黒子のバスケ
□オリオンのままに 9Q
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再び買った冷たいバニラシェイクを無表情で啜るテッちゃんと溶けたシェイクを啜るボク
どちらともなくストローから口を離し口を開いたのはテッちゃんが先だった
「さっきの電話は彼女さんですか?」
「彼女?!!な訳ないよっ」
「アキラくん煩いです」
「う」
怒られた(しょぼん)
テッちゃんは淡々としてて今のボクはいつも以上に上がるテンションを抑えつつ必死に受け答えようとしてなんだか一杯一杯だよ
空回りしてるしいつもの女性に優しいジェントルマンは何処にいったんですか!!
あ。テッちゃん男だった
ボクには天使か神さまにしか見えないから性別なんてどうでもよく見えてくる。最早崇拝レベルだよねーなんて
「…アキラくんは無意識でしょうがこの席ついて通話した途端に恋するイケメンオーラが半端無かったです。僕まで視線をビシビシ受けたのは本当に久しぶりです。殴っていいですか」
「 This is a machine gun talk 」
(これがマシンガントークか)
「行き成り欧米風にならないでください。ここは日本です。殴っていいですか」
「ごめんなさい。テッちゃんさっきから殴っていいですかってアグレッシブだなぁ!」
「アグレッシブの意味が分からないですけどなんとなく暴力的だという意味だと思うんで殴っていいですか」
ピシッ
まったく痛くないデコピンを一発受けた
なにこれボク悪くないよ
困惑するボクを見てテッちゃんはふう、と溜息
澄んだ水色はまっすぐにボクを見る
アメリカに行って青色の眼の人と仲良くなったけどやっぱりテッちゃんのこの色が1番だよ!
にこにこと微笑むボクと無表情のテッちゃん。彼がいたからボクはいると言ってもいい。それくらい大事な人が眼の前にいて喜ばない筈がない
「アキラくんは変わりましたね。色々と」
「…だろうね。こっちでもアッチでも色々あればそりゃスレちゃうでしょ」
「こっちいた時既にスレてましたよ」
「そう?テッちゃんには優しかったでしょ」
「…そうですね。その部分は今も変わらないで安心しました」
そこでやっとふわりと淡く微笑みかけてくれてそれを直視したボクはつい拝んだ
「拝まないでください」
ペシッ
再び痛くないデコピンが飛んできた
話がどんどんずれていくこのユルさといい修正の為のデコピンといい本当に懐かしい
えへへと笑うボクを懐かしそうに眼を細めるテッちゃんが今現実にいるんだ
そういえばテッちゃんは同じ部活に入ったんだよね?前にアメリカに送られてきた手紙には帝光中のバスケ部に入りますって書いてあったからボクあの学校選んだんだよ
なのに入部して1週間。きょろきょろと大勢の中から薄い影の神さまを探せど見つからない
なぜだろう?眼の前に本人いるし聞けばいいか
「テッちゃん。バスケ部の3軍だよね?」
「なんですか藪から棒に。まぁそうですけど」
「ならなんでテッちゃん大好きなボクが君を見つけられないの?」
隠さず遠回さずストレートに
テッちゃんだってそのタイプだし今更か
テッちゃんはこの質問は来るだろうと踏んでいたらしく無表情のまま首をこて、と傾けウィンクもどき(両目でぱち)をボクに放つ
鼻血でなかったのはせめてもの救いだよジーザス!
はうッと奇声がでそうになったのを咽頭に無理矢理飲み込む
ボク限定スペシャルポーズをとってくれた後はすぐにいつもの背筋が伸びるあの姿勢に戻る
「避けてました」
ああ。やっぱり
テッちゃんが本気だせば逃げれるでしょうね。ボクも”眼”を使えばテッちゃんを容易く見抜けただろうけどそれを意図的にも無意識でも使わなかったのは__
「__なんとなくそうだと思ってたよ。信じたくなかったけど」
「勝手にがっかりしないでください」
ペシッ
3度目のデコピンは無痛なのに胸が痛くなった気がした
本気でしょげてるボクを慰める為こちらに白い手を伸ばして髪を撫でる
これも懐かしい。ボクはいつもテッちゃんに撫でられてとろけそうになっていたんだ
過去のきれいな思い出を瞼を閉じて見つめるボクにテッちゃんの子どもに話しかけるような優しい声が聞こえる
「僕がアキラくんを避けていたのは僕がいなくても君は変われていたから」
あの時のアキラくんは僕がいないと笑えなかったですし周囲と関係を持とうともしなかった
それを知っている僕からしたら今の君は例え仮初の関係だとしてもきちんと自分でとれている。階段を2段飛ばしで駆け抜けたようなものです
テッちゃんは嘘は苦手。だから紛れも無く彼の本心なのだろう
遠い自分を見てくれてたこの手が水色の瞳が大好きだ。恋愛感情なんてそんなの投げ捨てて彼の存在を神聖的に見えるのはボクがほしい言葉をいつもくれたからなのか。未だわからない
「もうひとつあるんです。これをきけばアキラくんの中で何かが変わるかもしれません」
どうします?
そう楽しげにきくテッちゃんの顔を見る為スッと瞼をあけ薄っすら笑みを浮かべるテッちゃんをまっすぐに見つめる
ボクのなにが変わるというんだろう
小さな疑問を奮い立たされ戦場に立たされた気分だ。ちなみにパーティはボクひとり。装備はひのきの棒だけなんだ
ボクの先を促す意を含んだ眼を見て今1度笑みを濃くして小さな口が紡ぐ言葉に眼を見開く
「アキラくんがいつも一緒にいる赤い髪の子。その子を見るアキラくんの眼が日に日に愛おしげにいた事を見て僕は安心したんです」
「ああ。その赤い髪の子も日に日にアキラくんを見る眼が変わりましたね。最近ではそこらへんの女子より可愛い笑顔を君だけに向けてます。リア充爆発しろ」
赤い子の名前は赤司征十郎くんでしたっけと呟く
ぱっとテッちゃんの手が離れていった事にも気付かずただテッちゃんの言葉を繰り返す
Q愛おしげにみていた。誰が?誰を?
Aボクが。征ちゃんを?
Q可愛い笑顔を誰が誰に?
A征ちゃんが。ボクに…いやこれは気付いていたけど
Qリア充とは?
Aリアル(現実)の生活が充実している人を指す。この場合仕事や金や恋愛、恋人も当てはまる
恋愛。恋人
そのワードが理解できた途端ボッと火がついたと錯覚する程頬が熱くなる
まって。まって!!
恋愛感情なんてない、お互いに無いって言ってたしそう思ってる!
征ちゃんがボクに恋愛感情が無いといったのは昨日の今日みたいなもので。ボクも無いって…
ボクの葛藤が顔にでていたらしくズズッとバニラシェイクを吸い上げるテッちゃんをバッと見る
ストローから口を離し放置していたストロベリーに手を出し自身の方へ引き寄せていたのを見なかった事にしようか
「第3者から見たらあいつらデキてそうだなと既に僕等の中では暗黙の了解になっています」
ズーッと溶けたシェイクを飲むテッちゃんの意見に眉を寄せた
「僕等?」
「君たちの席の後ろ全体の男女の暗黙の了解です。むしろ早よくっつけと野次を飛ばしています」
「テッちゃん…ボクと同じクラスなの?」
「はい。自己紹介から赤司くんにちゅーしてましたね」
やだもう。なんでこんなに色んな事が一気におこるの!!?
なんでボクの名字は席順が早かったんだ…!!いやそのお陰で征ちゃんと仲良くなったんだけどね
片肘をテーブルにつき随分と男らしくストロベリーシェイクを啜るテッちゃんは散々精神的に追い詰められてるボクを容赦なく攻め立てる。あれ攻めってこれでいいの?なんか怪しげふんげふん
「ちなみに僕がアキラくんに声をかけず影を本気で薄くしてたのは赤司くんとのフラグが立つと一目でわかったからです(ドヤァ)」
「今なら征ちゃんがボクにドヤ顔やめろって言った気持ちがよくわかる。やめてその顔」
フラグを折らない為に身を隠してましたと続けた言葉は流しとこう。うん
ていうか恥ずかしい。アメリカに羞恥心をおいて帰ってきたはずなのにまだ根が残っていたらしい
「小学校の頃そのフラグを見抜く才能なかったよね」
「小6のある日趣味が開花してフラグが見えるようになったんです」
テッちゃんの趣味イコール人間観察のことですか。先生
あの時は人の頭の上にフラグが見えて僕はアキラくんがいなくなっておかしくなったのかと思いました
ぼそりと言われた言葉に一瞬心臓が跳ねたけどすぐ元通りになる
テッちゃんが珍しくハッと表情を変えあわあわと白い手を必死に宙で動かし緊張した声色でボクに吐き捨てる
「や、やめてください!僕とフラグを立てるなんて僕とクラス全員の生温い視線を無駄にするつもりですかッ!!君が立てるのは赤司くんとでしょう!」
「大丈夫。絶対テッちゃんは恋愛対象になりえないから」
汝、神に恋するか?
いいえボクはしません
ぱきり
フラグがぽきりと折れたのを見てテッちゃんが心底安心して溜息をつきながらテーブルに倒れ込んだ
…どうしよう、征ちゃんに今すぐあって現実に返してほしい。切実に
遠い眼で明後日を見るボクを責める人なんて今いなかった
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