黒子のバスケ
□オリオンのままに 9Q
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携帯。あ、と床に落ちたままの携帯は未だ通話中の様で焦る征ちゃんとむっくんの声が聞こえる
テッちゃんと会って歓喜に騒ぐ体は震えがまだ止まらない。携帯を拾い耳に当てる手を必死に抑えテッちゃんに断りを得てトイレの個室へと駆け込み施錠。
ずるずると崩れ落ちそうになる体に鞭を打ち便座へと座り今度こそ力を抜く
はあぁ…
溜息さえ力が入って無くへにゃへにゃに聞こえてしまう。情けないね
「アキラなにがあった?!!」
ああ。征ちゃんが焦ってる所って珍しい。そう思うということは少しは余裕ができたのだろうか
頬が熱を持ち眼も瞼も熱い
会いたかった人に会っただけでこの有り様。どんだけ自分はテッちゃんを渇望していたのだろうか
ああ、そうだ。死ぬほどだ
アキラに光をくれた水色の彼は神さまのように特別で別格の存在。それは今も続いているのだと身をもって実感している
「…なんでもない、よ。ただシェイク溢しちゃって焦ったんだ」
「…嘘だな。お前みたいに図太い奴がそんな事で動揺なんてしないだろ」
「、もうなんで征ちゃん嘘見破るのー」
咄嗟についたウソ。なんでついたか理解できない。恐らく遠い”昔の癖”だ
征ちゃんの声で現実へ戻れるのかと熱い体が少しずつ冷めていくのをじわりと感じる
…やっぱ征ちゃんの声おちつく
ボクを呼ぶ声も好き。さっきみたいな焦る声だって。呆れた声だってすきだよ
征ちゃんがボクの名前を呼ぶとボクは征ちゃんの隣にいていいんだとそう思える。まるで隣(そこ)がボクの居場所だと声に出してほしいみたい。変なの
変な思考を消す為征ちゃんの声に集中しようと瞼を閉じる
「…今日ボクの家に泊まれない?一緒に眠りたいよ」
「な、ばッ」
征ちゃん、と我ながら切ない声で呼ぶ
ボクは征ちゃんに恋愛感情なんて無い。あっちもそうだと思う、現に言っていたしね
だから大切な友人に一緒に寝てなんてばかみたいだと思う。でもなぜかな。征ちゃんにあいたいんだ
メールした時はなんとなく癒されたいだなんて思ってたんだけどテッちゃんに会って舞い上がる自分を抑えつけたいのかな
征ちゃんに「現実だよ」なんて言ってほしいのかな。どんな言葉を吐き捨てていいからそばにいてほしい
ぐるぐると自分でも纏らない考えを断ち切る小さな声が耳を打つ
「…、わ、かった」
緊張したような声。電話の向こう側の表情が見れたらいいのに
今だけむっくんズルい。征ちゃんの顔見れてるなんてさ
征ちゃんの緊張をほぐす様に茶化す。くすくすと零れる笑いはオプションです
「ちゅーしかしないから安心して?」
「う、ばかッ先アキラの家に行ってるから用がすんだら帰ってこい。いいな」
早口で捲し立てた言葉はどこかボクを心配している声色で。なんだかくすぐったい
「…はーい。ご飯とか適当に済ませておいて。一応食材ある筈だし後シャワーも使ってていいからね」
「わかった。9時までに帰らないと先に寝るからな」
「早寝すぎるでしょ!」
ふふ
あ。征ちゃん笑った
「__少しは調子が戻ったみたいだな。じゃ待ってるから」
見透かされた感覚に揺れる。同時に安心した様に眉が下がり困った顔で笑みを作る
キミはボクよりボク自身を知ってそうだね
またね、と通話を切りふぅと息を吐く
耳に残る優しいアルトを思い出しながら熱の冷めた瞼を開く
生理的に眼が潤い視界がいつもよりきらきらと綺麗に見えた気がした
「征ちゃん本当凄いや…」
ボクが嘘ついてるのを直に気付いたのも凄いけど調子が戻ったことに気付いたのも本当に驚いてる
ボクの取扱説明書でも持っているのだろうか。ああ、自分で作ってそうだね
ボクの琴線に触れない様に真綿で包み込むように接する事に努めてる彼のことだから秘密裏にあの優秀な脳内に隠しているんだろう
携帯をブレザーのポケットに仕舞いトイレの鍵を開けて神さまへと会いに行こうかと覚悟を決めて踏みだした
戻るついでに待っている間に飲み干したであろう水色の彼が好きなバニラシェイクを購入し献上しようか
きっと眼を輝かせて機嫌を良くしてくれるだろうね
案の定機嫌がよくなったテッちゃんにまた悶え始めるボクを楽しそうに眺めるテッちゃんは男前でした…!!
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