黒子のバスケ

□オリオンのままに 20Q
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「そういえばもうすぐ昇格テストだな」



唐突に切り出した声はどこか弾んでいる様にも聞こえた

ぎゅっと細い腰に力を込め直に解く。不思議そうに首を傾げる征ちゃんの顔を見れないボクがいた




「確か今月末にあるんだっけ。1軍に数人上がるからよろしく」

「…その中にお前たちはいるのか」










お前たち

ボクとテッちゃんの事だというなら…











無言

日本では肯定と見なすらしく少しの沈黙を保って征ちゃんが「…そう」と呟いた











心なしか背中に回る手に力が籠ってる気がする






征ちゃんがきっとボク等が上がってくる事を心待ちにしてるんだ。分かってるよ








でもね、大きな問題が発生してるんだ

どうにも大きな壁がテッちゃんに立ちふさがりボクにとっても初めての経験にどうすればいいのか分からない

テッちゃんにも言ってない大事な事を征ちゃんに先に言うべきではない。だから口を閉じた










…もう暫く。もう少しだけテッちゃんの数値の様子を見よう

それでボクの見間違えだったならいいんだけど








自然と俯くボクの頭に征ちゃんからキスを落とされびっくりして顔を上げる

柔らかい笑みを浮かべた征ちゃんが落ち着いた声で囁く











「アキラが言ってくれるまで待つよ。ずっと待ってる。だから俺の前まで気を張らなくていいよ」














思わず、目を見張る



言われた言葉が溶け心に沁み渡る

他者に言われてもここまで響かない。征ちゃんだからこそボクに響くんだね










私的にそこまで気を張ってるつもりは無かったけどそうは見えなかったらしい











そこまで追い詰められてる?




いや、違う。本当に追い詰められてるのはボクじゃないんだ

わかってて甘えるなんてズルイ奴だよ。ボクは












征ちゃんをぎゅうぎゅうにハグして擦りよる。「痛いよ」と聴こえたけど征ちゃんは少し笑ってた













「もう少しだけ我慢して」









ハグの痛みも、ボクから言い出す内容も全部…全部





「…ん。待ってるから」

「ありがと、征ちゃん」

「なn」








擽ったそうに微笑む征ちゃんの言葉を遮ってキスをした。何も言わず只受け止めてくれる征ちゃんの口を解放してもう1度ハグをする









今度は力を入れ過ぎないように気を使うとバシッと背中を叩かれ眉を顰めた征ちゃんが不満そうに文句をつける










「気を張るなって俺の中では気を使うなとも取れる言葉なんだ。だから、痛くてもいいから抱き締めてよ…言葉にできないなら行動で俺に教えてよ」

「…それは困ったね」

「なんで?」

「征ちゃんを壊しちゃいそうだもん。色んな意味で」











何をいまさら、












そう軽く呟き征ちゃんからぎゅうぎゅうに絞りつくすかのように抱き締めてくるのを抱き返し戯れる

俯いてた顔も戯れてる内に征ちゃんをまっすぐ見れる程になり少しだけ肩の荷が降りた気がした。自然とふにゃ、と笑えば頬を包まれホッとした笑顔が見えた












「…やっと笑ったな」

「征ちゃん?」

「アキラの薄ら寒い作り笑顔なんて笑顔じゃないからな。もっと俺で楽になれよ、ばかぁ」

「__…っ」














なんと言えばいいかな

確かにボクは征ちゃんが好きだよ。セックスも何回もしたよ、通い妻みたいな事してもらってるよ

征ちゃんを愛しいと感じたりする事は日に日に増えてるよ












でもね











ボクが心から望むのはいつだって心底からの言葉


愛の言葉よりも安心できるような言葉が欲しくていつだって渇望してる












体も温度も二の次で。例え征ちゃんでもそれはボクの中で変わらなくて

征ちゃんはあまりボクに言葉を送らないから、ボクばっかり言ってたから…









ほんと、不意打ちだよね








どうしよう。惚れ直してしまうよ















「Ithink very tenderly of you」













両手で顔を覆い熱く感じる頬を隠しながらくぐもった声で小さく呟く


すると征ちゃんが「あ、ぅ」「アキラ…」などと恥ずかしそうに言う声に顔を上げる。ボクと同じくらい顔を真っ赤に染めた征ちゃんが眉を下げ恥ずかしそうに視線を下に向けてた












その姿にピンときて思わずガッと征ちゃんの両腕を掴みびっくりして顔を上げたその瞳をまじまじと見て恐る恐る口に出す

瞳には征ちゃんの髪と同じ色をしたボクが恥ずかしそうに頬を染めていた












「まさか、意味わかったの」

「…うん。アキラがよく英語使うから独学で勉強してて、わかった」

「…あぁああ…!もう、絶対分からないって思ってたのにぃ」










全ての力が抜け崩れ落ちるボクを征ちゃんが支える

頭をぎゅっと抱かれそっとキスが落ちてきた














「俺も、アキラの事がたまらなく愛しい」













それは甘くてじわじわと侵食する言葉

どこかむず痒く感じて変な感覚だけど決して嫌じゃない











また、溶かされる

キミにまた1つ堕ちてしまう















征ちゃんはボクが作ってた壁を感じてたのだろうか。それとも無意識に気付いたのか

ボクが人を愛する事に内心怯えてるなんて…馬鹿みたいでしょ?

表立ってなんて幾らでも繕える。知らない人にだって旧友のように接することは苦では無いんだ。それが友人関係としてなら












でもキミは違う

征ちゃんはボクの中で特別で。自分でも信じられない位キミが大事なんだ










「(そんなキミに壁を取り壊しきれないボクを許してほしい)征ちゃん。もっと言ってくれない?」

「アキラが心から愛しいよ。アキラ…だいすきだ」

「征ちゃん。本当に、好きなんだ。愛しい…んだと思う」

「アキラ?」

「オレが、変わらなきゃ…せっかく」














ボクを、オレを好きだと、愛しいといってくれる征ちゃんが傍にいるのに裏切りたくない















征ちゃんが近くにいると嬉しくて愛されてると実感できる。とても充実してて楽しくて毎日が続けばいいと本気で思う



同時に自分の中の融けない氷がゆっくりと溶解し始めてるのだと気付き焦ってる


完全に溶けた後をどうすればいいのか対処の仕方が分からない。それが怖い











それを融かす原因が征ちゃんだと知ってるからこそ溶解を受け止めていこうと、ボクが変わらないといけないんだ













視えない壁も言葉で壊してくれ

ボクも言うから少しでいいから欲しい言葉を言ってくれ

本当は弱いボクを、












「もっと愛してくれ…セイジュ」

赤「!」











縋る様に征ちゃんの背中に手を回ししがみ付く。離れないように。もっと近づく様に

ボクの頭を抱えたままの征ちゃんが応えるように更にボクの頭を抱き締める




きつく閉じた瞼にキスを落とされゆっくり眼を開き強気に微笑む征ちゃんをきょとんと見返す








「俺の愛は重いよ?アキラこそ潰れてしまうぞ」

「…それは、期待させてもらおうか」

「ふふ。安心しろ、俺も潰れてあげるよ」

「……ホントに溶けちまいそうだよ」

「ん?一緒に溶ける方がいい?」

「どっちも頼むよ」








遠くの空で曇天の隙間から僅かな光が差し込み少しずつ曇天を押し退け光の量を増やして辺りを照らし始めた








溶け始めた氷は吉か凶か





できるなら吉であれ、と願って征ちゃんの首筋に顔を埋めてまた、縋った













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