黒子のバスケ
□オリオンのままに 21Q
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散々のんびりしていった紫原が屋上を去って早数時間。夕日に照らされた屋上なんて最早過去の光景
今は月の光に照らされもう間もなく学校の門が閉じられる時間帯に突入した
部活動終了時刻など等に過ぎて校内に残っているのは教員くらいだろう。こんな時間まで学校にいた事なんて無い為普段の自分ならワクワクして喜んで探検でもしていただろうか
生憎そんな気分にはまだなれない
むくりと横になってた体を起こしゆっくりと立ち屋上を後にする。ずっと横になってた所為か体があちこち軋んだ
第3体育館をギャラリーから覗くがさすがにこんな夜遅くまでは誰もいない。昇格テストは第4で行われたからそちらに移動すると確かに明かりがついててボールが跳ねる音が聞こえた
こっそりギャラリーから見下ろすとテッちゃんがシュート練を何度も何度もしていた。ガツンッとリングに弾かれあらぬ方向へ飛ぶボールを追い掛けまたシュートしては弾かれ…何度も繰り返している
…昇格テスト後何時間もこうやってひたすら練習していたんだろうか?
何度目かのボールが弾かれた際ふとボクを見つけた様で汗の滴る顔をタオルで拭いながら練習を中断してボクの真下へとテッちゃんがやってくる
どこか呆れた眼と声をしたテッちゃんが声をかけた
「何してるんですか。こんな時間に」
「テッちゃんに言いたい事があって残ってたんだ」
「あ、そういえば僕も言いたいことあります」
思い出したように付け加えた言葉の続きを促すとボクが知っていた内容を投げつけてくる
「テスト落ちました」
「…そう」
「アキラ君は僕が落ちる事知ってたんですか?」
「…そうだね」
あっさりと返したボクに「そうですか」といつも通り返し下からじぃっとテッちゃんが熱い眼差しを送ってくる
いつテッちゃんに問題を言おうと頬杖をつき考え込むとテッちゃんが眉を寄せていたのを見て首を傾げる
まだおかしなこと言ってないよね?なんで怒ったような顔してるんだろ
「アキラくんが最近様子おかしいのは僕関係の事が原因ですよね」
「断言しちゃってるのにボクに聞くの?」
「僕関係の事ですよね?キミがおかしくなるのは」
じっと見てくるテッちゃんに揚げ足取りなんて効く訳も無い。ましてや茶化しなんて聞く耳持ってないんだね
頬杖をやめ手摺りをぐっと力強く握る
ボクの周りってホント観察力高い人多いなぁ。ヘタに嘘つくと相手が困ってしまうなんてびっくりしちゃうよ
「それね、むっくんにも征ちゃんにもボソッと言われた…そんなにボク分かりやすくなったの?」
「…どちらかと言えば分りやすいです。でもアキラくんは自分の大事な人達にだけ弱味を見せると言った方が正しいと思いますよ」
「はは、大事な人ねぇ」
渇いた笑いが出た
自嘲混じりの笑みと共に
それを見たテッちゃんがまた厳しい顔をする。さっさと吐けと眼で訴えられ逃れそうに無い…逃れる気なんて無いんだけどね
下の水色を見つめ返しぽつりと重い口を切る
「テッちゃんは何で数値が伸び悩んでいるか、検討がつく?」
こてんと首を傾げ厳しい眼が消える。暫く黙り考えが纏ったのか答えが返ってくる
「スランプか…停滞期なのかと」
「それじゃ無いね」
「……成長の限界が来た、とかは?」
思わず呼吸が一瞬止まる
花丸がつくレベルの正解が出た途端これだ。どれだけ認めたくないんだろう
ボクの異変にすぐ気付く彼のことだ。たったひとつ呼吸を止めただけで理解してしまったらしい
視線を下に下げ首にかけてるタオルを力強く握り直にバッとボクを見上げ強気な瞳で見返してくる。その瞳には光を失っておらず思わずボクが眼を見開く
「僕は簡単には諦めません。例えキミが視た数値に限界が来てたとしても簡単に諦めてあげません」
それを聞いてどこか安心した
テッちゃんは相変わらずボクの光だと信じて疑わない
ボクの眼が視た数値に恐らくは動揺してるだろうに。それを受け止めた末に簡単に認めてあげない、なんてテッちゃんは本当に男前だ
(本当にずっとテッちゃんは変わらないね。流石ボクの神さま…)
憑き物が落ちた様なすっきりとした顔で微笑むと普段無表情に見えるテッちゃんの顔が口元を少し上げて微笑み返す
__もしかしたらボクは無意識の内にテッちゃんを試していたのかな。疑っていたのかな
心は移り変わるものだからテッちゃんだって例外じゃない。数年前と今じゃ思考は大きく変わるものだから
だからテッちゃんならきっと大丈夫、のきっとの部分を信じる事を諦めかけていたのかもしれない。現に大事な事を言うか言わないかでここまで思い詰めてた時点で全て今思った仮定も肯定に変わってしまってたね
もう1度頬杖をつき瞼を閉じて溜め込んでいた溜息を吐く
深呼吸を1度行いパッと瞼を開く
__神さまだとか勝手に神格化しといて勝手に受け止めてもらえないかもなんてネガティブになってバカみたい
テッちゃんは絶対ボクを裏切らない。誰よりも強い意志を持つ瞳を見て何故直に納得しなかったんだろう
「ボクもテッちゃんが数値を覆してくれる事を期待してる!その為だったらなんだってするからっ」
にっこり笑い手摺りから身を乗り出して腹から声を出すとビリビリと体育館に響く。テンション上がり過ぎたと反省しつつ「煩いです」と返ってきたのにまたテンションが上がる
今までのローテンションが嘘の様に思える程一気にテンション上がったボクを見てテッちゃんはぱちくりと眼を瞬かせる
「なんでも?」
「うん!」
「__毎日バニラシェイクを献上しろと言っても?」
「いいよ!でも征ちゃんに怒られても知らないよ」
「くっ…じゃあ来月のイベントも受かったのでコスプレして応援してください。前に頼んだ奴とは別でお願いします」
「受かった?ん?…よくわからないけどいいよ」
「当たり前ですけど赤司くん絶対連れて来て下さいね!コスプレ衣装は任せてください」
「……それボク買い取るから汚してもいい?」
「ぶはwwR指定の予感w写メと動画お願いしますねっ」
「うん草生やすのやめてくれたらね」
「おっと除草…」
さっきまでの無表情どこ行ったと思う位腐のスイッチが入ったテッちゃんにデレデレと微笑みつつ了承の意を伝えるとふとボクをじっと見て首を傾げていた
同じ様に首を傾げると動作を止めたテッちゃんが不思議そうに聞いてくる
「今更何ですけど赤司くんはどうしたんですか?ちゃんと帰宅させたんですか?」
「え?もう帰ったんじゃないの。こんな時間だしてっきりむっくんと帰ったと思ってるんだけど…まさか」
「…赤司くんの一途加減を甘く見てましたねアキラくん。絶対どこかで待ってますね」
サァと顔から血の気が引き慌ててメール確認をすると案の定メールが1件
それも1時間前に受信したらしく相手は征ちゃん
恐る恐るメールを開くとそこには1文のみ書かれるだけで気構えてたこっちが拍子抜けした
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TO アキラ
FROM 征ちゃん
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教室
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たった1文。そこにどれだけの想いが籠められたかなんて曖昧にしかわからないけど征ちゃんがボクをずっと待ってるんだとははっきりわかった
携帯画面から顔をあげるとシュート練の練習を再開してたテッちゃんがボクを見ずに「早く行って下さい」とだけ言い放つ
淡々とじゃなく仕方ないなぁとでも思いながら言ったと丸分かりする言い方だったけど軽く感謝を述べて教室へと一目散に走り抜けた
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