ボーダーラインを飛び越えて 1

□twenty-second.
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 昼食を終えた心地よい時間にレギュラスとメリッサは外へ赴き、大きいブナの根本に座り昼食に珍しくも会わなかった四人のことを話し合っていた。

「お兄ちゃん達が昼食に出ないなんて珍しいわよね。三年生って忙しいのかしら?」

「他の三年生は来てましたから四人の都合の関係で来なかったのでしょうね。きっとまたどこかで悪戯でも仕掛けているんですよ」

「……悪戯仕掛け人だものね」

 頬に手をあて小さく溜息を吐いたメリッサの一言にレギュラスは苦笑を浮かべるしか出来なかった。

「人を喜ばせる悪戯ならいいのに。フィルチさんに悪戯をしかけて怒らせてばかりなのよ……度が過ぎた事をいつかしてしまいそうで怖いわ」

 










 その日の授業終了後に昼間に来ていたブナの元へ行くと……最悪の現場に遭遇してしまい卑劣な行為に二人は目を疑う。

だが目の前にいるのは間違いなく目をかけてくれる先輩方と血縁者。それと……悔しそうに泥だらけになった顔で四人を睨み付けるセブルスの姿。

愚かでは無い二人は見た瞬間にこの現場の当て嵌まる名前を理解してしまうーーこれは虐めだ。決闘とは違い誇りなど欠片も無いのだろう。


 ジェームズとシリウスはニタニタと底意地悪い笑みを浮かべて、ピーターもワクワクしている。

ただリーマスだけは他三人とは違い笑みなど浮かべず気まずい様子で一歩後ろに下がり、誰よりも近い場所で傍観者の役目に徹しようとしているのだろうか。

悪質な笑みを向けられるターゲットとなるセブルスも近付いてくる四人に険しい顔をして、汚れた手で杖を向け口を開く。

 
 だが先にジェームズが容赦なく呪文をしかけ、セブルスは杖と共に数メートル吹き飛び、無様にも背中を打つ。

その様子をシリウスとピーターが吹き出し大口を開けて笑う。侮蔑を含む格下の相手へ向ける悪意に満ちた笑い声は、周囲の見えない空気の壁を蹴り上げレギュラスとメリッサの耳に突き刺さる。

悪魔のような笑い声。レギュラスも何度か記憶で遠目で目撃した事はあったが……何度見ても心地よい現場では無い。

顔を顰め視線で主に高笑いをあげる兄のシリウスを非難するが彼は何も気付かない。だが唯一の傍観者に徹していたリーマスが二人に気付き驚愕に震えあがり、青褪めていく。

 
「あ……レギュラス、メリッサ……っ」

 どうしてこんな所に。珍しくも顔に感情が浮き出るリーマスからは言葉以上の物が簡単に読み取れる。

高笑いし人を嘲笑っていたシリウスとピーターがリーマスの呼んだ名前に我に返り、同じくメリッサ達を振り返り……どうしてこんな所にいるんだと驚く。

すぐにピーターは忙しない鼠のようにキョロキョロと辺りを見回し逃げ場を探しているようにも見えた。それでも逃げないのはこの場に友人が留まっているからに違いない。


 シリウスが気まずそうにレギュラスから突き刺さる侮蔑の眼差しから顔を背け、杖を血管が浮き出るほど固く握り締めていた。

冷水を頭から被ったに等しい雰囲気の友人に気付かずにジェームズだけは、人を傷付けることに快楽を覚えた悪魔のような笑みで泥だらけのセブルスへと嬉々として呪文を浴びせ続ける。

「おやおや泥だらけだスニベリー!綺麗にしてあげよう、スコージファイ!」

 清めの呪文を向けるとセブルスの口から無数の泡がぶくぶくと溢れ、彼は苦しそうにもがき咳き込む。

それを誰よりもいい笑顔で見下ろすジェームズは……彼が一番大事にしている妹がどんな顔で息を飲んだかすら気付いていないのだろう。だから笑っていられるのだとレギュラスは嫌悪感でいっぱいになる。


 三十秒も経たずに泡は消えセブルスは肺を突き抜けるほどに深く酸素を吸い込む。噎せながらも呼吸を整えるセブルスは自分を苦しめたジェームズを、明確な嫌悪感で濡れる瞳で睨み付ける。

その姿を鼻で笑ったジェームズは、杖を遠くに飛ばされ反撃の手段が無いセブルスに無情に杖を突き付け、悪戯とは最早言えない呪文の数々を浴びせようとする。

その冷血な姿にかつての闇の陣営で拷問をする身内の容赦の無い冷たくも美しい顔と被さり……レギュラスはジェームズを恐ろしく感じた。



 きっとそれは他でもない血の通ったメリッサも感じる感情だったのだろう。

今にも泣き出しそうで悲痛な表情でジェームズを見つめて彼が呪文を紡ぐ前に、杖を向けて授業で習った事の無い……体が覚えている呪文を震える声で唱えた。

「エクスペリアームス 武器よ去れ……!」

 寸分の狂いも無くジェームズの杖を弾き飛ばし数メートル先の芝生へと杖は転がる。襲撃かと血走ったハシバミ色の瞳が、犯人を見つけ数秒固まる。

そしてセブルスへと見せた悪魔のような笑みとは正反対の慈愛に満ちて愛でる対象へと向ける眼差しは、綺麗な掌返しに相当するのだろう。


「やあメリッサ、今のは君がやったのかな?とても素晴らしい杖捌きだ。お兄ちゃんは嬉しいよ!」

 褒め言葉を発し自身の飛ばされた杖を回収したジェームズは演技俳優のように肩を竦め、臭いものを見る眼差しでセブルスを横目で見下して続ける。

「……でもねお兄ちゃんはこのスニベリーを悪戯しなければならないのさ。とても危険な闇の魔術なんかにハマる奴を正気に戻してあげる為に……わざわざ時間を割いてるんだ」

「ハッどの口が言うんだポッター……っ素直に言えばいいだろう、気に入らないから悪質な呪文ばかりかけるのだと!」

「スニベリー……君はそろそろ口なんて要らないだろ?僕が取ってあげようか。禁じられた森のグリズリーと交換するのはどうだい?」

 ケラケラ笑い、だが瞳には険呑な光を灯してジェームズは淡々と告げる。誰が聞いても本気の声色にセブルスは唇を噛み締めて黙る。

その様子をまた鼻で笑ったジェームズは険呑さを消し、メリッサにだけ向ける優しい物に切り替えそっと言い聞かせるように伝える。

その言葉にメリッサの瞳には今にも溢れそうな涙が揺らめき、強いショックを受けているように見えた。


「さあメリッサ……お兄ちゃん達は夕食には必ず出るから先にレギュラスと共に寮に帰るんだ。もうこれからは君達の目に触れない場所でやるから大丈夫。何も怖くないさ」

「それは、これからもこんな酷いことを……続けるってことよね……?」

「酷い事なんかじゃない。誰かがしなくてはいけないことなんだ。そもそもスリザリンと僕等の寮は敵対意識が強いから……ちょっと過激に見えるだけさ」


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