黒子のバスケ

□オリオンのままに 20Q
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「…」

「よ、よお。サボりか?」

「…なんでザリガニ抱いて寝てるの」

「ザ、ザリ子がこうしろって言ったんだよ」










屋上の扉を開けた先には__







___青峰がザリガニとランデブー中でした








…突っ込まない。あえて突っ込まない

そして見なかった事にしよう。うん






何故か伝う冷や汗を拭い青峰に回れ右をして大人しく屋上のドアを閉め保健室へ向かうボクの背中に焦った声で引き止める言葉が投げられ仕方なくドアから覗き見る


顔だけチラッと見せると青峰が大事そうにザリガニを胸に抱えながら必死に手招きしてる…手招きの速さが尋常じゃないからきっとコイツ飛べるんじゃないかって本気で思った


浮力的な意味で








「ちょっと頼むから変な覗き方すんなって。まじこっち来い!コモン!」

「come on?」

「そうそれだ。コモン!」









あまりに酷い英語力に絶句しながら青峰に向かい合う形で胡坐を掻く


さっきまで目を奪われてた青空も眼の前の青峰withザリガニに霞みどうでもよくなってしまった

素直に保健室行ってれば征ちゃんが来てくれて色々できたかもって思うとか…軽い現実逃避かな。いやしたくもなるでしょ!彼の黒歴史に立ち会うなんて嬉しくもなんともないもん









「おいシカトすんな帰国女子」

「…英語ならしょうがないけどさ、日本語も間違えてるってどうなの。ボクと国籍変わる?」

「やべぇ俺アメリカ行ってもファックしか言えねぇ」

「アッチでファックされておいで」

「お、俺にはザリ子がいるんだ…!浮気なんてできっかよ」








胸に抱くザリガニがシャキンシャキンとご自慢の鋏で青峰のネクタイをざく切りにしているのに当の本人はまったく気付いていない








ザリ子だっけ?

彼女が人間だとしたら青峰は拉致した犯人ぽいね






可哀想な位一方通行の愛情というか…あ、ダメだ。可哀想しか言葉がでてこない

思ったままの感情をした眼で見てやれば青峰はようやくアスファルトに散らばるネクタイの残骸に気付き「ザリ子おおおお!!?」とショックを受けた声を響かせる












…あらら。異種間での恋愛って難しいんだね

そうだ。テッちゃんに写メってたまにはボク等以外のネタも提供してあげよう





パシャパシャ








「てめっ助けろよ!」

「取引先の社長に言うみたいに言ってよ」

「助けろください!そこのカゴとってくれっザリ子どうしたんだ!やめろぉお」

「(日本語が…)…カゴ、カゴ…あ、これか」







シャキンシャキンとネクタイの結び目までざく切りにしたザリ子はブレザーに手を掛け始めた。青峰が胸に抱いてたザリ子を必死で服から離し手を空中に伸ばしなんとか暴れるザリ子と距離をとる



キョロキョロ見渡し傍にあったプラスチック製のカゴを手に取り蓋をあけザリ子を回収し収納して再び蓋を閉じた







脱力してアスファルトに倒れ込む青峰のブレザーはなんとか無事だったらしいがワイシャツの胸部分までザックリ逝ってしまったらしい。黒のタンクトップが見えて地肌と大して変わらない事に青峰は何の違和感も持たなかったんだろうか





カゴに入れた途端に大人しくなったザリ子が入るカゴを大の字で倒れてる青峰の頭部の近くに置けばカッと眼を見開きデレデレした顔でカゴに頬擦り












数メートル距離をとり胡坐を掻いて座りこみ呆れ眼で青峰を見てるとバンッと背後からドアを荒く開く音が聞こえ反射的にそちらを向く

つい先ほどまで見てた人物が彼らしくも無くどすどすと音を立てボクの眼の前に立ちムスッとしたままなのでとりあえず声をかけた










「あれ征ちゃん。テストは?」

「……アキラ…!」

「え、何で怒ってんの」











眉を寄せ怒りを露にしてる征ちゃんがボクの膝に跨り我が物顔で腰を下ろし対面座位の形になる。近距離でベッラに睨まれるってあまり嬉しくない…








胸ぐらを掴まれガツンッと額と額がぶつかり鈍い痛みで生理的に目が潤んだ


痛みを和らげようと額に手をやろうとしたのを征ちゃんの顔を見て、やめた。征ちゃんの腰に両手を回し泣かない様に我慢してる可愛い子に困った顔で笑みを作り髪と同じ色に変わってしまった額に優しくキスを落とす





触れた額はじんわりと熱くて目尻に溜まってた涙が一筋だけ伝う




頬にできた涙のラインを舌で拭い瞼に、額にキスをすると小さい声で弱弱しく声がきこえた。ぎゅっと胸元のブレザーが掴まれるが大した事じゃないので自由にさせる

伏せている赤い睫毛は痛みが引くまで開きそうにないのが残念だ。早く痛みが引く様に何度も何度も額にキスを落とし時折唇にも落とす




…征ちゃんはまだ痛がってるのにボクは7割痛みが和らいでるってなんだか申し訳ないや










「…いたい」

「ボクも少し痛い」

「アキラが保健室行くって言ってたのに…いなかった。俺いっぱい探したのに」

「屋上の方がいいかなって部屋出た時思ったんだ。追ってきてくれたの?」

「うん」




じーっ





閉じてた赤い瞳がゆっくり開きボクを見て花が開いたように笑う









…もしかしてさっき暴走したのはボクを見つけた安心感からの行動なのかな。それなら素直に「寂しかった」って甘えた方がよかったんじゃない?

おでこゴンッをして痛みに泣きながら甘えるより遥かに身体的損傷が軽いからね








ていうか可愛い。征ちゃんの笑顔が可愛いくて思わず手が腰ラインを伝い太腿を撫でてると顔を真っ赤にしたままキッと睨んできた



ごめんごめんと軽く笑いながら謝るとまた拗ねた









「変態っ」

「その変態を好きな征ちゃんだって変態だ」

「意味分かんない、も…やめろ」

「はいはい」




「…やべぇ赤司が普通の女に見えてきた」

「っ!?なんで青峰がいるんだ…というか見てたのか…!?」

「おー。ザリ子も一緒にな!」










ボク等をガン見してた青峰が我慢できずに口を出しようやく征ちゃんがその存在に気がついたらしい。どんだけボクしか見えなかったの

シャキンシャキンと鋏を鳴らすザリ子を見つけた征ちゃんは首を傾げ訝しげに尋ねる











「なんで伊勢海老を青峰が持ってるんだ」

「ザリ子は食用じゃねーよ!俺の大事なペットだ」

「…?伊勢海老をペットにするなんてアホだな。さっさと食べればいいだろ。それに伊勢海老だって食べられる事を望んでるに決まってる」

「 !? そうなのか…ザリ子」







青峰が呆然とザリ子を見下ろす

シャキンシャキンと鋏を鳴らして何を言ってるのか分からない。むしろ今すぐ病院が来い











悪戯心が働いたボクはニヤッとほくそ笑みザリ子のアフレコを裏声でしてみる













「いやよ!食べられたくなんてないわッ(裏声)」

「!だよな。そら見ろ、ザリ子が喰われたくないって俺の傍にいたいっていってるじゃねーか!」

「別に違う人でもいいわ(裏声)」

「ザリ子ぉおお!?」









ザリ子に一喜一憂してる青峰を見るのが面白くてアフレコする声が震えない様にするのが大変だ


征ちゃんが楽しげにザリ子役に徹するボクをジト目で見て止めるのを諦める。そのままボクと同じ表情を浮かべ第2のザリ子役として裏声を出し始めた












「サボり魔の青峰なんて嫌いよ(裏声)」

「ザリ子どうした声変わったぞ?」

「ちょっと邪魔しないで頂戴!アホ峰騙されないで。アレは第2の私なの(裏声)」

「は?、え…アホ?」

「煩いわね。お黙りなさい(裏声)」

「はい(裏声)」

「ザリ子の気が狂った…やっぱり自然の中にいないとこうなっちまうもんなのか…」












ショボンと肩を落とす青峰は本気でザリ子が喋ったと思ってるらしい

且つボク等の滅茶苦茶なアフレコにザリ子が狂ったとも思うとか








…どんだけ素直なの。純粋なの

まるでボク等の心が汚いみたいに思えてきちゃうでしょ!










多少の罪悪感を感じながらショボくれる青峰を窺えばカゴを見下ろしたままで表情は窺えなかった

お通夜ムード突入しかけてる雰囲気の中、征ちゃんが厳しい声を出して青峰を叱る










「元々お前がどっかから釣ってきた奴なんだろう。そういう奴はあるべき場所に戻して好きに生かした方がソイツだって嬉しいだろ」

「でも、ザリ子…」

「ソイツには人の世界は生き辛いんだ。分かるな?苦しませて生かすのが飼い主のする事か?」

「…逃がしてくる」











肩を落としたまま青峰はカゴを持ちゆっくり立ち上がり屋上を出ていく

自分の所為でザリ子が狂ったと自責の念で一杯一杯なのだろう…って









「ボク等が変なアフレコしただけでザリ子普通のザリガニじゃん。狂うどころか普通のザリガニだよ」

「伊勢海老じゃないのか。いつも遠くから見てると伊勢海老に見えておいしそうだなって部活中思ってた」

「部活中?ザリ子を体育館につれていってたの?」

「うん。閉め切った空間に生臭い匂いがして不評だったよ」

「…征ちゃん。さっきの名言の裏でその言葉が本音かな」

「うん。青峰は自分のバスケをあのペットに見せたかったらしい。確かにバスケセンスだけは抜きんでてるからな」








バスケセンスねぇ


実際のプレイを見てみたいものだけどアイツ1軍だし。ボクが1軍に行く事なんて滅多にないし…

テッちゃんが1軍に上がらない限りボクも上がる気なんて無いから当分は見れないのかな











征ちゃんの肩に顎を乗せそっと頬を寄せる
制服の擦れる音が聞こえ背中に手が回る












赤い髪越しに見えた空には曇天が一面を占め今にも雨が降り出しそうな不安定な空模様に変わっていた











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