黒子のバスケ
□オリオンのままに 28Q
2ページ/2ページ
.
「もう知らん。お前らなど知らん」
「みおひーん。あひあああうっえ」
(ミドチーン。明日があるって)
「お前らが叩きのめした明日などいらないのだよ」
「へおまえあっあえ」
(へそ曲げちゃったね)
「みおひんおうんおおあひあっあおに」
(ミドチンの分のお菓子買ったのに〜)
「わああわ」
(我儘)
「わああわ」
(我儘)
ぱちん
閑静な住宅街に静かに響くハイタッチの音。念願のガリガリ君を頬張り御満悦なお菓子組とは正反対なオーラを出す緑間
夕暮れ時の王者たるカラスさえ緑間の姿を見た途端に血相を変え慌ててご自慢の羽を羽ばたかせ朱に隠れ去る
夕暮れマダムも先程小さな悲鳴を上げていたが当の本人は気にせず苛々苛々とした態度を隠さずに言葉にもバラよりも鋭利な棘が装備された様だ
「俺がおは朝信者でよかったな。ラッキーアイテムが無いからお前らの尻拭いをさせられたと思い込んで怒りをぶつけないようにしているのだから」
俺が常人だったらお前らを取りあえずアスファルトに顔をめり込ませてそのまま土を掛けるのだよ。まったく…
お前らが全部開封するから中学生のなけなしのお小遣いが底をついたのだよラッキーアイテムが…まったく
愚痴りながら言う緑間は少しだけ気が済んだのか溜息を吐き声の棘を削ぎ落す
紫原とアキラはそっと歩みを止め視線をビビッと合わせ即席アイコンタクト
「みおひんいおあのは」
(ミドチンの今のさ)
「アイホンアクオえひょ」
(アイコンタクトでしょ)
「あ。わあったーキリッとふう」
(わかったーキリッとする)
「キリッ」
「キリッ」
本人達いわくキリッとした表情を決めているらしい
端から見ればただの頭の弱い子である
「…なにしてるのだよ。さっさと帰るからはやく進むのだよ」
即席はやはり即席で。コミュニケーション方法が顔芸の遊びに変わり果てた結末を迎えてしまうが2人には妙な達成感で咥内が満たされていた
物理的意味と人生の中で1番馬鹿な時期と呼ばれる学年にもう半年で上がる精神的成長か
…判断はつけそうにもない
仕方なく歩き出す紫原とアキラを呆れた眼で見てた緑間はふと、藍色の揺れる頭の位置が紫原の肩に届いていた事に気付き眼を軽く見開く
ただの見間違いかと思いきや遠慮なく近づくお菓子組の近距離でも変わらぬアキラの頭の位置に事実かとようやく飲みこむ
アキラのガリガリ君の棒が緑間の喉元を突き刺す前に藍色の頭をガシッと包帯巻きの指で掴みそっと距離をとらせ口を開く
「藍澤…身長伸びたな」
「そーなの?…少しだけ近くなった気もするけど気の所為じゃなーい?」
「ていっ」
緑間に突き刺さる予定だったガリガリ君の棒をアキラの軽いプライドを傷つけた紫原の鎖骨へまっすぐ上から叩き付ける
ぺしっ
…随分軽い音がしたが見かけに反して巨体の紫原が叩かれた患部を抑え膝をつく形となった。緑間は本気で自分にされなくてよかったと心底思い動揺のあまりずれた眼鏡のブリッジを押し上げる
「…ごめんごめんアキラちん。超伸びてる。身長俺よりも高いって認めるから、まじ痛い」
顔を片膝に埋め若干震える声で謝罪をする紫原に満足気に笑みを浮かべ驚異の攻撃力を持つアイス棒を片手に持ち手首のスナップをきかせ指揮者の様に振る
音符が視えそうな程機嫌がよく見えるということは余程身長の話はアキラにとって嬉しい事なのだろう
「ふふふ!ボクにも成長期がやってきたのだよ!今175越えたんだよー!征ちゃんを余裕で抱っこできる位の身長差が到来したんだっ」
「だから最近赤司が藍澤を見る度に睨みつけてるのか。倦怠期なのだよ」
「誰だ今倦怠期って言った奴。むっくんの後を追いたい奴は眼鏡をかけ続けろ」
緑間が勢いよく眼鏡をアスファルトへ投げた
弧をかいた眼鏡は道端を通りすがった猫に無事にキャッチされどこかへ拉致されたようだ。永遠に持ち主の元へ戻る事は許されない旅に出たのを静かに緑間は見送る
(母さんになんて言えばいいのだよ…息子の命と眼鏡どっちが大事なの!とでいえばいいか)
ようやく紫原が復活し身を起こす
「倦怠期ってまじ最悪って女子言ってたけどアキラちん大丈夫なの」
「大丈夫だよ?征ちゃんがご飯作って添い寝してくれる限りは」
「お前達はいきなり同棲寄りな事をしてるからレベルが違うのだよ…俺の眼鏡」
緑間の体の一部が猫により拉致られほんの少し寂しそうにしているのを見たアキラがそっと指揮棒代わりに振ってたアイス棒を緑間に差し出し握らせた
手の中には当たり!の文字が刻印された木の棒が鎮座し見た瞬間緑間は眼鏡の事など吹き飛ぶ感覚に陥る。機嫌が一気に急上昇したその状態でアキラを見れば相変わらず楽しそうに笑う顔がそこにいた
「今日のかに座のラッキーアイテム…!」
「そ。さっきたまたま当たったから緑間にあげる。ボクにはなくてもアンラッキーな目には合わないからキミが持ってなよ」
「あ、にゃんこ…おいでぇ、ってコレミドチンの眼鏡じゃん」
一部で友情劇一部で猫との交流
だがアイス棒により全てがカチリと繋がった
紫原が猫から回収した眼鏡を装着しうきうきと学校へ足を進める緑間の背中を眺めながら紫原とアキラは並んで歩く
未だ猫を腕に優しく抱き人懐っこい猫はにゃーにゃー言いながらカニカマを食べている。どうやら紫原のおやつの1つを譲ったらしい
「ねーさっきの続きなんだけどなんで大丈夫っていえんの」
「ん?倦怠期の話?」
「うん。信じてるから、なんてありきたりなの俺言われてもこまるから具体的にいってよアキラちん」
んー…そうだねぇ
どこか遠くをみてからアキラがふと紫原の腕の中の猫を見て止まる
すぐに動き出し猫の頭を優しく撫でる姿に紫原は首を傾げた
「どうしたの?にゃんこの眼がオッドアイなのがびっくりしたのー?」
「びっくりというよりは魅入ったが正しいかな。ボクは綺麗なモノが好きだからね思わず身惚れちゃった」
その猫は青と黄のオッドアイだった
どこか幻想的で絵画的な印象を与える猫はぺロリと舌を出し自身の口に近付く指を軽く舐める仕草を見せた
ザリザリと猫特有の舌がくすぐったい様で素直に口からくすぐったいと出したアキラはそっと視線を紫原へ向け藍色の瞳でまっすぐ見つめた
「…」
「?」
「ボクが倦怠期ぐらい大丈夫と言い切れるのはね」
「うん」
「征ちゃんの眼がボクを大好きだって訴えてくるのを毎日受け止めてるから」
再び猫に眼を向け反射的に視線を合わせたオッドアイにそっと笑い掛けた
「緑間が言ってた睨んでたのはボクだけがスルスル身長伸びたのが悔しかったからと抱きあげられるのがあまり好きじゃないってのが理由」
「征ちゃんは今じゃ皆にも笑顔振り撒くようになった所為で上手く表情を隠してしまう事が多くなったけど…眼は変わらない」
出会った時のまま真っ直ぐで嘘なんかついてないよ
___今はね
最後の一言が何故か無感情に聞こえて紫原は思わずアキラを見て眉を寄せた
妙な違和感が…あったような…気の所為?
にゃーと腕の中の猫が紫原へ行かないの、と声をかける
ハッと遠くなってた意識を戻せばアキラはうんと遠くへ行き前を歩いてた緑間の隣へ並び歩いていた
占いの話となると気が合う緑間とアキラは遠目から見ても楽しそうで先程までの違和感がスッと胸の奥へ引っ込んでいった気がした
自分も追いかけようと腕の中の猫をそっと置いてばいばいと軽く手を振り荷物を抱えて2人の背中を追いかけた
その姿を猫はじっと飽きるまで見続けた
飽きるまで、見続けた
.