黒子のバスケ
□オリオンのままに 21Q
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先生達に見つかると面倒臭いことになるから一切の電気をつけずに第4体育館から教室へと走る。途中スピード出し過ぎて何度か壁や柱にぶつかりそうになったけどなんとか避けて目的地のドアを開ける
がらっ
征ちゃんはボクの席に座り机にうつ伏せの状態で顔を伏せてた。見つけられた安心感と放置していた罪悪感で複雑だが近寄り前の席のイスを借り征ちゃんに向き合って座る
丁度良い位置に背凭れがあるからそこに両腕を置き顎を乗せる。もしこれが夕方ならムードもあっただろうが生憎いまは夜で真っ暗。征ちゃんの赤い髪もはっきりと見えずに残念だ
例え色がはっきり見えなくても触り心地は相変わらずサラサラで好き放題髪を梳いてると寝ぼけ眼でむくりと顔を上げる征ちゃんと眼が合う
長く赤い睫毛をぱちくりさせこてん、と首を傾げてボクの名前をのんびりとした口調で呼ぶ
「…アキラ?」
「うん。お待たせ征ちゃん」
「…、ッアキラ!?」
完全に眼が覚めたのか驚いた声を上げた征ちゃんの口を手で塞ぎ強制的に黙らせる。びっくりしてる征ちゃんに置いてあったボクと征ちゃんの荷物を持たせ立たせる
「なに、どうしたの」
「征ちゃん。抱っことおんぶと姫抱きどれがいい?」
「……おんぶ」
ボクの意図を理解したらしく呆れ切った顔で渋々言う。反論しても聞く耳持ってないとも分かってるらしくやけに素直だった…いやいつも素直な方だけどさ
席を立ちしゃがむと容赦なく背中に乗ってきた衝撃を堪えて征ちゃんを落ちない様に後ろに手を回し立ち上がりそのまま教室を出る
体重軽いねと言えば首に回る手に力が籠り息苦しくなって直謝った。解放されて後ろから不満気な声が小声で聞こえる
「軽くなんて無い。アキラと同じ位ある…筈」
「それは四捨五入してのものでしょ」
「…いじわる。ばーか」
「好きな子をいじめて何が悪い」
照れたのか無言で首元に熱い顔を埋めてくるのがとても愛らしい。自然とボクも嬉しくなり笑顔を浮かべながら玄関を出て立ち止まり第4体育館の方向を向き明かりが消えている事に気付き止まってた足を再び進め帰路へ歩む
時折征ちゃんを背負い直し互いに無言のまま歩く。時間が時間だから擦れ違う人もいなければ車も数える程しか合わない
それでも気まずいという雰囲気では無い
どちらかといえば落ち着いた静寂に近くて安心できる無言だったからそれに甘んじて口を閉じていたが征ちゃんがぽつりと零し静寂は破られた
「さっき教室でアキラの顔見た時…」
「ん?」
「随分すっきりした顔してたなぁって思ったんだが」
「…そうだね。征ちゃんに言いたい事があるんだけどボクは今、征ちゃんの家に直行してキミだけを家に返そうかなって思ってるんだけど…どうしたい?」
足を止め顔を征ちゃんの方へ向けて意地悪くニヤリと笑う
ムッとした後に耳まで赤くした征ちゃんの潤む赤い眼に睨まれるがまったく怖くない
普段ストレートに言葉を言うボクが遠まわしに言った言葉の意味を理解した征ちゃんは恥しそうに言う
「今日も泊まるからアキラの家に向かって。あと今日はアキラが俺の為に晩ご飯作れ、ばかぁ!」
「…それだけ?ボクに言いたいことない?」
「……っ家にかえりたく、ない。アキラともっと一緒にいる」
ぎゅぅ、としがみ付く征ちゃんに『よくできました』と声をかけ征ちゃん家に向かおうとしてた足をくるりと反対向きにしてボクの家に向かう
自分で言ったのに言わされたとごねる征ちゃんを軽く聞き流し機嫌が少しでも良くなるように晩ご飯は湯豆腐にしてあげようと考えた
ぐちぐち文句を言う征ちゃんがボクが適当に聞き流している事に気付き苛立って首筋をがりり、と歯を立てたのには本気で驚き声をあげない様に奥歯を噛み締める
ジト目で見ればしてやったりとニヤリと笑ってる姿が段々ボクに似てきたなと思う
…後でたくさんキスマつけてやろう
「アキラ。俺に何か言う事ないか」
いくらか機嫌か上を向いたらしく悪戯成功の時の表情のまま聞いてくる
「そーだねぇ…“待っててくれてありがとう”かな」
自主練終了後もボクを“待っててくれてありがとう”
ボクが言い出すまで“待っててくれてありがとう”
1文に込めた想いを汲み取ってくれるであろう征ちゃんにさらりと言って早足で自宅マンションのセキュリティを解除していく
黙々とセキュリティ解除をするボクの耳のすぐそばでクスクス笑う声が聞こえて背筋がざわざわする。見なくてもわかる。征ちゃんが笑っているんだ
「笑いすぎ」
「ふふ、仕方ないだろ?込み上げてくるんだから」
「…征ちゃん降りて、笑ってる顔見たい」
「だが断る」
降ろそうとボクの手が征ちゃんを支えるのをやめると両足がガシッと腰に纏わり付き首にまわる腕も離れるものかと力を込める
ジタバタと互いに格闘してる内にエレベーターが到着し終戦となる。ボクが仕方なく折れて征ちゃんを支えてあげるとこうなると分かってたみたいに満足気に微笑み力を抜く姿に敵わないなぁと零した
それでも征ちゃんから移ったみたいに顔は笑顔のままだった
エレベーターに乗り込み最上階のボタンを押しドアが閉まると同時にリラックスして隙だらけの征ちゃんに掠め取る様にキスを送り茹でダコ状態になった征ちゃんを見てたのはボクだけで、何かが満たされた気がした
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