番外編

□愛の形
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眼の前には神妙な面持ちをした灰崎が緊張しながらも2人の不思議そうな視線に耐えている



緊張の所為か普段の余裕が一切ない灰崎を赤司とアキラは顔を見合わせ首を傾げる




灰崎を自宅へ招いたのはアキラだが案の定赤司は電話の内容などまったく覚えていなかった

恨めしそうに赤司を見た灰崎に痺れを切らし赤司が口を切った












「お前何しに来たの?俺を睨みに来たのか」

「んな訳無ぇだろ!」

「なら睨むな」

「俺のは標準装備だからそう見えるんだよッ」

「…ごめん」

「いまのは征ちゃんが悪い」







キンキンに冷えたコーラをマグカップに注ぎ飲むアキラを赤司がムッとした顔で睨む

言いたい事はそれとなく通じるのでアキラがテーブルの下で赤司の手を握る事で万事解決

拗ねた赤司の機嫌が急に改善され灰崎がぎょっとしていたが全て無視し話を進めた













議題:デートで何したらいいですか










「灰崎さぁ女とのデート散々した事あるでしょ?それならデート内容で迷う事なんてないじゃん」

「俺のデートはラブホ一直線だったぜ」

「うわ。最低」

「わかってる。知恵袋で質問したらその言葉のオンパレードだった…ハァ」










頭を抱える灰崎



今の今までそんなデートしかしてこなかった灰崎に行き成り普通のデートをしろ、と言った所で混乱するばかりだろう

いや…その”普通のデート”をアキラ達に聞きに来たという事は灰崎自身にもデートをする時になったということか








つい最近付き合い始めた剛田くんと、灰崎が












面白い物を見つけたとばかりにんまりアキラが微笑めば灰崎が嫌そうに顔を歪める







「ケッ。どうせ面白いモン見つけたとか思ってんだろ!だから嫌だったんd、痛ァ!!誰の頭叩いてんだ赤司!」

「おい灰崎。俺の前でアキラを侮辱するなんていい度胸だな?無様なデートして剛田にドン引かれて別れてしまえ」

「ッ…」









傷ついた顔を浮かべた灰崎にハッと我に返った赤司

予想もしていなかった展開に困惑してアキラへチラッと視線を向け困り顔で助けを求める

繋いでいた手を放しむぎゅ、と餅の様に柔らかい赤司の頬を摘み軽くおしおき

痛いのか赤い睫毛が濡れ始める










「ひあい、お」

「灰崎の方が痛いよ。絶対に」

「ぅ」

「征ちゃんがボクを思って怒ってくれたのは嬉しいよ。ありがとうね…でも今のは駄目」






赤司自身理解してるらしく眉を下げしゅん、と落ち込む。アキラが頬を放し優しく聞く







「灰崎に何か言う事無い?」

「…すまなかった」









未だ驚愕を表面に出す灰崎へ赤司が謝罪をすればキャパオーバーした灰崎がガタッと椅子からズリ落ち掛ける

アキラには弱音や謝罪などすんなり行う赤司だがただの部活の連中には魔王で通る彼の事だ



嘘でも真実でも謝られた事実が灰崎の中で受け止め切れず当初の緊張など跡形も無く吹っ飛び夢か現実かの境も曖昧に感じてしまうほど

あまりの出来事にパニックに陥った灰崎が赤司を指差しアキラに心の叫びをぶちまける











「あ、あかし、が!!おい藍澤っ病院だ!病院が来い!!」

「よしわかった…あ、剛田くん?キミの彼女がダブルデートしようって言ってるんだけど」

「俺の名医呼ぶんじゃねー!」

「…シリアスがシリアルになったな(なに着て行こう)」












アキラいわく。習うより慣れろとの事


灰崎には先人に習うより実践で自分達の行動をマネろと無茶ぶりを実行せざるを得なくなってしまった











*************









とある一流ブティックにて






「買い過ぎても今日は怒らないでね」

「…今日だけだよ。荷物は全部宅配にして貰うんだよ?」

「了解。さ、灰崎と剛田くんも見て回ってね!」









見るからに一流品を取り扱ってる店だと一般不良の灰崎から見てもすぐ分かるレベル

その店の入り口にぽかん、と口を開け剛田と共に立ち尽くす

赤司とアキラが慣れた様子で入り物色するのを視界に収めながら近くにあった服の値札を見て悲鳴をあげそうになる口をバッと抑える








「(ふざけんなただの無地Tシャツが1万!?)」










灰崎や剛田は無地Tシャツが500円でも気に入れば購入するのに躊躇は無いが1万越えは躊躇しかない


ただの賭博かぼったくりにしか感じない






青褪める灰崎に気付き剛田が心配そうに声をかける






「灰崎くん。顔色悪いけど…」

「これ見ろ」






手に取った値札を剛田の眼前に晒せば同じく青褪めた様子

2人して視線を合わせハァと溜息




赤司の頭に白いハットを被せ楽しそうに反応を待つアキラに近くにあったグラサンを掛けさせ吹き出した赤司

端から見ても楽しんで”デート”をしてる2人が付けあってるあのハットもグラサンもきっと何万もするものだと思うと…








「赤司がボンボンだってのは知ってたけどよぉ藍澤はただのヒモじゃなかったんだな…見直した」

「アキラくんスイパラでも全部奢ってくれた位だから赤司くんと同じくらい裕福な家庭の子なんじゃないかなぁ」

「金銭感覚が裸足で逃げだしたのか」

「きっと一生戻って来ないかな。さすがに中学生の僕じゃ大したものを灰崎くんに買ってあげられないから…待っててくれる?」

「!」









剛田が澄み切ったつぶらな目で見つめてくる

暫しぽかん、と間抜けな表情を浮かべやがて理解したのかボッと火がついた様に赤らめた

情けない顔をして逃げる様にその場を早足で去る









すたすた早足で逃げる灰崎を追い剛田もその場を迷うことなく去る













その様子を密かに見ながら値札のついたグラサンを掛けたままのアキラがニヤリと笑い後を追いたがる

店員を呼び付けココからココまで、と大人買いを実行。カードを押しつけ品物を住所へ配達してくれるように手際良く手配する






赤司も消えた灰崎達を見守ってた為早く後を追おうとつけてたハットとグラサンをレジ係の人に優先して通して貰いタグを切って貰う


再び装着し手続きを終えたアキラにもグラサンを掛けさせ…準備完了











「さて。追いますか」

「ふふ。バレないように、ね」












嵐のような客に必死に対応してくれた店員が内心「(やった!ボーナス上がった!)」と欲望を孕みながらも定番の言葉で送り出す










ちゃっかり手を繋いで店を颯爽と後にした赤司達

勘を頼りにモール内を動きまわり寄り道しながらも灰崎達を探す






集中する黄色い視線はいつものことだが赤司に対する色欲を含む視線には牽制の睨みで威嚇

赤司も同様にアキラをポーッと紅潮させながら見つめる女をギッと睨み牽制

どっちもどっちだが減らない熱を帯びた視線に次第に八つ当たりしだす











イライラ…


「アキラ。今すぐ整形しろ」

「セイジュ。今すぐ顔隠せ」








パッと顔を見合わせアキラがワナワナと震え眼を吊り上げ声を尖らせる








「はぁ?なんで人為的に顔変えなきゃいけねぇんだよ。隠せばいいだろ」

「アキラの眼が隠れたってこんなに女の視線が集まるのに?…アキラは俺の、なのに」









きゅ、と眉を寄せ赤司が小声で俺のなのに、と主張し絡めてた指先に力を籠める


ヤキモチを隠しもせず露にする赤司に思わず息を飲み苛々してた気持ちを振り切る様に深く溜息

落ち込む赤司の帽子をひょいと奪い眼深くアキラ自身が被り屋上へと歩みを進める

早足で移動する為ぐいぐい赤司の腕がアキラに引っ張られ足がもつれそうになる位だ











困惑してるのかビックリしてるのか判断は付かないが赤司が動揺を隠さず不安気に窺う











「ねぇアキラっ早いよ…!ねぇ、あ…灰崎達いるよ」

「いい。放って置け。行くぞ」

「っ…」








アキラの表情は赤司から視えない。赤司の表情もアキラには視えない



ただ冷たく低い声はこれでもかと言う程心に響く赤司の顔がくしゃ、と歪んだ













(どうしよう…怒らせたかも)





(あれって、赤司達か…?)










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