黒子のバスケ
□オリオンのままに 27.5Q
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ショタ司などと馬鹿にしてた灰崎自身が後悔する程アダルティな雰囲気に一種の憧憬を抱きながら速まる心臓を意識しながら借りた携帯を耳にあてる
すると約1月振りの剛田の声が聞こえゾクゾクと背筋が震えた
先程赤司はアキラとの電話で信じられない位甘い声と表情を浮かべてたのを見て瞠目したが何故そんな表情を浮かべたのか今なら分かる気がする
「あの…」
「っ…、剛田か」
「…久しぶり」
久しぶりじゃねーよ!
そう思うなら話かけろよ…触れろよ
どんな思いで待ってたと思ってんだバカッ
心で思った罵倒は固く結ばれた唇から出る事無く静かに飲み下す
いいたい事はたくさんある。聞きたい事だってたくさんある
でも今は何か一言でも喋ると泣いてしまいそうな程繊細な感情の糸が激しく振動していた
電話の向こう側で剛田が赤司が推測した内容をベラベラと説明してるのが聞こえてくるが灰崎は再び膝に顔を埋め荒ぶる感情の波をなんとか抑えようと耐えていた
…だがそう長く持つ訳も無い
何故剛田の声を聞くだけで心のどこかで安心している自分がいるんだろうか
「…と言う事だからもし灰崎くんの反応が変化したら明日から元通り。でも変わらない場合はもう1ヶ月続行という話なんだけど…」
「いらない。もう無視しなくていい」
「え?」
「だからっお前がいないと、話しかけてくれないと!なんか、変つーか…」
「__」
「…嫌なんだよ。バカみてぇに澄んだ笑顔見れないとか。だから明日から、」
「__好きだ」
灰崎の呼吸が一瞬止まる
バクバクと忙しない心臓が脳よりも早く言葉の意味を理解して反応してる様だ
どんな女から愛の言葉を言われたって響かなかったというのにこんなにも心臓が煩く感じて頬が熱いなんて、初めてだ
どこの童貞だよ。くっそ…
悪態つきながらもそっと口元が弧を描いていたのを気付いたのは惚気状態を脱した赤司もだった
「灰崎くんは俺の事嫌ってるだろうけど。でもどうしても諦めきれない。諦めようにも灰崎くんがそんな事言うなんて…本当夢みたいだ」
「別に嫌ってねーよ。最初はそっち寄りだったけどもうそんな事思えないんだ…お前の所為だバカヤロー!」
「うん。俺が、灰崎くんを変えちゃったんだよ、ね」
剛田が感極まってか涙声に変化してきたのが移ったのか灰崎も徐々に涙があふれ出し慌てて腕で拭う
たった1人の存在にここまで自分が保てなくなるなんてバカみたいだ。バカみたいなのに嫌じゃない自分は本当の馬鹿だ
再び灰崎のボサボサの髪を撫でる優しい手付きに濡れた頬をそのまま撫でた犯人をバッと見上げる
赤司が微笑みながら小声で茶々を入れた
「お前は言わないの?好きだって」
「す、好き?」
「!」
「好きだから付き合って、傍に居たいよって」
「付き合って、傍にいたい?」
「ほ、本当!?灰崎くん!」
「は?え…あ、俺」
剛田に筒抜けだというのも忘れて赤司の発言を反復していると本気で喜んだ声が聞こえ内容を理解した途端に反射的に「あ、ああ」と返した
ぱちぱちと控えめに拍手をする赤司
電話の向こう側で急にガタガタと物を落した音が響き耳にダイレクトに伝わる
眉をぎゅ、と寄せ騒音を立てる携帯を耳から遠ざけ未だ拍手する赤司の手に返す。ぱちくり瞬きをする赤い猫目が不思議そうに見返すが視線を逸らしぷいっとそっぽを向く
「俺、いまハズくて死ねる」
「…そう」
赤司のニヤッとした笑みを見なかった灰崎は幸運だ。だが携帯を赤司に返してしまった事は不幸の一端だった
「こんばんは剛田くんかな」
「あ、はい。あの灰崎くんは?」
「あぁ。あまりの羞恥に顔真っ赤にして泣いてる。嫌い所じゃなく愛されてるよ剛田くん」
「え、えええ?あの可愛いですか?」
「んー…それはキミが泣かせた時の為に秘密にしておこうかな」
赤司の視線の先には赤司に背を向けてる灰崎の林檎の様に真っ赤な耳先
恥ずかしいという言葉は本当らしい
小さく「泣いてねーよショタ司」とブツクサ言ってるのが聞こえたが暴力はやめておこう。そのかわりに精神的に追い詰めてやろうと赤司は口を開く
「灰崎は恥しいの好きなんだって。苛めてくれって言ってたよ」
「ハァ!??適当な事言ってんじゃねーぞ」
「あ、今その通りだって肯定してる。変態め」
「赤司ぃいいいい!!」
「…あはは。仲良いんだね」
少し呆れが入った乾いた笑いだったが後半の言葉は嬉しそうに聴こえた
適当なデマカセをよりにもよって剛田に吹き込む赤司の暴挙を止める為勢いに任せて携帯を強奪。携帯を奪われたのに必死な灰崎の姿を見て笑いを堪えてる赤司に舌打ちをし荒く電話に怒鳴りつける
「おいっ今の赤司の言った事信じんなよ!俺より赤司の言う事信じたらタダじゃおかねぇからな」
「勿論。俺は好きな人の言う事を1番信じるから」
「お、おう…ならいいけどよ」
穏やかな発言に灰崎の勢いも削られ鬼の様な表情もすっかり姿を消す。しっかり灰崎の操縦の手綱を握ってるなと赤司は評価していた
携帯を握り口元をぎゅっと閉じた灰崎は暫しの無言を貫き突然上擦った声で大声を出す
「〜〜っ絶対明日、好きだって言え!」
剛田の答えを聞かずに画面をタップし強制的に通話終了した灰崎がポイッと適当に携帯を赤司に投げるのを難なくキャッチ
一体何なんだと不思議そうに灰崎を見れば
「…ハズイから帰る」
顔を真っ赤にして脱兎の如く退室してしまう
呆然と見送った赤司は忍び笑いを零し灰崎の恥かしがっている姿を思い出しては肩を震わせる。不良な筈なのにまったくそう感じさせない行動は見てて新鮮だった
灰崎と剛田の組み合わせはなかなか良い相性かもな
なにより“変化”を見てて楽しかった
「ふふ。灰崎にも乙女になる時ってあるのか…」
鉄壁無表情の仮面を剥ぎ楽しそうに口元を上げる。そのままワックスのかかった床に寝そべりアキラへミーティングルームに来て、とメールを送信
返信はすぐに来て見た瞬間思わず画面にキスをしてしまった。早く来ないかなと浮かれながら暫しの間メールを眺め続けた
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FROM アキラ
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今行くからゆっくり待ってて
今度ってさっき言ったけどやっぱ今日デートしない?
なんだか初々しい話聞いてたらあてられちゃったよ
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