番外編

□愛の形
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ショッピングモールにしては珍しく屋上は大規模な空中庭園だった

緑が茂り秋の花が穏やかに咲き慎ましげな花の香りが秋の風に運ばれる


絶好のデートスポットとばかりカップルがちらほら見受けられるが大規模庭園のお陰で密集してる様には見えない




人影の見えない場所へアキラ如何にも怒ってますオーラを醸し出しながら迎えば引き攣った顔を浮かべカップルがその場を去る



空いた空間で掴んでいた腕を放し困惑した様子の赤司へ向き合う

バッと赤司の両二の腕を掴み不機嫌を隠さず声に出す

地面を向きハットがズレ落ちそうになる程アキラは顔を上げ難い状況に勝手に陥る








「俺だって同じ事思ってた」

「は?」

「セイジュは俺のモノなのに男女問わず魅入るから腹立つ…赤司征十郎という存在ごと俺のモノなのに…っ」

「、ッ…」







赤司の腕を掴む力は存在を確かめる様に優しくて紡がれる言葉は確かな嫉妬を灯す愛の言葉

掴まれた腕から伝わる熱に言葉にジワジワと顔が火照る。心なしかアキラの体温も急激に上がってる気がした









アキラがさっき怒ってみえたのは嫉妬してくれたから、なのかな

俺ばかり嫉妬して泣きそうになるくらい苦しい想いをしてるってずっと思ってた

だってアキラはあまり嫉妬を見せてくれない。俺に気付かれない様に隠してしまうから








不機嫌まじりに赤司へ呟く言葉を吟味すればするほど頭から湯気が出そうだ





彼の言葉に一喜一憂してる現状だが交わす言葉が積み重なる度に愛しさが増す。自然とふわふわと笑みがこぼれる



アキラの顔を見たくなり縋る様に掴まれた手をポンポンと軽く叩き素直にアキラへ甘えた







「顔、見たい」

「いま、まともな顔してねぇ…から」

「俺の顔見ながら…もう1度言って欲しいよ。アキラのモノだって」

「〜〜っそんなん後で幾らでも言ってやるから、頼むから今は」

「やぁだ…いまがいい」









チョコもとろけてしまうくらい甘い声







赤司は無意識だろうが色気を纏う甘い声色を出されれば世の中の男女は即落ちてしまうほど破壊力がある

そんな声を至近距離できいた恋人が耐えられる筈も無く











「〜〜〜ッほんと、勘弁してくれ…っ」











ずるずるとアキラが力無くその場に座り込む。赤司の腕を掴んだままだった為自然と赤司も膝をつく

ぺたんとアキラが尻を地面につけると振動に耐え切れなかったハットが地に落ち藍色の髪の隙間から赤い耳を見つけふにゃ、と笑う







「アキラ耳まっか。サングラス外して顔見るよ」

「あ、ちょっ…何笑ってんだよ。勝手に嫉妬して勝手に赤面した俺をばかにしてんのか」

「ふふ。怒らないでよ違うから」






サングラスを外され地面に置かれる。反射的にアキラがバッと赤司を見てしまい赤面姿を晒してしまう

ムスッと拗ねたアキラと同じ位紅潮した赤司が幸せそうに微笑む。直視したアキラが魅入ってしまう









「俺という存在ごとアキラのモノならアキラという存在自体俺のモノだよね」

「何を今更。髪の先から爪先まで全部俺のだ。誰にもやらねぇ」

「…うん」

「そのかわり俺の全てをセイジュが自由に使っていい。世界でお前だけに許す」

「__ん」







互いに火照る頬。赤司の頬に鼻先に額にキスを落す

ふに、と柔らかい唇の感触がくすぐったいが胸の奥が満たされもっと欲しくなる





催促を求める赤い瞳とアキラの服の裾をくい、と引く白い手

ぱちぱちと瞬きを繰り返し眉を下げ照れた笑みを浮かべたアキラが熱を帯びた甘えた声を出し赤司を頬にキスをする







「…かーわい」

「…かーっこい」

「…なんか馬鹿みてぇだな」

「でも俺は嫌じゃないよ。アキラが、相手だからね」









こつん




額を重ねそっと込み上げる笑みを隠さず超至近距離で藍と赤が交じる

近過ぎてクラクラしそうだが互いの眼が訴える好意の大きさに酔ってしまいそうだ




アキラの赤司より少し大きい手がそっと赤司の手に触れ体温を重ねる

ぎゅっぎゅ、にぎにぎと赤司が遊べば同じ様に返され何だか楽しい





「考えたけれどさ俺たちのデートを見て普通のデートを知れなんて無理難題だよね」

「だろうな。俺等は金銭感覚がおかしいらしい…あの店は安い値段の割にいい品売ってるよな?」

「灰崎達の反応見てれば安いとは思い難いよ。いい品売ってると思うけど…いつものとこより遥かに安い場所選んだのはちょっと気を使ったの?」

「…さぁな」

「…そっか」







アキラの手を好き放題弄りながら赤司はそっと瞼を閉じ触れるだけの拙いキスを送ってみる


触れ合って溶けていく温度が心地良い


やんわり離れた唇が偶然にも同時に言葉を紡ぎ互いにびっくりして、また笑みがこぼれた










「世界中に2人だけみたいだな」

「世界中に2人だけみたいだね」










秋風がふわ、と花の香りを運ぶ。優しくてどこかホッとする匂いは自分達が身につけるシャンプーの香りに似ている











__世界中に2人だけみたいだ











そんな錯覚に陥る位最初の嫉妬は消え失せて残されたのは溢れんばかりの恋慕


ふにゃふにゃと本当に幸せそうに微笑む赤司が心底可愛らしくてアキラは握られた手を絡め体温を重ね頬にリップ音を立て肯定した













*****************







(あれって、赤司達か…?)






逃げ出した灰崎がふらふらとうろついてると周囲の視線を集めどこかへ早足で移動してる2人組を見つけ足を止める


アキラの表情は分からないが腕を引っ張られてる赤司の表情は迷子の子どもの様で珍百景に登録できるほどレアだと灰崎は思った


周囲の人間と同じく案山子と同じく立ち尽くし2人が上の階へ移動するのを黙って見る。消えたと同時に周囲の足も少しずつ動き出す







魔法にかかったみたいに赤司と藍澤のヤローに眼を奪われた事を剛田に知られたらアイツはどんな反応するだろうか






いつものゲス顔は大気圏外へ飛ばし穏やかな顔で思考中に背後から心臓を跳ね上がらせる声がかかる







「__っみつけた!」

「うおっ!?てめっ…、剛田?」

「…何してるんだよ!勝手にいなくなるなんて心配しただろ!」

「、悪かったって。もういなくならねぇから怒るなよ」

「言ったね?灰崎くんに二言は無いね?」

「ふは、なんだよその日本語」









灰崎自身より一回り以上大きな手に腕を掴まれ反転させられると剛田が怒りと安堵やら心配やら混ぜた形容しがたい形相を浮かべてる

そのくせ妙な日本語をつかうものだから噴き出してしまう

探してた灰崎が見つかった安心からか深い溜息を吐き剛田が歩き始める。灰崎も隣へと並びただ足を歩かせた








「そういえば何であの店から逃げたの?俺の言葉が原因…だと思うけども」

「ッそう思うなら蒸し返すな!くそ…」





ぶわっ

灰崎の顔が熱を帯びる。剛田に見られない様に顔を背け腕で顔を隠す

とはいえ身長差がある所為で剛田には隠しきれない羞恥の姿がまるみえだと灰崎は気付かない







「だいたいお前が、あ、あんな変な事言うから」

「変な事?君に高い物買えるまで待っててって奴のこと…?」

「俺は別にあんなくそ高いものいらねぇんだよ…お前がくれるモンなら多分嬉しい」

「そこは多分つけちゃ駄目だよ」

「…うっせー!」







ああん!?といつもの不良丸出しでガンをつけるが菩薩の様に何故か穏やかに灰崎を見る剛田に自然と吊りあがった眼も元に戻る


その眼差しはあの脱・平凡組が互いを見る眼差しと酷似していた


まだその眼差しを受ける事に慣れて無い所為かソワソワと落ち着かない灰崎。だが嫌な訳では無い






「結局、デートで何したらいいか分らないままだったな。アイツ等のをマネる事は俺でも絶対無理って事だけは分かったがよ」

「俺思うんだけどさ…デートって好きな事や楽しい事すればいいんじゃないかな。無駄に気を使うのもいつか疲れちゃうから気楽に」

「好きな事…」

「俺はアキラ君達のデートを見てて楽しそうにしてる姿いいなって思った」









確かにあの2人は笑顔でいちゃついていた。自分達もあんな風に楽しめるだろうか

あれ程仲良くは今すぐにはできないだろう。灰崎の心臓的に

剛田の事となるとどこの処女かと思う程にシャイになり果てるのだから











そんな灰崎の陰鬱な気持ちを振り払う剛田の魔法の言葉が降り注ぐ










「焦らなくていいからさ…」




「少しずつ俺等のペースで想いあっていこうか」












珍しく照れた表情を浮かべた剛田

きょとんとした後に耳先まで羞恥に染め上げる灰崎










決して嫌では無い。嫌だったら剛田の隣に灰崎はいないのだから











自分より大きい彼を見つめコクンと首を縦に振り灰崎は剛田の服の裾を掴みながら隣を歩き続けた















__想い合う人も愛の形も数有れど





__その根底に育まれるモノ





__相手を好きという気持ち





__それだけは皆同じ、だね










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