをハグして憎悪を滲ませる声で言い放った言葉から父は昔の家庭なんて家族なんて塵程も好きではなかったんだ
もう2度と会う事は物理的にできない血だけが繋がった偽りの家族
嫌悪という感情で残念ながら忘れ去ることはできないのが残念だ
「…ダッド」
「んー?俺も愛してるよ!」
「違う」
いつか父にも日本でいい思い出ができればいいな、そう言えないまま心にそっと隠した
その後も話があちらこちらに飛びながらも久々の親子の会話を楽しむ
信じられないくらい父は忙しい身だ。社長という地位の高さで時間が縛られてる所為だ
そんな中でアキラに数ヶ月に1度電話をくれる父の優しさには反抗期なんて敵いそうにも無い
やがて電話越しに父の秘書の声で「お時間です」と聞こえ慌てて父が言葉を紡ぐ
「ご、ごめんアキラちゃん!ダッドの地獄が始まるんだ。もうそろそろ切るよ!」
「うん。仕事ほどほどに、な?」
「ハハハ!可愛い応援されたら頑張っちゃうよー、あ…最後にいっておくけど」
「?」
父にしては珍しく落ち着いた声でアキラに言い聞かせた
「キミが思ってる以上に残された時間は少ない。いつ終わりが来るかダッドでさえ分からないんだ…アキラちゃんが後悔しないように毎日を過ごしてほしい」
きっとどんな事をしても後悔はでてしまうと勘が告げた
ならば少しでも後悔を減らす努力をしていきたい。一切の後悔の無しは有り得ないだろうから
「…頑張る。最小限の後悔をできるように」
いずれ来る別れも
いずれ来たる再会も
視えない振りをして今だけは瞳を閉じた
大丈夫
その時が来た時には必ず、視線を外さないから
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