番外編

□レンゲソウの花束
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pm5:43





紫「黒ちーん」

黒「紫原くん。キミはオヤコロ教室の仲間入りはしてなかったんですか」

紫「それって赤ちんのロッカー壊したみどちんと黄瀬ちん+α峰ちん専用の特別メニューの事?俺は入ってないよ〜」

黒「よかったですね。練習内容が5倍になった後に桃井さんのスポドリ一気飲みの刑らしいですから」

紫「赤ちんのロッカー壊しといてそれで済むなら優しいでしょ〜」

黒「ですね」













黒子は持ってたボールをリング目掛けて放つ。ボールはキレイな弧を描きリングに当たり弾かれる









また入らなかった…今度は入れよう











ボールを取りに行きもう1度放つが反対方向へ弾かれ肩を落とす



そんな黒子に紫原は近づきポケットに手を突っ込み何かを探す動作をする


朝に青峰からとんでもない物を渡された動作と同じ事をしている紫原に危機感を覚え構えをとる黒子













紫「あ、あったー…なにその構え黒ちん」

黒「その手の中はセミの抜け殻じゃないですよね。もしそうならオヤコロ教室行きですよ」

紫「峰ちんと一緒にすんなし!俺は誕生日プレゼントにセミの抜け殻なんて送らない。俺が送るのは…お菓子!」









黒子の小顔を容易く掴めそうな大きな手の中には透明な小袋。小袋には数枚のクッキーが複数の色に分かれており手作りなのか歪なリボンの結び方が紫原らしい



そっと大きな手から受け取り努力が嫌いな彼が何回も結び直した所為でクタクタになってるリボンを見て心がふわっと軽くなった気がした










黒「ありがとうございます紫原くん」

紫「別にー。赤ちんがプレゼント渡すから俺も渡す事にしただけだし!」

黒「…それでも嬉しいですから」

紫「あっそ」








ぷいっとそっぽを向いた紫原は黒子よりも数十pも高いが赤い耳だけは長い横髪の隙間からよく見えた
















pm7:50




黒「失礼します…赤司くん。随分その姿がお似合いですね」

赤「やぁ黒子。御褒めの言葉ありがとう。もう練習は終えたのか?」

黒「はい。今日は用があるので居残りできないんです」









黒子は今オヤコロ教室が開催されているミーティングルームにいる

そこは高身長の青、黄、緑の髪の持ち主達が地に伏せ重なり合いその上に赤司が腰を降ろすという社会図式のような光景があった




屍の上でストレス発散し切ったお陰でいい笑顔を浮かべてる赤司と普通に話せる時点で黒子の度胸の強さが窺える










くるくる

赤い鋏を優雅に回し思い出したかのように赤司が鋏でドア付近の隅に置いてい紙袋を指差す












赤「その紙袋はコイツ等からの誕生日プレゼントだって。いらなくても受け取るんだよ」

黒「僕はいらないといって拒否する人間じゃないです」

赤「…それもそうか」










トンと屍の上から降りた赤司は紙袋を抱えた黒子の前に立ち流れるような動作で頬に軽くキスをする











黒「っ!」

赤「__誕生日おめでとう。黒子が生まれてきてくれて嬉しいよ。勿論皆そう思ってる」

黒「…今までで1番インパクトのある誕生日プレゼントをありがとうございます」

赤「俺のプレゼントはバニラシェイクだぞ?朝飲んでたアレだよ」

黒「え、じゃこのキスは」

赤「……アキラならそうするんじゃないかなって思ったら体が動いた。ただそれだけだよ」

黒「あ…」














寂しそうに笑みを無理矢理浮かべた赤司

黒子は胸に抱いた紙袋をくしゃくしゃになりかけるまで力を込めて言葉を探すが出てこない

それに気付いた赤司が「気にするな」と柔らく言い力は自然と抜けた












赤「さっき言ってた用事の相手はアキラなんだろ?なら早く行った方がいい。黒子の事を何時間も待ち続ける筈だから早めに帰してあげて」

黒「…まったく。僕に向ける意識を赤司くんに少しは分けた方がいいです。アキラくんは僕を神格化しすぎですから…」

赤「いいんだよ。俺は、俺よりも黒子を敬い尊敬し神格化扱いするのは妥当だと思う。それにそんなアキラを好きなんだ」













___だからはやく行ってあげて


__きっと学校終わったらすぐに黒子の家に向かって待ってる筈だから


















黄瀬が黒子の笑みを天使というが黒子は赤司のはにかんだ笑顔こそが天使だと思う

それを独占できる相手は決まって1人。だが今は眼隠しをして見えない振りをしてる困った相手を想い続けている

赤司どころかキセキの世代が現在見えない笑みを今日見れる事はどこか後ろめたくもある

















…はやく元の関係に戻れたらいいのに













自分だけ笑顔を独占するのも眼の前の赤司に失礼だ。そう思った黒子はキスをして離れていった赤司の細い背中を見つめ覚悟を決めた







黒「赤司くん」

赤「ん?」







振り返る赤司はやはり笑顔

だが作り笑顔だと黒子の眼には分かった







黒「アキラくんの笑顔、好きですか」

赤「…うん。だいすきだよ」







一瞬で作りものが剥がれ愛しそうで蕩けそうな笑顔が寂しさ混じりに現れる



赤司にとってアキラは傍にいなきゃいけない存在なんだとまざまざと見せつけられた気がした










黒「なら後で紳士的な綺麗なお顔を提供します…今日僕を皆で祝おうと提案してくれたキミへの恩返しです」

赤「!」

黒「ではまた明日」

赤「__また、明日」










ばたん



黒子が去った部屋には屍3体と呆然と立ち尽くす赤司。誰一人声を発しない為か静寂に包まれやんわりと雲の合間から漏れる月の光が室内を薄っすら照らす

窓に背を向けている赤司には月は見えないが月明かりを浴びる背中が先程より暖かい気がした












赤「…いいなぁ黒子」








アキラに会って笑ってもらえて触れてもらえて喋ってもらえるんだから


__まぁ、自業自得なんだけどね













pm8:30




すっかり暗くなった帰り道

自宅前に1人の影が見え彼だとすぐに分かり駆け寄る

相手も気付いたらしく塀に寄り掛かっていた体勢を直し黒子へと近づき暗がりの中ようやくその顔を拝める











黒「アキラくん…」

藍『こんばんわ。テッちゃん』

黒「遅くなりました。寒かったでしょう」

藍『平気。予想より随分と早いからね』








アキラが柔らかい声色で受け答えする。彼が何時間も黒子を待っていたという赤司の指摘は合っていた。さすがアキラをよく知る人ですね







黒「アキラくん。いまさらですが…学校サボり過ぎです」

藍『やだなぁ。せっかくのお祝いの席に御説教なんて野暮だよ。今日位忘れちゃいな』

黒「キミとは明日会えるか分らないじゃないですか」

藍『…まぁボクがサボらなきゃいい話なんだけどね。カリキュラムはほぼ終わってるから行かなくてもアレだけど』

黒「アレってなんですか」

藍『察してる癖に…さ、重たい話はここまで。本題に入ろうよ』










スッとアキラが黒子の前で膝を折り跪く。しゃがむ時にガサッと後ろの方で音が鳴り今年も持ってきてくれたのかと頬を緩めた

急に跪かれ騎士と女王の関係みたいな対応をとられあたふたと動揺しない自分自身に慣れって怖いですねと心に呟く












藍『誕生日おめでとう。貴方にボクは救われて今日まで生きてきた。感謝をしてもし切れないが…せめてものお祝いにコレを、どうぞ』

黒「…今年は何のお花ですか?」









ガサッと背中に隠してた小さな花束をソッと黒子へ差し出す

受け取った花束は蓮の花びらによく似て白と桃がきれいに上下に分かれて凛としていた









アキラが澄んだ藍色を柔らかく細めまっすぐ黒子を見上げた














藍『蓮華草(レンゲソウ)。バラとかとは違う儚さが魅力的だね。テッちゃんにピッタリだと思ったんだ』


黒「僕にバラは似合わないのでいいチョイスですね」

藍『そうかな?結構似合うと思うけど…そうだ。その蓮華草はね花言葉がボクからテッちゃんへ向けての言葉だって思ったから今年はそれにしたんだ』

黒「花言葉…」








昨年は尊敬と信頼の花

一昨年はあなたについていきますが花言葉の花











どれもこれも見た目が綺麗だったがアキラが何よりも重視してるのは花言葉だった。毎年毎年辞典を開いてはピッタリの花を見つけてくるのだろう















藍『蓮華草。花言葉はあなたは私の苦痛を和らげる…ね、深い言葉だけどこれ以上にない位ピッタリだ』

黒「…ボクは一時的にしか和らげませんよ」

藍『一時でも長期でも同じ苦痛を和らげる事に変わらないでしょ?まぁボクだけじゃなく…あっちにも目を配ってるようだからそのお礼も込めて』











__あっち

それが赤司をさすとすぐに分かった




気まずそうに親に怒られた子どもみたいに眼を伏せ眉を下げるアキラが赤司を気にしてる…それを再確認できただけでも十分だった














黒「そりゃ目も配りますよ。僕はキミ達の”特別”ですから。キミ達も僕の”特別”なんです。気にしない方がおかしいですよ」

藍『普通の人間には難しいことなんだって。テッちゃんみたいにぶっ太い精神力してなきゃ今頃倒れちゃうよ』

黒「褒めてるんですか貶してるんですか」

藍『全力で褒めてるよー!』

黒「…なら許しますけど」













再び花に視線を落とした黒子に倣う様に視線を落としゆっくり言葉を紡ぐ











藍『私の幸福』

黒「は?」

藍『あなたは幸福です』

黒「…花言葉ですか」




こくり

黒子もしゃがみ跪くアキラと同じ目線にする












藍『今は無理だけど…いつかそう胸張って言えたらいいなって…思った』
















花越しに誰を想い誰に投げつけた言葉なのか言わなくても黒子には理解していた

アキラの顔が先程見た赤司の表情と被り似た者同士で頑固者同士だと心底思った








黒子はこっそり携帯を取り出しアキラの蕩けた様な愛しそうに悲しそうに複雑に混ざった笑みを数ヶ月ぶりに撮った









藍『…まさか今とるなんて思わなかったよ』

黒「シャッターチャンスはいつくるか分かりませんから準備していました。まだまだですねアキラくん」

藍『…だね』











撮った写真を保存し1度携帯を仕舞う。赤司には後で送ればいい

それよりも何時間も黒子を待ち冷え切った手のアキラに言わなくてはいけない事があるのだ












黒「アキラくん…今年も祝ってくれてありがとうございます」

藍『いえいえ。ボクが祝いたいだけだから気にしないで』

黒「それでもです。アキラくん。僕は皆に祝って貰いました。僕は恵まれてます。笑顔で祝って貰えるんですから…だから」













じっと黒子を見て続きを待つアキラに向けやんわりと微笑む












黒「__僕は、幸福です」













花言葉を胸を張って言おう




今は言えないキミ達の変わりに




















暫く絶句してやがて苦笑を浮かべ一言







藍『__いいなぁテッちゃん』














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