ボーダーラインを飛び越えて 1

□twenty-fourth.
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 今日も今日とてグリフィンドールの寮点が刻まれる砂時計は穴が開いたように減り続ける。

悪戯仕掛け人が減点されたのならまだ怒りの矛先は向けることが出来るのだが……ここ数週間は表立った活動は自粛状態らしい。

それもそうなのだろう。彼等のリーダーとも言える存在がここ暫く泥のように落ち込み、毎度の授業で生ける屍状態の彼は机に倒れ込み再三の注意を無視し、度重なる減点を繰り返しているのだ。

文句を言おうにも白く燃え尽きた状態のジェームズを前にすれば、誰もが絶句し怒りを同情へと転化させ何も言えずにローブを翻す人数は既に三桁を越えた。


 飛行可能となった鳥が巣立つ勢いで毎時間減点され続ければ、日を追う毎に減点の点数もあがりついに二桁に突入する。

いくら周囲がカバーしようにも限度があり、悪戯仕掛け人全員が心身の疲労により食事の時間に机に蹲ることも多くなったようにレギュラスには見えた。

日々コツコツと加点していた寮生に冷たい目で見られることも増えた悪戯仕掛け人に同情する声は中々上がらない。


 その中でメリッサだけは、兄の落ち込み具合に責任を感じている様で俯くことも増えた。

レギュラスも彼女と辛い時も傍に居ると宣言した通り一日中傍にいて、少しでも気分が晴れる様にと色々な会話をした。

その度にメリッサの表情は夏の青空のように澄み切った笑顔へと変わるのだが、どうも寮の談話室の時点で減点魔と化した奴の妹として好奇の視線に晒されるのは嫌だと言う。


 そっと笑顔を潜め視線を落としながらもレギュラスの背中へ隠れた後にそっとローブを摘む仕草に、レギュラスがどれだけ言葉にならぬ喜びを味わっているか。

自分のことや兄のことで精一杯のメリッサには何一つ伝わっていないだろう。それでもレギュラスは日々彼女を背に庇い、そっと手を繋ぐ好機に胸を弾ませる。

その裏でジェームズやシリウスといった面々が苦労していると分かっていてもレギュラスは、現状が過程に過ぎないと決め結果として奇跡を引き寄せればいいと本気で思っている。



 そんな余裕のあるレギュラスと同様に上機嫌に見えるとある人物だけが、もう間もなく訪れるイースター休暇までの残り僅かの学校生活を満喫できるのだろう。

 










「こんにちわ。冬にしては珍しく晴れた日なのに随分と浮かない顔ね……メリッサ」

「……リリー……レギュラス君も。話し合いは終わったの?」

「はい。お待たせしましたメリッサ」

 セブルスとレギュラス、リリーといったいつもの研究仲間の集まる図書室の一角にて、メリッサは機嫌のよいリリーに声をかけられた。

その後ろにはレギュラスがおり普段は誰よりも先にメリッサへと駆け寄る彼が、いつもの距離感をリリーへ譲った様に一定の距離を保ったまま声をかけてくる。

メリッサが少々困惑しているのが見て取れたが……笑ったまま三人分は距離が開いたまま。何度も会話をしある種の相談役を担うリリーはメリッサの横に並びながら、小声で会話の糸口を垂らす。


「最近随分と暗い顔をしているじゃないの。また何かの悩み事かしら?」

「……そういうリリーは随分と機嫌がいいのね。最近は特にニコニコしてるから私でも分かるわ」

「そうね、このホグワーツに入って久しぶりに訪れた平穏に喜ばない訳が無いもの!」

 小声でも声を弾ませ喜びを全身から発するリリー。通常時の吊り上がった眉や目が幻なのかもしれないと思うほどにリリーの頬は緩んで見える。

その様子はリリーをよく知るセブルスですら「心の底から喜んでいるのだな」と評価を得るほどだ。

研究会の方も通常時よりも頭が回転してるのかアレコレと様々なアイディアを出すお蔭で非常に有意義な会議が出来た。その理由が何なのか知っているからこそレギュラスは苦笑するしかない。


 鬱憤の元へのストレスから解放されたハイな状態のリリーだったが、最初にメリッサへ断りを入れた後にあっけらかんと諸悪の根源へと言葉のナイフを切りつけた。


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