ボーダーラインを飛び越えて 1

□twenty-seventh.
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 季節は初夏を迎え一週間も続いた試験から漸く解放され、全寮が待ちに待ったクィディッチ戦が開催される。

今回はグリフィンドール対レイブンクロー戦。スリザリンと違いラフプレー(反則行為)をする訳でも無いので安心して見れると言えるだろう。


 浮き立つグリフィンドール生に混じりレギュラスも本日のクィディッチを今か今かと待ち、珍しくも体をそわそわと動かしていた。

メリッサにも指摘されてしまい少々恥ずかしい気持ちにもなったが、やはり好きな物への好奇心や高揚感は消せそうにない。


 グリフィンドール側の応援席にて轟々と唸る熱い応援は、上空に影すら残さずに高速移動する赤と青のローブを皆が視線で追いかけ、一喜一憂の声を上げ続ける。

席から大分前のめりになりほぼ空気椅子状態で拳をつきあげ応援するシリウスは勿論だが、ピーターやリーマスまでも熱い歓声に混じり歯を剥き出しにして楽しむくらいだ。

ビーターであるジェームズが鉄砲玉の如く突っ込んでくるブラッジャーをレイブンクローサイドへ弾き返せば、メリッサまでも拍手をして喜びの声をあげる。

レイブンクローの動きも決して悪くは無いのだが少々ミスが多い。その所為でゴールへと本日六本目の加点が決まり、敵側の応援席はがっかりとした声を空に飛ばした。


 噎せ返るような熱い応援の中でレギュラスは一人黙り、背を丸めながらフィールドのあちこちを独特の羽音を立て不規則に移動するスニッチを視線で追いかけていた。

現在どちらのシーカーも見つけていないようでフィールドを見渡せる遥か上空にて留まり視線を必死に配る。もしあの場にレギュラスがいればとっくに試合は終えているだろうに。

長年シーカーであった癖か選手でも無いのに金色の胡桃サイズ程度のスニッチを、目で、耳で探す。


 応援席にいながら選手の感覚を研ぎ澄ますレギュラスの肩を弱く叩かれ、集中するのを止めそちらを見ると感動に頬を染めたメリッサが熱視線を送ってくる。

その反応に気付かれたかと勘付きレギュラスが口元に人差し指を立てて静かにするようにジェスチャーすれば、首が取れそうなくらい縦にふる。

キラキラとスニッチのように光って見えるいつにも増して綺麗なハシバミ色の瞳へ口角をあげて、小さく指先で手招く。すると拳ひとつ分の距離はピタリと埋められ腕や太腿がくっつきレギュラスの心臓が跳ねた。

自ら呼んだのに……と思うが嬉しいものは嬉しい。そんなレギュラスの思いを読み取れず興奮したまま何とか抑えた声でメリッサは言う。


「レギュラス君スニッチ見つけてる!」

「……良く分かりましたね。興奮し切っているから誰にも見つからないと思っていたのですが……」 

「そう?レギュラス君だけ凄く真面目な表情で何かを視線で追っているからすぐ分かったわ」

「メリッサは割と人を見てますね」


 褒められたと喜ぶメリッサの無邪気さに癒されながらも、時折レギュラスの視線はスニッチを探そうとフィールドへと向けられる。

たった今レイブンクローが加点した為にグリフィンドール生は一斉に落ち込み何人かが野次を飛ばす。左端のゴールの脇をスニッチが通ったのを見逃さなかったレギュラスの視線が再びスニッチに集中する。

右や上、左へ下へ。不規則に踊るスニッチを狙うレギュラスの視線。

フィールドを縦横無尽に飛び回り暴走するブラッジャーに当たりそうになったのを危ない動作で避ける姿に、メリッサが驚いた声を小さくあげた。

まるでスニッチの場所が分かると言うようにその場面で声をあげたのを聞き逃さず、レギュラスは目を丸くしてメリッサを見つめた。

驚きのままそれなりの声量が出そうなのを何とか引き絞り訊ねた。


「わ……危ない。ブラッジャーにスニッチが当たって壊れたら困るわ」

「見えてるんですか!?」

「スニッチの話だよね?うん。多分……あっ今お兄ちゃんの後ろにいるよね?」

「本当に見えてる……」


 メリッサが何てことは無い事を伝えるようにあっさりと指摘した場所に金色のスニッチはいた。

ジェームズがブラッジャーを打ち返す時に円を描くようにその場でぐるりと回るのを、何とか避けてふらふらと彷徨うスニッチ。

レギュラスがよくメリッサの視線を注視してみれば、レギュラスを見返してくる以外は六割ジェームズを見て残り四割はスニッチを見ていることに地味にショックを受ける。

言うなればシーカーとして経験を積んだレギュラスと同レベルで探し出せているメリッサの才能が純粋に羨ましかった。

同寮になるまでは一緒に観戦などしたことなど無い為にメリッサのシーカーとしての才能がここまでとは今まで知らなかったのだ。


(箒の操縦技術は別にして平衡感覚が規格外だったのは知っていたけれど……ポッター家の血筋?クィディッチの才能がおかしすぎる!)


 頭を抱え落ち込むレギュラスへメリッサはジェームズが点を決め手を振りながらも、機嫌がよさそうに言う。

「私だけに見える危ない物かと思ったわ。だって周りの人だーれも気付いていないんだもの」

「普通は気付けない物なんですよ?僕も最初は……いやでも割とすんなり見つけられたけれど、メリッサほどじゃありませんでした。何か見つけやすさあったのですか?」

 ショックから僅かに顔をあげたレギュラスの問いにメリッサは逃げ踊るスニッチを視線で追い、瞳の中に別の金色の粒子を一瞬だけ灯らせた。

瞬きひとつの間に消えてしまうそれは光の反射だったのだろう。

どこか夢見心地ともとれる眼差しとゆっくりとした口調で彼女は言う。

「金色……視界に金色が入るとすぐに分かるの」

「金色?グリフィンドールのローブの色も金が入りますけど、それでもスニッチが目立つんですか?」

「うん。とても、キラキラしているでしょう?」

 そこでふと目を閉じて深呼吸をしたメリッサが次に目をあけた時、先程までのゆったりとした口調も微睡んだ瞳も一掃されていた。

普段の澄み切ったハシバミ色の瞳とはっきりと自分の意思を伝えるメリッサがいるので、レギュラスは少し胸に引っかかった気分になる。

だがあまりにも何事も無かったように振る舞うメリッサに違和感は萎んでいく。

無い筈の記憶がたまに混在しているような素振りを見せる時があるので、それ関連だろうとレギュラスは流すことに決めた。

「人間なのに光物が目に入って反応するなんてカラスみたい!」

「……今度の贈り物は金色の何かに決定ですね」

「わあ!楽しみよ!」

 それでも今の彼女の言葉を忘れないように覚えておくように心に決めて、ぴたりと触れ合う腕や太腿の柔らかさにレギュラスは弱く寄りかかった。



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